共謀罪は、国連の採択した国際条約を批准するための、国内法整備である、とのもっともらしい解説が、あちこちで流されている。本当にそうなのだろうか?
国際条約には通じていない私たちにも分かりやすい解説記事が、『東京新聞』に載ったので、紹介しておく。
攻防続く共謀罪法案 「国際協調 政府の建前」
国際刑事裁判所、代用監獄、死刑・・・世界の流れに逆行日本
「本音は国民対象の治安立法」
「人権には冷たく・・・」
攻防が続く共謀罪法案。政府は国際的な信義を推進の柱にすえている。自民党の武部勤幹事長も「国際社会への約束」から法案成立は不可欠と訴えた。だが、政府は従来、国際条約についてケース・バイ・ケースで対応してきた。やはり、本音は国内向けの治安立法の新設ではないのか。
共謀罪の根拠になっているのは、国連越境組織犯罪防止条約批准のための国内法整備だ。
同条約は国境を超えたテロや麻薬犯罪などの取り締まりが狙い。
日本は2000年12月に署名、03年10月に国会で批准を承認したが国内法整備のために未批准なままだ。
「批准するか否かは政府の政治判断。批准するにしても、条約法条約で各国の事情から、条約の趣旨に反しない範囲で留保は付けられる。今回のケースもそうだ」と一橋大学の川崎恭治教授(国際法)は話す。
その趣旨に絡み、国際人権擁護団体、アムネスティ・インターナショナル日本の寺中誠事務局長は「政府の法案は条約の本意を取り違えている。この条約は一条で示すとおり越境犯罪集団が対象。各国の立法段階
で『越境性とは独立して』とあるが、これは集団が国内犯であっても対応できる意味で、あくまで対象は越境犯罪集団に絞られるべきだ」と法案を批判する。
一方、杉浦正健法相は四月下旬の記者会見で「119ヵ国がすでに締結し、法が成立しないと国際協調できない」と言明した。だが、本当にそうだろうか。
日本が国際的趨勢に背を向け、批准していない例は数多くある。戦争犯罪などを裁く国際刑事裁判所は現在、139ヵ国が署名、100ヵ国が締結している(05年10月現在)が、日本は当初、設立に積極的だったものの、これに反対する米国に配慮してか、現在まで署名すらしていない。
冤罪の温床と批判のある代用監獄(警察留置場)の廃止も世界的な流れだが、政府は今国会で提出した受刑者処遇法改正案では、その恒久化と受け取れる内容を盛り込んだ。
死刑制度も世界で118ヵ国が廃止したが日本は維持している。
さらに条約に批准はしたが、国内法には触れなかったケースも多い。東京造形大の前田朗教授(刑事法学)は「1953年に加入したジュネーブ4条約が典型だ。戦争下での文民や戦傷病者の保護が定められているが、国内法整備が浮上したのは、92年のカンボジアPKOへの派遣で、それまで放置された」という。
94年批准の「子どもの権利条約」でも、日本は国内法整備を必要なしとしていたが、批准後、婚外子差別の是正などで国連から勧告を受けている。
99年加入の拷問等禁止条約でも、二年以内の報告書の提出義務を果たさず、提出したのは昨年の暮れだった。
「結局、国際条約への対応は国際信義というより与党の政治判断で、その傾向は人権に関するものには冷たく、治安絡みは重んじるという二重基準だ」と山下幸夫弁護士は指摘する。
山下弁護士は典型例として、共謀罪新設法案に含まれているサイバー犯罪防止の条項を挙げる。これも欧州評議会が音頭をとったサイバー犯罪条約への批准のために設けられている。
「日本政府は、この条約の起草委員会に米国などとオブザーバー資格で参加したが、一方で欧州評議会は死刑制度に反対だ。このため、死刑制度を堅持する日本の資格剥奪を検討している。治安立法は可で、死刑は不可という政治判断が働いた例だ」(同弁護士)
今回の共謀罪法案をみる限り、政府は対象を越境犯罪集団に絞らず、国内法との整合性も十分に検討されたとは言い難い内容だ。山下弁護士はこう続けた。
「政府は公には国際協調を建前としているが、本音は別だろう。国際協調の名の下に、国民を対象にした治安立法を作りたかったという意図が透けて見える」
(『東京新聞』ニュースの追跡・話題の発掘 2006/5/25)
国際条約には通じていない私たちにも分かりやすい解説記事が、『東京新聞』に載ったので、紹介しておく。
攻防続く共謀罪法案 「国際協調 政府の建前」
国際刑事裁判所、代用監獄、死刑・・・世界の流れに逆行日本
「本音は国民対象の治安立法」
「人権には冷たく・・・」
攻防が続く共謀罪法案。政府は国際的な信義を推進の柱にすえている。自民党の武部勤幹事長も「国際社会への約束」から法案成立は不可欠と訴えた。だが、政府は従来、国際条約についてケース・バイ・ケースで対応してきた。やはり、本音は国内向けの治安立法の新設ではないのか。
共謀罪の根拠になっているのは、国連越境組織犯罪防止条約批准のための国内法整備だ。
同条約は国境を超えたテロや麻薬犯罪などの取り締まりが狙い。
日本は2000年12月に署名、03年10月に国会で批准を承認したが国内法整備のために未批准なままだ。
「批准するか否かは政府の政治判断。批准するにしても、条約法条約で各国の事情から、条約の趣旨に反しない範囲で留保は付けられる。今回のケースもそうだ」と一橋大学の川崎恭治教授(国際法)は話す。
その趣旨に絡み、国際人権擁護団体、アムネスティ・インターナショナル日本の寺中誠事務局長は「政府の法案は条約の本意を取り違えている。この条約は一条で示すとおり越境犯罪集団が対象。各国の立法段階
で『越境性とは独立して』とあるが、これは集団が国内犯であっても対応できる意味で、あくまで対象は越境犯罪集団に絞られるべきだ」と法案を批判する。
一方、杉浦正健法相は四月下旬の記者会見で「119ヵ国がすでに締結し、法が成立しないと国際協調できない」と言明した。だが、本当にそうだろうか。
日本が国際的趨勢に背を向け、批准していない例は数多くある。戦争犯罪などを裁く国際刑事裁判所は現在、139ヵ国が署名、100ヵ国が締結している(05年10月現在)が、日本は当初、設立に積極的だったものの、これに反対する米国に配慮してか、現在まで署名すらしていない。
冤罪の温床と批判のある代用監獄(警察留置場)の廃止も世界的な流れだが、政府は今国会で提出した受刑者処遇法改正案では、その恒久化と受け取れる内容を盛り込んだ。
死刑制度も世界で118ヵ国が廃止したが日本は維持している。
さらに条約に批准はしたが、国内法には触れなかったケースも多い。東京造形大の前田朗教授(刑事法学)は「1953年に加入したジュネーブ4条約が典型だ。戦争下での文民や戦傷病者の保護が定められているが、国内法整備が浮上したのは、92年のカンボジアPKOへの派遣で、それまで放置された」という。
94年批准の「子どもの権利条約」でも、日本は国内法整備を必要なしとしていたが、批准後、婚外子差別の是正などで国連から勧告を受けている。
99年加入の拷問等禁止条約でも、二年以内の報告書の提出義務を果たさず、提出したのは昨年の暮れだった。
「結局、国際条約への対応は国際信義というより与党の政治判断で、その傾向は人権に関するものには冷たく、治安絡みは重んじるという二重基準だ」と山下幸夫弁護士は指摘する。
山下弁護士は典型例として、共謀罪新設法案に含まれているサイバー犯罪防止の条項を挙げる。これも欧州評議会が音頭をとったサイバー犯罪条約への批准のために設けられている。
「日本政府は、この条約の起草委員会に米国などとオブザーバー資格で参加したが、一方で欧州評議会は死刑制度に反対だ。このため、死刑制度を堅持する日本の資格剥奪を検討している。治安立法は可で、死刑は不可という政治判断が働いた例だ」(同弁護士)
今回の共謀罪法案をみる限り、政府は対象を越境犯罪集団に絞らず、国内法との整合性も十分に検討されたとは言い難い内容だ。山下弁護士はこう続けた。
「政府は公には国際協調を建前としているが、本音は別だろう。国際協調の名の下に、国民を対象にした治安立法を作りたかったという意図が透けて見える」
(『東京新聞』ニュースの追跡・話題の発掘 2006/5/25)
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