◆ 大福を食べた (東京新聞【本音のコラム】)
一月で石川一雄さんは八十三歳になった。狭山事件の女子高校生殺人容疑で逮捕されてから五十八年六カ月、仮出獄からでさえ二十七年がたった。
無実を叫び続けているが未(いま)だに「殺人犯」の烙印(らくいん)が押されたままだ。獄中生活は三十一年半。司法の誤りは重すぎる。やり直し裁判はまだ始まっていない。
この裁判を応援するようになったのは、わたしが就職し、あっちこっち取材で旅行し、家庭をもち子どもが生まれるなどの生活があったのに、おなじ年代の彼の、無実の罪でただ獄中に閉じ込められていた生活を、残酷だと思ったからだ。
一徹なところがある石川さんは「見えない手錠」が外されるまでは、といって父母の墓参りさえも我慢している。我慢と言えば彼は大福餅も食べなかった。
子どもの頃は、貧しくて買ってもらえなかった。最近初めて食べて美味(おい)しかった、といった。
獄中で糖尿病になったのは、運動時間も惜しんで、字を覚える勉強をしていたからだ。
この事件でもっとも重要な証拠が「脅迫状」である。が、石川さんは非識字者で脅迫状を書くなど奇想天外な濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)だ。
最近のコンピュー夕ーによる字形のズレ量を計測した科学的鑑定でもそれは証明されている。
同じ年代の友人たちはどんどん他界していく。
誕生日に会って無罪獲得まで元気でいようと誓い合った。
『東京新聞』(2022年2月1日【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
一月で石川一雄さんは八十三歳になった。狭山事件の女子高校生殺人容疑で逮捕されてから五十八年六カ月、仮出獄からでさえ二十七年がたった。
無実を叫び続けているが未(いま)だに「殺人犯」の烙印(らくいん)が押されたままだ。獄中生活は三十一年半。司法の誤りは重すぎる。やり直し裁判はまだ始まっていない。
この裁判を応援するようになったのは、わたしが就職し、あっちこっち取材で旅行し、家庭をもち子どもが生まれるなどの生活があったのに、おなじ年代の彼の、無実の罪でただ獄中に閉じ込められていた生活を、残酷だと思ったからだ。
一徹なところがある石川さんは「見えない手錠」が外されるまでは、といって父母の墓参りさえも我慢している。我慢と言えば彼は大福餅も食べなかった。
子どもの頃は、貧しくて買ってもらえなかった。最近初めて食べて美味(おい)しかった、といった。
獄中で糖尿病になったのは、運動時間も惜しんで、字を覚える勉強をしていたからだ。
この事件でもっとも重要な証拠が「脅迫状」である。が、石川さんは非識字者で脅迫状を書くなど奇想天外な濡(ぬ)れ衣(ぎぬ)だ。
最近のコンピュー夕ーによる字形のズレ量を計測した科学的鑑定でもそれは証明されている。
同じ年代の友人たちはどんどん他界していく。
誕生日に会って無罪獲得まで元気でいようと誓い合った。
『東京新聞』(2022年2月1日【本音のコラム】)
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