《子どもと教科書全国ネット21 事務局通信から》
★ 2025年度中学校教科書の採択に関する交流会
今年の中学校新教科書の採択の状況について、オンライン併用の交流会を持ちました。会場、オンライン含めて48人が参加しました。最初に4つの地区から報告がありました。(文責・事務局)
●【沖縄・八重山地区】宮良純一郎さん
2011年に八重山教科書問題が起こり、東書の公民を採択した竹富町が単独採択になった後、「子どもと教科書を考える八重山地区住民の会」は、石垣市と与那国町の子どもたちのために、育鵬社の公民の教科書採択に反対するとりくみを続けてきました。
今回、13年ぶりに育鵬社の公民が不採択になった背景として、現場の教員がつくる調査報告書が大きく変わったことがあげられます。
プラスの評価だけでなく、マイナスの評価も書けるようになったので、育鵬社と自由社の公民は13項目すべてにマイナスの評価がつきました。会議の中で、これまで使っていた育鵬社を推す意見は全くありませんでした。
八重山の「会」は、この間、①調査報告書が選定会議に反映されていない、②協議会の8名の委員のうち5名が教育委員で、審議機関としての独立性が担保されていない、③教科書選定の会議のすべ’τが非公開で行われている、という3つの問題を指摘し、改善要求を出し続けています。
教育委員会は「静誰な環境での協議」を理由に、頑なな回答を繰り返していますが、それに対する反論の見解を公表するなど、ねばり強くたたかってきたことの反映と言えます。
●【山ロ・下関市】熊野譲さん
4年前、下関だけが新規に育鵬社の歴史が採択されてしまった時は、大変驚きました。みんなで「下関市の教科書問題を考える市民の会」を立ち上げ、育鵬社の採択をひっくり返した地区の資料をもらい、話を聞いて、とりくみをすすめてきました。地域へのチラシ配布、入学式の門前での保護者への訴え。教育長や市教委とは何度も懇談しました。
教育委員会の傍聴は効果があると聞き、分担して行くようにしたら、確かに傍聴者のことを意識していると思える場面がありました。
中学の先生が、他の教科書には載っているのに、育鵬社には載っていないことがたくさんあるとチラシを作リました。ルター、リンカーン、イギリスで女性の参政権の運動をしていた人々など。それは、教育委員会の度に教育委員にも届けました。
県立高校の入試問題には、育鵬社の教科書で勉強していたら答えられない問題が、毎年いくつもあると書いたチラシは、議会でも取り上げられました。
前回は、採択候補の中で育鵬社は真ん中だったのに、「他の教科書はみな似たようなものだから、育鵬社と東書の2つから選びましょう」と言われて、採択されてしまいました。今回も同じことが起きましたが、今回は、「東書や他の教科書の方がずっといい」と発言があって2対2。教育長は、「デジタルのことなどを考えると、育鵬社は見劣りがする」と言って、東書になりました。
教育委員会に向かって外堀を埋めていくような、この間のとりくみが、ボディブローになったかなと思います。意見・感想の数は4、5倍、申し人れの回数は3倍に増えました。山ロ県にはまだ育鵬社を採択している地区もあるので、引き続きがんばります。
●【茨城・常陸大宮市】小室隆夫さん
常陸大宮では、今回、自由社の歴史と公民が採択されてしまいました。その元をたどれば、2014年に教科書無償法が改正され、採択地区の設定単位が市町村になった時に、県議会で執拗にこの問題を取り上げて単独採択を主張していたのが、当時県議会議員だった、いまの常陸大宮市長です。
その翌年、市内に居た「あたらしい歴史教科書をつくる会」の役員が市議会に単独採択を求める陳情を提出し、賛成多数で採択されてしまいました。
それ以後、市内の民主団体が「教科書を考える連絡会」を立ち上げ、「つくる会」系の教科書を採択させない運動をすすめてきました。2020年の採択の時には、現市長が就任していましたが、前教育長が「共同採択を維持する」と答弁し、「つくる会」系教科書の採択はありませんでした。
ところが2022年4月に教育長が替わり、市民が知らないところで単独採択が決定され、今回の自由社採択となってしまったのです。
「連絡会」はこの間、街頭宣伝やチラシ配布、学習会や映画会の開催、教育委員会の傍聴、教育委員や市内の小中学校全校の教師への手紙によるよびかけ、署名の提出などにとりくんできました。教育委員会は、私たちの声を「外部の圧力」ととらえ、「静誼な環境」の一点張りで不誠実な対応に終始しています。
常陸大宮には4校の中学校があり、800人の子どもが学んでいます。一部の大人の身勝手な政治的思惑によって、この子どもたちが、全国的には例のない、評価の低い教科書を使わされることは、いたたまれない思いです。
昨日、これまでの活動をふり返り、今後のとりくみについて考える討論会を開きました。教科書問題に対する市民の関心を得ることの難しさと、現場の先生たちや保護者とのつながりをつくることの困難さを痛感しています。今後も全国のとりくみに学びながら、採択替えをめざしていきます。
このあと、資料をもとに各地からの報告と討論が行われました。
●【東京・狛江市】和田哲子さん
採択する教科書を決める教育委員会を傍聴しました。教科ごとに教育長が検討の視点を述べ、各教育委員が2~3社ずつ名前をあげ、推薦する理由なども述べて、合意していきました。教育委員さんはすごく熱心に読んでいる、と感じました。
それはよいことなのかもしれませんが、「各学校からの意見や調査報告書にこう書いてあるから、これを選びます」というような、現場の声を尊重したという感じがしなくて、まずいのではないかと思いました。やはり、学校ごとに採択するという原点に戻らないと、どうしても少数の教育委員さんの熱心さに仕切られてしまいます。
本当に子どものことを知っていて、その視点で選ばれたのかどうか、すごく心配になりました。
●【神奈川・藤沢市】持田早苗さん
前回、育鵬社の採択替えをして、最近の教育委員会はすごく自由にものを言っている感じがします。以前はシーンとした教育委員会でしたが、今は採択にあたって全員が発言しています。
有志のグループで、先生たちに資料を提供したり、学習会を開いたりしてきましたが、吹田市のようなとりくみはすごく大事だと思いました。
気になっているのは、学校の先生たちがすごく忙しくて、教科書を読んで学校からの調査報告書を書く時間が取れないということです。
報告書の最後に、「生徒にとって一番ふさわしい教科書はどれか」という大事な項目があるのですが、そこが空欄になっている報告書がいくつかありました。
教科書をじっくリ読んで、みんなで相談して書き込むというより、形式的になってしまっているようです。先生たちの声を大事にしようとすればするほど、市民運動としては、その時間の保障を要求していかないといけないと思いました。
●【神奈川・横浜市】佐藤満喜子さん
前回、育鵬社が撤回された時は、育鵬社に2票入っていましたが、今回は1票もなく、育鵬社以外の教科書が選ばれました。しかし、まだ圧力をかけている議員がいるので、要注意です。
情報公開について、神奈川県では20年近く情報開示請求を繰り返してきて、ほとんどのところで公開を勝ち取っています。
中でも、裁判でたたかって、川崎市で録音の情報開示を勝ち取ったことは重要だと思います。
横浜では、採択が終わってからではなく、採択の期間中に、審議会の資料開示の請求にトライしてみました。まずは差支えのないようなものを請求しましたが、全部公開されました。こうしたことが一つひとつ実績になっていくと思います。
今後も、ペーパーだけでなく録音の公開、教育委員会だけでなく審議会の公開へと、広げていきたいと思います。
●【愛知県】三浦明夫さん
県教委・名古屋市教委に請願した結果、次のような成果がありました。
①「県民の意見・感想」の開示(公開)が実現しました。ロ頭陳述もした請願の結果は「不採択」でしたが、その後、「御意見・感想記入用紙」に「お寄せいただいた意見、感想は個人情報を除いて公開の対象となる場合がありますので、御承知おきください」という注意書きが載リ、「教科書採択に関する情報のよリー層積極的な公表に取り組むため」と書かれていました。開示請求したところ、請求通りCDで開示されました。
②名古屋市教委の採択会議の会議録が9月1日(日)にホームページに公開されました。
③名古屋市教委に「採択理由書」を28年ぷりに公開させました。
今後の課題は、①100人以上が傍聴可能な会場を確保させること、②傍聴者への採択資料の配付です。
●【名古屋市】小野政美さん
今回の採択で名古屋市は危ないと言われ、全国のみなさんから心配され、応援もいただきました。4年前も非常に厳しい状況でしたが、河村市長が任命した教育委員の顔ぶれを見れば、それは今回も大きくは変わっていません。
ではなぜ育鵬社の採択を阻止できたか。5つあると思います。
1つは、現場の教員による「教科用図書専門委員会」の報告書、「教科用図書調査会」の報告書で、育鵬社、自由社、令書が上位に挙がっていなかったこと。
2つは、教科書展示会での市民の意見です。開示させた意見を分析したところ、歴史で609通、公民で182通の意見があり、そのほとんどが育鵬社、自由社、令書は採択しないでくださいというものでした。
3つは、全国各地・各団体・個人からの要請書が相当多くあり、その声の多さに圧倒されて、4年前には育鵬社を採択寸前だった教育委員を含めて、推せなかったこと。
4つは、育鵬社を強く推している委員の情報が拡散されたこと、
5つは、メディアにも随分連絡を取ったこと。多くの取材に入る中で、教育委員は緊張感を持ちながら教科書採択に臨んだと思います。
教育委員がどのように選ぶかと考えると、今後も、どういう人が教育委員なのか、しっかり注視していきたいと思います。
『子どもと教科書全国ネット21 事務局通信』(2024年12月15日)
※コメント投稿者のブログIDはブログ作成者のみに通知されます