=メディアの今 見張り塔から(『東京新聞』【日々論々】)=
◆ 政府系ツイッター
批判的な論評を狙い撃ち
新型コロナウイルスへの政府対応をめぐり、内閣官房や厚生労働省の公式ツイッターが特定の番組を狙い撃ちにして度々反論したことが物議を醸している。
厚労省の公式ツイッターは今月五日、テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」を名指しした上で、マスクの供給について医療機関に重点的に配るべきだとの番組出演者のコメントに対し、「感染症指定医療機関への医療用マスクの優先供給を行った」と反論した。
だが、このツイートを受けて同番組が全国の感染症指定医療機関を取材したところ、医療用マスクの供給は北海道の一部機関にとどまっていたことが発覚。
翌六日の放送で指摘されると、厚労省は番組の指摘に触れることなく訂正のツイートを投稿した。
また六日には、内閣官房国際感染症対策調整室の公式ツイッターも、同番組が取り上げた別のコメントへの反論を投稿。
番組は前日の五日に、政府が新型インフルエンザ等対策特別措置法改正に固執する狙いについて、「“後手後手”批判を払拭(ふっしょく)するため総理主導で進んでいるとアピールしたい」という政治アナリストの分析を紹介していた。
これに対し同室は「法律改正をする理由はそうではありません。あらゆる事態に備えて打てる手は全て打つという考えで法律改正をしようとしています」と、コメントを否定する連続ツイートを投稿。
さらに、自民党広報の公式ツイッターも番組を名指しして同様のツイートを投稿した。
だが、この法改正をめぐっては、新型インフルエンザ特措法で新型コロナウイルスに対応できるとする野党に対し、政府はかたくなに従来の特措法では対応できないと訴えてきた。
強引な法解釈を繰り返してきた政府とは思えないほどの慎重な法解釈の背景に、別の狙いがあるのではないかとの分析・論評があっても当然だろう。
特定の番組を狙い撃ちにして反論する政府の対応には、報道の自由、表現の自由への介入だとの批判も相次いだ。
菅義偉官房長官は六日の記者会見で「事実関係の誤りを指摘するなど、政府から必要な発信をすることが自由な論評を阻害することになるとは考えられない」と語り、同室の投稿に問題はないとの認識を示した。
また九日の参院予算委員会では、安倍晋三首相がこの問題について「誤解を招きかねない情報に関連して、関係省庁が政府側の情報や考え方、事実関係を発信したもの。政府が正しい情報を発信するのは当然の役割だ」と述べてもいる。
確かに、事実関係の誤りを指摘し反論することはありうる。だが今回、誤解を招きかねない不正確な情報を発信したのはむしろ厚労省だ。
さらに、内閣官房のツイートも政府の公式見解を繰り返しただけで、根拠のある反論とは言えない。
むしろ、政府対応の分析。論評のうち、批判的な報道を狙い撃ちで批判し、けん制することが狙いだったのではないか。
政府の公式見解だけが正しく、それ以外の論評・分析は間違いだというのでは、報道の自由は成り立たない。
メディア各社は立場を超えてこの問題で連帯する必要があるだろう。
『東京新聞』(2020年3月26日)
◆ 政府系ツイッター
批判的な論評を狙い撃ち
ジャーナリスト・津田大介さん
新型コロナウイルスへの政府対応をめぐり、内閣官房や厚生労働省の公式ツイッターが特定の番組を狙い撃ちにして度々反論したことが物議を醸している。
厚労省の公式ツイッターは今月五日、テレビ朝日の「羽鳥慎一モーニングショー」を名指しした上で、マスクの供給について医療機関に重点的に配るべきだとの番組出演者のコメントに対し、「感染症指定医療機関への医療用マスクの優先供給を行った」と反論した。
だが、このツイートを受けて同番組が全国の感染症指定医療機関を取材したところ、医療用マスクの供給は北海道の一部機関にとどまっていたことが発覚。
翌六日の放送で指摘されると、厚労省は番組の指摘に触れることなく訂正のツイートを投稿した。
また六日には、内閣官房国際感染症対策調整室の公式ツイッターも、同番組が取り上げた別のコメントへの反論を投稿。
番組は前日の五日に、政府が新型インフルエンザ等対策特別措置法改正に固執する狙いについて、「“後手後手”批判を払拭(ふっしょく)するため総理主導で進んでいるとアピールしたい」という政治アナリストの分析を紹介していた。
これに対し同室は「法律改正をする理由はそうではありません。あらゆる事態に備えて打てる手は全て打つという考えで法律改正をしようとしています」と、コメントを否定する連続ツイートを投稿。
さらに、自民党広報の公式ツイッターも番組を名指しして同様のツイートを投稿した。
だが、この法改正をめぐっては、新型インフルエンザ特措法で新型コロナウイルスに対応できるとする野党に対し、政府はかたくなに従来の特措法では対応できないと訴えてきた。
強引な法解釈を繰り返してきた政府とは思えないほどの慎重な法解釈の背景に、別の狙いがあるのではないかとの分析・論評があっても当然だろう。
特定の番組を狙い撃ちにして反論する政府の対応には、報道の自由、表現の自由への介入だとの批判も相次いだ。
菅義偉官房長官は六日の記者会見で「事実関係の誤りを指摘するなど、政府から必要な発信をすることが自由な論評を阻害することになるとは考えられない」と語り、同室の投稿に問題はないとの認識を示した。
また九日の参院予算委員会では、安倍晋三首相がこの問題について「誤解を招きかねない情報に関連して、関係省庁が政府側の情報や考え方、事実関係を発信したもの。政府が正しい情報を発信するのは当然の役割だ」と述べてもいる。
確かに、事実関係の誤りを指摘し反論することはありうる。だが今回、誤解を招きかねない不正確な情報を発信したのはむしろ厚労省だ。
さらに、内閣官房のツイートも政府の公式見解を繰り返しただけで、根拠のある反論とは言えない。
むしろ、政府対応の分析。論評のうち、批判的な報道を狙い撃ちで批判し、けん制することが狙いだったのではないか。
政府の公式見解だけが正しく、それ以外の論評・分析は間違いだというのでは、報道の自由は成り立たない。
メディア各社は立場を超えてこの問題で連帯する必要があるだろう。
『東京新聞』(2020年3月26日)
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