◆ 暗殺者のメロディ (東京新聞【本音のコラム】)
ロシアの代表的な反政権、民主派指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏(44)が、毒を盛られて意識不明の重体という。
本紙によればナバリヌイ氏は、メドベージェフ前首相ら政権中枢の汚職を追及し、反政権派市民からはプーチン大統領批判の急先鋒(せんぽう)として絶大な人気を誇る存在だ。
ロシアでは反政権活動家やジャーナリストへの襲撃や暗殺は珍しくない。最もよく知られているのは、一九四〇年、スターリンによるトロツキーの暗殺だ。
メキシコ・シティの邸宅街コヨアカンで、亡命生活を送っていたトロツキー邸を、二度ほど訪問したことがある。四方に高い塀を巡らし、その上に望楼を備えていて、厳重警戒。要塞(ようさい)のような構えだった。
スターリン支持者たちから深夜に銃撃された後、妻や支持者とさらに警戒を強めて暮らしていても、近づいてきた暗殺者を排除できなかった。その恐怖を実感できた。
その恐怖は、アラン・ドロンが暗殺者の苦悩を演じた、ジョセフ・ロージー監督の『暗殺者のメロディ』によく描かれている。
映画では延々と闘牛場のシーンが使われ、監督の牛の虐殺に熱狂する文化への批判を感じさせた。
「彼は敵だ。敵は殺せ」とする政治の論理と憎悪は、日本でも、治安維持法やセクト間の内ゲバなどで、つい最近まであったことだった。
『東京新聞』(2020年8月25日【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
ロシアの代表的な反政権、民主派指導者アレクセイ・ナバリヌイ氏(44)が、毒を盛られて意識不明の重体という。
本紙によればナバリヌイ氏は、メドベージェフ前首相ら政権中枢の汚職を追及し、反政権派市民からはプーチン大統領批判の急先鋒(せんぽう)として絶大な人気を誇る存在だ。
ロシアでは反政権活動家やジャーナリストへの襲撃や暗殺は珍しくない。最もよく知られているのは、一九四〇年、スターリンによるトロツキーの暗殺だ。
メキシコ・シティの邸宅街コヨアカンで、亡命生活を送っていたトロツキー邸を、二度ほど訪問したことがある。四方に高い塀を巡らし、その上に望楼を備えていて、厳重警戒。要塞(ようさい)のような構えだった。
スターリン支持者たちから深夜に銃撃された後、妻や支持者とさらに警戒を強めて暮らしていても、近づいてきた暗殺者を排除できなかった。その恐怖を実感できた。
その恐怖は、アラン・ドロンが暗殺者の苦悩を演じた、ジョセフ・ロージー監督の『暗殺者のメロディ』によく描かれている。
映画では延々と闘牛場のシーンが使われ、監督の牛の虐殺に熱狂する文化への批判を感じさせた。
「彼は敵だ。敵は殺せ」とする政治の論理と憎悪は、日本でも、治安維持法やセクト間の内ゲバなどで、つい最近まであったことだった。
『東京新聞』(2020年8月25日【本音のコラム】)
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