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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

『教育機会確保法』で救われる学びたい意欲

2018年07月15日 | こども危機
  《東京新聞社説-週のはじめに》
 ◆ 「夜間中学」が教えること


 小中学校で勉強する機会を逸した人々が、自分の学びを取り戻しています。公立中学校の夜間学級。希望を編み直す自由がそこには広がっています。
 猛暑が和らいだ夕刻。東京の葛飾区立双葉中学校に、かばんを抱えたふだん着姿の人々が集まりだしました。夜間学級の生徒たち。四十二人がめいめいの習熟度に応じ、必修教科を学んだり、日本語を習ったりします。五時半から九時まで給食を挟んで四時限。授業はもちろん、無償。多世代、多国籍のグローバル社会です。
 ◆ 学び場はグローバル
 ネパール人のカトリ・ヒマルさん(19)は日本語を学ぶ。インド料理店のコックの職を得た父と母とで、二年前に来日しました。
 故郷は山岳地帯の農村。交通の便は悪い。歩いて片道二時間の道のりでは通学できず、中学相当で諦めてしまった。インターネットを使い、独学したそうです。
 ヒマラヤ山脈を擁するネパールは、豊かな水資源に恵まれ、水力発電が主流です。けれども、基盤整備が立ち遅れ、電力を賄えない地域が農村部を中心に広がる。
 「日本の工業高校で電気工学を勉強し、母国の水力発電の発展に貢献できればうれしい」。将来を真っすぐに見据えればこそ、学びに貧欲になれるのかもしれない。
 十一月に七十九歳になる在日朝鮮人の崔元一(チェウォンイル)さんは、八つ下の妻朴榮喜(パクヨンヒ)さんと机を並べています。
 戦時中に疎開した山形の小学校で四年余。帰京して朝鮮初級学校に入り、言葉に難儀した。
 朝鮮戦争が勃発し、今度は日本人の中学校で二年間。民族教育の機運が高まり、また朝鮮中高級学校へ移ったが、途中で学資が尽きました。
 九人きょうだいの長男。幼少期から家業を手伝い、江戸川の土手の草を刈り、牧場主に売った。三輪トラックを運転し、荷物を運んだ。苦労を重ねた人生です。
 母は日本人。政治に翻弄(ほんろう)されたような学校生活でした。
 「日本と朝鮮の関係が頭を離れない。私は板挟み。歴史の産物です。古代史を学んで本を正し、融和をめざしたい」。
 欠けた自我のかけらを探すかのごとく学び直す日々です。

 ◆ 後押しする法律施行
 通称「夜間中学」。明治の近代学校制度の創始と共に歴史を刻んできました。昭和の戦争期に消えたが、戦後間もなく復活した。
 困窮家庭は多く、子どもは貴重な労働力でした。昼間に家事や仕事を任され、通学できない子や戦災孤児に学びをと、熱心な先生が開いた。一九五五年、全国でおよそ九十校に五千人が学んだとも。
 国は一貫して背を向けた。学校制度の根幹を脅かすと心配したのです。
 抗(あらが)うつように増えたのは、草の根ボランティアらの自主夜間中学識字講座。残念ながら、中学卒業扱いにはなりません。
 枠組みに収まらない不登校生や実質的に学べなかった形式卒業者、国際結婚や就労に伴い来日した外国人らの「学びたい」の声は多く、強い。人権としての学ぶ権利に応えるのは国の務めです。
 教員免許を持つ先生が、学習指導要領に則して教える公立夜間中学八都府県に三十一校。生徒は千七百人程度にとどまります。
 ようやく二年前、後押しする教育機会確保法が施行された。
 埼玉県川口市と千葉県松戸市が来春の開校をめざし、生徒募集に乗り出しました。学ぶ意味さえ分からないまま成績ばかりを競い合う教育に風穴を開けるかもしれません。
 九三年に公開された山田洋次監督の映画「学校」は、夜間中学を描き、世に存在を知らしめた。
 五十すぎに読み書き、計算を学び始めたイノさんが急死する。学級担任の黒井先生と同級生たちは冥福を祈りつつ語り合います。
 イノさんは幸せだったのか。幸福とはどういうことか。議論迷走の末、元不登校生のえり子が問いかける。
 「だから、それを分かるために勉強するんじゃないの。それが勉強じゃないの」
 双葉中の夜間学級に通う新谷藍吾さん(16)は、二年次からやり直しています。
 昼間の中学では二年から病欠を繰り返し、授業について行けないまま卒業を迎えた。
 前の中学では、テストの答案用紙に順位が書き込まれた。
 夜間の先生は「これからどうするかを考えるテスト」と言う。質問に丁寧に答えてくれ、勉強が楽しい
 ◆ 幸福追求のよすがに
 昼間の中学時代には周りの目が気になり、不登校になったという三年の女子生徒(16)。希望の進学先を、通信制から定時制の高校に切り替えた。「友だちをつくりたい」と明るく語る。
 大切にされているという思いが伝わります

 学校とはなにか。教育とはどうあるべきか。そんな難しい問いに、夜間中学は自ら答えを示しているのかもしれません。
『東京新聞』(2018・7・8【社説】)

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