◆ 「G7で安倍首相が大活躍!」ということなので、海外主要メディアのG7報道で
総理の名を探してみた。「ABE」の名は? (ハーバー・ビジネス・オンライン)
首相官邸Web Siteより
今月カナダで行われたG7(先進7か国)首脳会議。「トランプ米大統領対欧州勢」という構図が印象的だったが、国内の一部報道では、トランプ米大統領やドイツのメルケル首相が「シンゾー」と親しげに助言を求める姿や、北朝鮮関連の議論を主導したと強調され、安倍がアメリカと欧州の調整役を果たし、八面六臂の大活躍だった! バンザイ! とでも言うような論調が報じられると、SNSの右派クラスタを中心に拡散。それを受けて反安倍勢は「ガラパゴス報道」と揶揄するなど、盛り上がりを見せていた。
そんなに我が国の首相が大活躍したならば、海外メディアにおける報道でも「ABE」の文字が乱舞し、絶賛の嵐なのでは? と期待しつつ、
英語を筆頭にスペイン語やドイツ語などのメディアにも目を通して、我らが安倍首相の活躍を探してみた。
◆ トランプ大統領からは嫌味が
しかし、海外メディアの報道を見ると、八面六臂の大活躍だったはずなのに、どうにもその姿が報じられていない……。
まずはアメリカの主要メディアを見てみよう。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の「G7の裏側 トランプのジャブが同盟国を落胆させる」という記事では、対米関係に亀裂の入ったカナダのトルドー首相、なんとか関係を取り持とうとするメルケル独首相が登場。
さらにアメリカの立場が不公平だと主張するトランプ大統領に対して、どちらの市場も不均衡になるとフランスのマクロン大統領が反撃する様子が伝えられている。
あれあれ? 調整役として安倍さんが大活躍したんじゃないのか??
安倍首相の名前がやっと出てきたのは記事の中盤。移民についてトランプ大統領が「シンゾー、日本に移民問題はないが、私は2500万人のメキシコ移民を送り込むことができる。そうすれば、君はすぐ退陣することになるだろう」と言い放った部分だ。
この発言は他国のメディアも取り上げており、G7での日本関連ニュースでは、もっとも話題になっている。
さらに残念なのは、このニュースを報じる記事に安倍首相の反論が見当たらなかったことだ。実際にはどうだったかわからないが、少なくとも報道では“言われっぱなし”の状態。トランプ大統領の暴言とも言えるコメントを安倍首相がどう感じたかは気になるところだ。
また、同じ『ウォール・ストリート・ジャーナル』では「トランプのロシアへの呼びかけがG7を揺るがす」という記事も。こちらはロシアをG7に入れるべきだというトランプ大統領の主張がテーマで、マクロン仏大統領、メルケル独大統領、ドナルド・トゥスク欧州理事会議長らの名前が挙がっている。日本については「貿易に関してはEUと協調路線にあり、アメリカには関税について考え直すよう求める」という政府関係者のコメントが紹介されているが、安倍首相の名前は見当たらなかった。
続いて『USAトゥディ』には、「トランプがG7に危機を呼ぶ 同盟国を攻撃し、ロシアを受け入れ」、「G7のトランプ大統領写真:各国の写真が異なる様子を伝える」などの記事が。後者はメルケル首相がトランプ大統領に詰め寄る様子を各国首脳・機関が違った角度の写真で発表しているという内容。日本でもSNS上で多くシェアされていたので、目にした人も多いだろう。
この「トランプ大統領と対峙する各国首脳陣」という構図は、G7を象徴する一幕として、さまざまな海外メディアが取り上げていた。しかし、これらの記事でも主役はあくまでメルケル首相とトランプ大統領。安倍首相にフォーカスした記事は見当たらなかった。
※この画像、合成だったのか
https://blog.goo.ne.jp/nrn54484/e/2ddadca3be88ed7dfb937de79eb0e012
同じく米大手メディアである『ニューヨーク・タイムズ』は「大統領、同盟国首脳陣との声明に署名拒否」とともに、トランプ大統領がG7の開催地・カナダを去ったあと、米朝会談に向かうエアフォースワンの機内で投稿したツイートを紹介。トルドー首相との軋轢を取り上げた。
「カナダのジャスティン・トルドー首相は、G7の会談中はとてもおとなしく、穏やかだった。私が去った直後に記者会見を開き、『アメリカの関税は侮辱的で、振り回されない』と言ったが、とても不誠実で弱い男だ」
同記事ではこのツイートをフックに、アメリカ=カナダ間の関税についての不一致が解説されていた。安倍首相の名前は出てこず、「トランプ大統領は各国首脳との個人面談で、アメリカの立場がいかに不公平か訴えた」という部分で「ジャパン」のひと言が出てくるだけだ。
「ドナルド」「シンゾー」と呼び合い、トランプ大統領と親密な関係にある……。日本ではそんな対米関係ばかりが報道されているが、こと米メディアのG7を報じる記事には「シンゾー」の名前は、まるで登場しなかったようなのである。
◆ 唯一、安倍首相を主体的に報じたのはカナダ
では、欧州メディアではどうか? イギリスの『ガーディアン』は「G7マイナス1:トランプがカナダでのサミットに向け鉄球を準備」と、トルドー首相、メルケル首相とともに、安倍首相が「窮地に立たされる」と記している。しかし、ここでも安倍首相は「ワン・オブ・ゼム」な扱い。「各国首脳陣の関係を取り持った」という記述は見られなかった。
また、「貿易問題でトランプに対抗するよう、マクロンがG7加盟国に呼びかけ」という記事では、トランプ大統領がカナダに向かう前に安倍首相と会談したことが紹介されている。同記事はG7後の米朝会談にも触れているが、「マクロン大統領が北朝鮮との交渉を支持している」という内容にとどまり、安倍首相の名前は挙がらず。日本も当事者である北朝鮮問題ですら、安倍首相が登場しないのは寂しい限りだ。そのほか、イギリスメディアでは、タブロイド紙のウェブサイトで名前が挙がる程度だった。
そしてやっと、安倍首相の主体性が感じられる記事を発見した! 報じているのは意外にもG7開催国・カナダの『ナショナル・ポスト』の記事だった。
「NAFTA(北米自由貿易協定)の状態は良好」はTPPに言及しており、安倍首相とトルドー首相が協力関係にあって、トランプ大統領は孤立しているというニュアンスを強調していた。
「トランプは12か国が加盟するTPPからも離脱。G7のカナダと日本を含む11か国が、アメリカ以外で独自の自由貿易圏を推し進める様子を眺めてきただけだ。(中略)カナダ政府の関係者によると、金曜日にはトルドー首相と安倍晋三首相が迅速に施行できるよう話し合ったとされる」
この文面は「密接な日米関係」とは真逆の内容だが、安倍首相がTPP交渉において“プレイヤー”であったことは読み取れる。「私自身、TPP断固反対と言ったことは1回も、ただの1回もございません」と述べるだけのことはあって、しっかりとその活躍が報じられていた。
日本の農業関係者の皆さん、安倍首相及び自民党はTPPを頑張って推進しているようです!
しかし、“大活躍”が報じられていたのは、カナダ紙のTPPに関する部分のみ。フランスの『ル・モンド』、ドイツの『ディ・ヴェルト』などの記事には、名前すら見当たらなかった。
また、当サイトでスペイン語圏のニュースを報じてくれている白石和幸氏の協力を仰ぎ、スペイン語圏の主要メディアでの報じられ具合も探してもたったが……。
「スペインの主要紙である『El Pais』から始めて、アルゼンチン、メキシコ、コロンビアとチェックしましたが、Abeの名前はどこにも見当たりませんでした。トランプ、トレドー、マクロン、メルケルの名前の記載が見つかり、彼らのサミットで語ったことや姿勢について言及されています。しかし、安倍、メイ、コンテの名前はどこにも見当たりません。これら主要紙で安倍の記載がないので、それ以上の追求はやめました。やはり、安倍首相の活躍? は日本の紙面しか取り上げられないでしょう。それだけサミットでの安倍首相の重みはないということでしょう。残念ですが」(白石氏)
公平を期するなら、白石氏も言うように、G7関連の記事で黙殺されていたのは安倍首相だけではなく、イギリスのメイ首相、イタリアのコンテ首相の発言・動向は、まるで取り上げられていなかった。また、かなり頑張って探したがうっかり見逃した記事もあるかもしれない。
それにしても、あたかも安倍首相が中心的な役割を担ったかのような報道をしているのは、世界でも日本だけ。
もちろん、自国の宰相の動きを報じるのも重要であるが、根拠がないかのような礼賛、バンザイだけをしていて、その現実を踏まえることをしなければ、外交で同じ土俵には立てないのではないだろうか。
<取材・文・訳/林泰人>
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2018年06月18日)
https://hbol.jp/168399
総理の名を探してみた。「ABE」の名は? (ハーバー・ビジネス・オンライン)
首相官邸Web Siteより
今月カナダで行われたG7(先進7か国)首脳会議。「トランプ米大統領対欧州勢」という構図が印象的だったが、国内の一部報道では、トランプ米大統領やドイツのメルケル首相が「シンゾー」と親しげに助言を求める姿や、北朝鮮関連の議論を主導したと強調され、安倍がアメリカと欧州の調整役を果たし、八面六臂の大活躍だった! バンザイ! とでも言うような論調が報じられると、SNSの右派クラスタを中心に拡散。それを受けて反安倍勢は「ガラパゴス報道」と揶揄するなど、盛り上がりを見せていた。
そんなに我が国の首相が大活躍したならば、海外メディアにおける報道でも「ABE」の文字が乱舞し、絶賛の嵐なのでは? と期待しつつ、
英語を筆頭にスペイン語やドイツ語などのメディアにも目を通して、我らが安倍首相の活躍を探してみた。
◆ トランプ大統領からは嫌味が
しかし、海外メディアの報道を見ると、八面六臂の大活躍だったはずなのに、どうにもその姿が報じられていない……。
まずはアメリカの主要メディアを見てみよう。『ウォール・ストリート・ジャーナル』の「G7の裏側 トランプのジャブが同盟国を落胆させる」という記事では、対米関係に亀裂の入ったカナダのトルドー首相、なんとか関係を取り持とうとするメルケル独首相が登場。
さらにアメリカの立場が不公平だと主張するトランプ大統領に対して、どちらの市場も不均衡になるとフランスのマクロン大統領が反撃する様子が伝えられている。
あれあれ? 調整役として安倍さんが大活躍したんじゃないのか??
安倍首相の名前がやっと出てきたのは記事の中盤。移民についてトランプ大統領が「シンゾー、日本に移民問題はないが、私は2500万人のメキシコ移民を送り込むことができる。そうすれば、君はすぐ退陣することになるだろう」と言い放った部分だ。
この発言は他国のメディアも取り上げており、G7での日本関連ニュースでは、もっとも話題になっている。
さらに残念なのは、このニュースを報じる記事に安倍首相の反論が見当たらなかったことだ。実際にはどうだったかわからないが、少なくとも報道では“言われっぱなし”の状態。トランプ大統領の暴言とも言えるコメントを安倍首相がどう感じたかは気になるところだ。
また、同じ『ウォール・ストリート・ジャーナル』では「トランプのロシアへの呼びかけがG7を揺るがす」という記事も。こちらはロシアをG7に入れるべきだというトランプ大統領の主張がテーマで、マクロン仏大統領、メルケル独大統領、ドナルド・トゥスク欧州理事会議長らの名前が挙がっている。日本については「貿易に関してはEUと協調路線にあり、アメリカには関税について考え直すよう求める」という政府関係者のコメントが紹介されているが、安倍首相の名前は見当たらなかった。
続いて『USAトゥディ』には、「トランプがG7に危機を呼ぶ 同盟国を攻撃し、ロシアを受け入れ」、「G7のトランプ大統領写真:各国の写真が異なる様子を伝える」などの記事が。後者はメルケル首相がトランプ大統領に詰め寄る様子を各国首脳・機関が違った角度の写真で発表しているという内容。日本でもSNS上で多くシェアされていたので、目にした人も多いだろう。
この「トランプ大統領と対峙する各国首脳陣」という構図は、G7を象徴する一幕として、さまざまな海外メディアが取り上げていた。しかし、これらの記事でも主役はあくまでメルケル首相とトランプ大統領。安倍首相にフォーカスした記事は見当たらなかった。
※この画像、合成だったのか
https://blog.goo.ne.jp/nrn54484/e/2ddadca3be88ed7dfb937de79eb0e012
同じく米大手メディアである『ニューヨーク・タイムズ』は「大統領、同盟国首脳陣との声明に署名拒否」とともに、トランプ大統領がG7の開催地・カナダを去ったあと、米朝会談に向かうエアフォースワンの機内で投稿したツイートを紹介。トルドー首相との軋轢を取り上げた。
「カナダのジャスティン・トルドー首相は、G7の会談中はとてもおとなしく、穏やかだった。私が去った直後に記者会見を開き、『アメリカの関税は侮辱的で、振り回されない』と言ったが、とても不誠実で弱い男だ」
同記事ではこのツイートをフックに、アメリカ=カナダ間の関税についての不一致が解説されていた。安倍首相の名前は出てこず、「トランプ大統領は各国首脳との個人面談で、アメリカの立場がいかに不公平か訴えた」という部分で「ジャパン」のひと言が出てくるだけだ。
「ドナルド」「シンゾー」と呼び合い、トランプ大統領と親密な関係にある……。日本ではそんな対米関係ばかりが報道されているが、こと米メディアのG7を報じる記事には「シンゾー」の名前は、まるで登場しなかったようなのである。
◆ 唯一、安倍首相を主体的に報じたのはカナダ
では、欧州メディアではどうか? イギリスの『ガーディアン』は「G7マイナス1:トランプがカナダでのサミットに向け鉄球を準備」と、トルドー首相、メルケル首相とともに、安倍首相が「窮地に立たされる」と記している。しかし、ここでも安倍首相は「ワン・オブ・ゼム」な扱い。「各国首脳陣の関係を取り持った」という記述は見られなかった。
また、「貿易問題でトランプに対抗するよう、マクロンがG7加盟国に呼びかけ」という記事では、トランプ大統領がカナダに向かう前に安倍首相と会談したことが紹介されている。同記事はG7後の米朝会談にも触れているが、「マクロン大統領が北朝鮮との交渉を支持している」という内容にとどまり、安倍首相の名前は挙がらず。日本も当事者である北朝鮮問題ですら、安倍首相が登場しないのは寂しい限りだ。そのほか、イギリスメディアでは、タブロイド紙のウェブサイトで名前が挙がる程度だった。
そしてやっと、安倍首相の主体性が感じられる記事を発見した! 報じているのは意外にもG7開催国・カナダの『ナショナル・ポスト』の記事だった。
「NAFTA(北米自由貿易協定)の状態は良好」はTPPに言及しており、安倍首相とトルドー首相が協力関係にあって、トランプ大統領は孤立しているというニュアンスを強調していた。
「トランプは12か国が加盟するTPPからも離脱。G7のカナダと日本を含む11か国が、アメリカ以外で独自の自由貿易圏を推し進める様子を眺めてきただけだ。(中略)カナダ政府の関係者によると、金曜日にはトルドー首相と安倍晋三首相が迅速に施行できるよう話し合ったとされる」
この文面は「密接な日米関係」とは真逆の内容だが、安倍首相がTPP交渉において“プレイヤー”であったことは読み取れる。「私自身、TPP断固反対と言ったことは1回も、ただの1回もございません」と述べるだけのことはあって、しっかりとその活躍が報じられていた。
日本の農業関係者の皆さん、安倍首相及び自民党はTPPを頑張って推進しているようです!
しかし、“大活躍”が報じられていたのは、カナダ紙のTPPに関する部分のみ。フランスの『ル・モンド』、ドイツの『ディ・ヴェルト』などの記事には、名前すら見当たらなかった。
また、当サイトでスペイン語圏のニュースを報じてくれている白石和幸氏の協力を仰ぎ、スペイン語圏の主要メディアでの報じられ具合も探してもたったが……。
「スペインの主要紙である『El Pais』から始めて、アルゼンチン、メキシコ、コロンビアとチェックしましたが、Abeの名前はどこにも見当たりませんでした。トランプ、トレドー、マクロン、メルケルの名前の記載が見つかり、彼らのサミットで語ったことや姿勢について言及されています。しかし、安倍、メイ、コンテの名前はどこにも見当たりません。これら主要紙で安倍の記載がないので、それ以上の追求はやめました。やはり、安倍首相の活躍? は日本の紙面しか取り上げられないでしょう。それだけサミットでの安倍首相の重みはないということでしょう。残念ですが」(白石氏)
公平を期するなら、白石氏も言うように、G7関連の記事で黙殺されていたのは安倍首相だけではなく、イギリスのメイ首相、イタリアのコンテ首相の発言・動向は、まるで取り上げられていなかった。また、かなり頑張って探したがうっかり見逃した記事もあるかもしれない。
それにしても、あたかも安倍首相が中心的な役割を担ったかのような報道をしているのは、世界でも日本だけ。
もちろん、自国の宰相の動きを報じるのも重要であるが、根拠がないかのような礼賛、バンザイだけをしていて、その現実を踏まえることをしなければ、外交で同じ土俵には立てないのではないだろうか。
<取材・文・訳/林泰人>
『ハーバー・ビジネス・オンライン』(2018年06月18日)
https://hbol.jp/168399
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