◆ 事故続きJR北海道
国鉄改革のツケ 企業性・効率性を追求
事故続きのJR北海道(野島誠社長)に世論の厳しいメスが入り、安全軽視の異常な経営体質の一端が暴かれた。2011年5月に石勝線のトンネル内で特急が脱線炎上し、79人が負傷した事故でJR北海道は国交省から業務改善命令を受け、当時の社長が自殺。遺書に「お客様の安全優先を考えて欲しい」としたためたが、この2年間安全対策は置き去りにされっぱなしだった。自己反省のない病的とも言える経営体質の根源は、1987年の国鉄分割・民営化に遡ることができる。(4面に関連記事)
◆ この異常
今年に入ってからの主な事故を拾っても特急電車のエンジン、車軸、配電盤の出火や潤滑油漏れ、貨物列車の脱線と8件も発生。運転・車両、保線、電気など保全業務に異常が集中している。なかには特急運転士(32歳)が運転席の自動列車停止装置(ATS)のスイッチをハンマーで壊すというトラブルも露見した。
国交省は9月21日から27日まで特別保安監査に入ったが、そこでクローズアップされたのは保線部門。レール幅が安全基準値を超えて放置されていた問題で、JR北海道は副線のみ8カ所(21日)→本線・副線97カ所(22日)→12線267カ所(25日)と、その後出しに管理のずさんさを見せつけた。
しかも、時速130キロの特急が走行する函館線で65カ所、室蘭線で16カ所、根室線で6カ所。脱線など重大事故が起きていないのが不思議なくらいだ。
レールの安全性は軌道検測車が検査し、異常があれば保線所・本社に伝達され、即修態勢がとられる。その態勢がとられなかったのはなぜか?JR北海道は1985年に新レールに切り替えて補修基準が緩和されたが、古いレールにも新基準を誤って適用していたと弁明した。
◆ マンパワーが不足
それではなぜ、イロハの基準適用が見過ごされたのか?その原因として安全意識や危機意識の欠如が指摘されている。たとえば昨年、今後10年間に1300億円の安全対策を盛り込んだ「安全基本計画」を策定していながらペーパープランに堕していた。
また、社員の年齢構成の偏り(50代37%、40代8%、30代25%)、技術断層、車両検査や保線業務の下請け・外注化も指摘された。どの指摘も正しい。
野島社長は22日の記者会見で、「マンパワーは足りている」と述べたが、そのマンパワーの不足こそが事故体質を生んだ最大要因なのだ。
JR北海道の事故体質は国鉄の分割・民営化を機に育まれた構造的なもの。国鉄改革は「企業性・効率性を発揮させて公共性は確保される」(第二臨調第四部会報告)という転倒した理念に貫かれていたからだ。
JR北海道はJR四国、九州とともにその経営の不安定さを経営安定基金によってカバーし、「公共性よりも企業性・効率性」を追求してきた。
JR発足にあたり、国労・全動労所属の経験と技能に富む職員(マンパワー)を一挙に4242人不採用(首切り)にした。JR発足当初、1万4000人いた職員は、現在7100人。この間に運転本数は2倍、保全・検査業務の効率化、外注化が進んだ。
ちなみにJR北海道の経営状況(13年3月)は、鉄道事業が309億円の赤字、連結営業損益は237億円の赤字。それを安定基金(現在6822億円)で辛うじて黒字を確保しているが、株式上場には程遠い。しかも2年後に北海道新幹線の開業が迫る。経営陣の関心は輸送の安全よりも儲けに向き、付随して社員のモラルが蝕まれていった。
◆ 無責任大国、日本
国交省の特別保安監査が終了したその日、神戸地裁は、05年に107人が死亡したJR西日本宝塚線事故で、歴代3社長を無罪とする判決を出した。今なおJR西に君臨する井手正敬元会長は、「責任は会社がとるべき」とうそぶいた。この国の無責任体制は、原発事故にも連綿と引き継がれている。
(4面)
◆ JR北海道事故続出 民営化で線路は疲弊
国鉄闘争が追求した課題 安全運行のため運動継承こそ
JR北海道の続発する事故、不具合の露呈は国民を大きな不安に陥れている。2011年の石勝線トンネルで79人の負傷者を出した特急列車の脱線火災事故以来、改善されない安全対策は社会問題になり、道内最大の産業である観光業にも暗雲を落としている。
一連の動きに対して国交省も監査の大幅増強に踏み切っているが、国策としての国鉄の分割・民営化の背景に利益・経営優先の思いがある以上、正常な判断・安全運行は望めない。
一部報道によると、労使の断層があり、企業統治が機能していないとされ、原因の一端が労働組合にあるかのような世論誘導も行われている。旧国鉄の分割・民営化による弊害の指摘が枚挙にいとまがないというのに。(関連記事1面)
地元紙である『北海道新聞』の「どうしん川柳」に<特急に連結したい消防車><JR乗るお客さん命がけ>とある。このように道民の中にはJR北海道に対する不信感が膨れ上がっている。本紙読者の松里福慈さんは、次のように訴えている。
「私と妻はこの十数年間全く札幌から遠出はしていません。JRを利用するのは年にー~2回、妻の実家などだけです。そういう2人ですが、長く続いている事故に関して、とくに妻は『こんなに危険なのだからJRはイヤだ。乗りたくないね』と言っています。このような気持ちが北海道民の現実の声です」。
このような事態を『道新』は地元紙らしく、不信の原因の払拭のためにていねいに問題の元凶を追っていると前出の松里さんは言う。
『道新』97月18日号では、「鉄路の安全どこへ-組織の縦横深い溝~進む外注化・会議ばかり・悲劇人ごと」とJRの本質を見抜いている、という。
まさに今こそ、1987年以来の国鉄闘争の検証と総括が、JR北海道における安全問題・事故多発、重大事故の危険性に集中・集約されるのではないかと思いを強くしている。
◆ 見たこともない荒廃
JR北海道の事故・不祥事が相次いでいる。2011年5月石勝線トンネル内で特急列車の脱線・炎上で負傷者79名を出し、避難誘導の不手際もあり、あわや大惨事を引き起こす寸前であったことは記憶に新しい。
2013年に入ってからも、特急列車の出火・発煙、車両故障と止まることがない。さらに運転手による覚醒剤使用やATS(列車制御装置)の故意破壊などの不祥事までも発覚している。
そして、9月19日に起きた、軌間(左右のレール間隔)の異常箇所放置による貨物列車脱線事故を引き金に、国土交通省は特別保安監査を実施することとなった。
マスコミで放映された事故現場付近の線路は、波うつレールとひび割れた枕木、生い茂る雑草は道床(バラスト部分)をも覆い尽くしており、これほど荒廃した現場は見たことがない。事故後の調査で、こうした異常箇所放置が全社で約270箇所にも及ぶことが判明している。
おそらく、通り(直線や円曲線の基準)・高低差などの軌道(線路)狂いが許容限度に近い箇所はその比ではないと思われる。
線路は生きものであり、手をかけ育てなければ安全は担保できない。もはや、長年の酷使で疲弊しきった線路に、安全運行を支えるだけの体力はない。列車運行の基礎をなす線路の破壊は、安全管理が危機的状況であることの証左であろう。
紛れもなく、国鉄「分割・民営化」のツケが垣間見える。一方で政府は、「安全管理に取り組む姿勢や服務規律のあり方に問題があるのでは」と複数ある労働組合との関係にすり替える談話を発表している。
分割・民営化時のヤミ・カラキャンペーンと同じ手法であるが、一人JR北海道の経営体質の問題だけではない。
利益優先の民営化、規制緩和の行き着く先が、今日の惨状をつくり出した根源で有ることを、政府そしてJR各社にその責任を問わなければならない。
JR採用差別事件の闘争終結から2年数カ月が経過し、改めて国鉄闘争に課せられていた役割とその運動継承の質が問われている。
『週刊新社会』(2013年10月8日)
国鉄改革のツケ 企業性・効率性を追求
事故続きのJR北海道(野島誠社長)に世論の厳しいメスが入り、安全軽視の異常な経営体質の一端が暴かれた。2011年5月に石勝線のトンネル内で特急が脱線炎上し、79人が負傷した事故でJR北海道は国交省から業務改善命令を受け、当時の社長が自殺。遺書に「お客様の安全優先を考えて欲しい」としたためたが、この2年間安全対策は置き去りにされっぱなしだった。自己反省のない病的とも言える経営体質の根源は、1987年の国鉄分割・民営化に遡ることができる。(4面に関連記事)
◆ この異常
今年に入ってからの主な事故を拾っても特急電車のエンジン、車軸、配電盤の出火や潤滑油漏れ、貨物列車の脱線と8件も発生。運転・車両、保線、電気など保全業務に異常が集中している。なかには特急運転士(32歳)が運転席の自動列車停止装置(ATS)のスイッチをハンマーで壊すというトラブルも露見した。
国交省は9月21日から27日まで特別保安監査に入ったが、そこでクローズアップされたのは保線部門。レール幅が安全基準値を超えて放置されていた問題で、JR北海道は副線のみ8カ所(21日)→本線・副線97カ所(22日)→12線267カ所(25日)と、その後出しに管理のずさんさを見せつけた。
しかも、時速130キロの特急が走行する函館線で65カ所、室蘭線で16カ所、根室線で6カ所。脱線など重大事故が起きていないのが不思議なくらいだ。
レールの安全性は軌道検測車が検査し、異常があれば保線所・本社に伝達され、即修態勢がとられる。その態勢がとられなかったのはなぜか?JR北海道は1985年に新レールに切り替えて補修基準が緩和されたが、古いレールにも新基準を誤って適用していたと弁明した。
◆ マンパワーが不足
それではなぜ、イロハの基準適用が見過ごされたのか?その原因として安全意識や危機意識の欠如が指摘されている。たとえば昨年、今後10年間に1300億円の安全対策を盛り込んだ「安全基本計画」を策定していながらペーパープランに堕していた。
また、社員の年齢構成の偏り(50代37%、40代8%、30代25%)、技術断層、車両検査や保線業務の下請け・外注化も指摘された。どの指摘も正しい。
野島社長は22日の記者会見で、「マンパワーは足りている」と述べたが、そのマンパワーの不足こそが事故体質を生んだ最大要因なのだ。
JR北海道の事故体質は国鉄の分割・民営化を機に育まれた構造的なもの。国鉄改革は「企業性・効率性を発揮させて公共性は確保される」(第二臨調第四部会報告)という転倒した理念に貫かれていたからだ。
JR北海道はJR四国、九州とともにその経営の不安定さを経営安定基金によってカバーし、「公共性よりも企業性・効率性」を追求してきた。
JR発足にあたり、国労・全動労所属の経験と技能に富む職員(マンパワー)を一挙に4242人不採用(首切り)にした。JR発足当初、1万4000人いた職員は、現在7100人。この間に運転本数は2倍、保全・検査業務の効率化、外注化が進んだ。
ちなみにJR北海道の経営状況(13年3月)は、鉄道事業が309億円の赤字、連結営業損益は237億円の赤字。それを安定基金(現在6822億円)で辛うじて黒字を確保しているが、株式上場には程遠い。しかも2年後に北海道新幹線の開業が迫る。経営陣の関心は輸送の安全よりも儲けに向き、付随して社員のモラルが蝕まれていった。
◆ 無責任大国、日本
国交省の特別保安監査が終了したその日、神戸地裁は、05年に107人が死亡したJR西日本宝塚線事故で、歴代3社長を無罪とする判決を出した。今なおJR西に君臨する井手正敬元会長は、「責任は会社がとるべき」とうそぶいた。この国の無責任体制は、原発事故にも連綿と引き継がれている。
(4面)
◆ JR北海道事故続出 民営化で線路は疲弊
国鉄闘争が追求した課題 安全運行のため運動継承こそ
JR北海道の続発する事故、不具合の露呈は国民を大きな不安に陥れている。2011年の石勝線トンネルで79人の負傷者を出した特急列車の脱線火災事故以来、改善されない安全対策は社会問題になり、道内最大の産業である観光業にも暗雲を落としている。
一連の動きに対して国交省も監査の大幅増強に踏み切っているが、国策としての国鉄の分割・民営化の背景に利益・経営優先の思いがある以上、正常な判断・安全運行は望めない。
一部報道によると、労使の断層があり、企業統治が機能していないとされ、原因の一端が労働組合にあるかのような世論誘導も行われている。旧国鉄の分割・民営化による弊害の指摘が枚挙にいとまがないというのに。(関連記事1面)
地元紙である『北海道新聞』の「どうしん川柳」に<特急に連結したい消防車><JR乗るお客さん命がけ>とある。このように道民の中にはJR北海道に対する不信感が膨れ上がっている。本紙読者の松里福慈さんは、次のように訴えている。
「私と妻はこの十数年間全く札幌から遠出はしていません。JRを利用するのは年にー~2回、妻の実家などだけです。そういう2人ですが、長く続いている事故に関して、とくに妻は『こんなに危険なのだからJRはイヤだ。乗りたくないね』と言っています。このような気持ちが北海道民の現実の声です」。
このような事態を『道新』は地元紙らしく、不信の原因の払拭のためにていねいに問題の元凶を追っていると前出の松里さんは言う。
『道新』97月18日号では、「鉄路の安全どこへ-組織の縦横深い溝~進む外注化・会議ばかり・悲劇人ごと」とJRの本質を見抜いている、という。
まさに今こそ、1987年以来の国鉄闘争の検証と総括が、JR北海道における安全問題・事故多発、重大事故の危険性に集中・集約されるのではないかと思いを強くしている。
◆ 見たこともない荒廃
元国労闘争団 田中 博
JR北海道の事故・不祥事が相次いでいる。2011年5月石勝線トンネル内で特急列車の脱線・炎上で負傷者79名を出し、避難誘導の不手際もあり、あわや大惨事を引き起こす寸前であったことは記憶に新しい。
2013年に入ってからも、特急列車の出火・発煙、車両故障と止まることがない。さらに運転手による覚醒剤使用やATS(列車制御装置)の故意破壊などの不祥事までも発覚している。
そして、9月19日に起きた、軌間(左右のレール間隔)の異常箇所放置による貨物列車脱線事故を引き金に、国土交通省は特別保安監査を実施することとなった。
マスコミで放映された事故現場付近の線路は、波うつレールとひび割れた枕木、生い茂る雑草は道床(バラスト部分)をも覆い尽くしており、これほど荒廃した現場は見たことがない。事故後の調査で、こうした異常箇所放置が全社で約270箇所にも及ぶことが判明している。
おそらく、通り(直線や円曲線の基準)・高低差などの軌道(線路)狂いが許容限度に近い箇所はその比ではないと思われる。
線路は生きものであり、手をかけ育てなければ安全は担保できない。もはや、長年の酷使で疲弊しきった線路に、安全運行を支えるだけの体力はない。列車運行の基礎をなす線路の破壊は、安全管理が危機的状況であることの証左であろう。
紛れもなく、国鉄「分割・民営化」のツケが垣間見える。一方で政府は、「安全管理に取り組む姿勢や服務規律のあり方に問題があるのでは」と複数ある労働組合との関係にすり替える談話を発表している。
分割・民営化時のヤミ・カラキャンペーンと同じ手法であるが、一人JR北海道の経営体質の問題だけではない。
利益優先の民営化、規制緩和の行き着く先が、今日の惨状をつくり出した根源で有ることを、政府そしてJR各社にその責任を問わなければならない。
JR採用差別事件の闘争終結から2年数カ月が経過し、改めて国鉄闘争に課せられていた役割とその運動継承の質が問われている。
『週刊新社会』(2013年10月8日)
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