=メディアの今 見張り塔から(『東京新聞』【日々論々】)=
◆ 詐欺的な政治広告 批判への対応に注目
ジャーナリスト・津田大介さん
講談社の十~二十代向け女性ファッション誌「ViVi」は六月十日、公式ツイッターアカウントに自民党とのタイアップ記事へのリンクを投稿した。
「わたしたちの時代がやってくる!権利平等、動物保護、文化共生。みんなはどんな世の中にしたい?【PR】」
と題されたこの記事は、自民党のPR記事ではあるものの、政策を訴えるものではなく、同誌の女性モデルらが「どんな社会にして行きたいか」をテーマに、「お年寄りや外国人に親切な国でありますように」「いろんな文化が共生できる社会に」など、それぞれの想(おも)いを伝える内容になっている。
このタイアップ広告をめぐり、インターネット上には同誌に対する批判が相次いで投稿された。
講談社は批判をうけ「若い女性が現代の社会的な関心事について自由な意見を表明する場を提供したいと考えました。政治的な背景や意図はまったくございません」とコメントした。
自民党は五月一日の新元号「令和」の施行に合わせ、新広報戦略として「#自民党2019」プロジェクトを開始しており、安倍首相とさまざまな分野で活躍する若者が共演するスタイリッシュな映像作品の公開や、画家の天野喜孝氏による、安倍首相ら自民党幹部七人を侍になぞらえた水墨画風の巨大野外広告などを展開している。
Viylとのタイアップ広告も同プロジェクトの一環として行なわれたものだった。
政党のメディア戦略に詳しい社会学者の西田亮介氏は、自民党の広報戦略を無党派層を取り込むためのセオリー通りの「若者向けマーケティング」と肯定的に評価した。
日本では雑誌やネット上での政党広告が禁じられているわけではないし、海外の女性雑誌では当たり前のように政党の広告が入っている。それだけ見れば、今回のキャンペーンそのものに大きな問題があるわけではない。
批判されているのは、このキャンペーン広告で女性モデルたちが発信した「多様性」や「平等」といった価値観と、自民党が掲げる政策に著しい乖離があることだ。
東京都議会で六月十九日に可決された選択的夫婦別姓の法制化を求める請願で、自民党だけが反対したことは、広告のメッセージと自民党の政策の乖離を象徴している。
ほとんど詐欺的とも言える政治広告を発信した講談社のメディア倫理が問われるのは当然だ。
もう一つの論点としては、潤沢な政党交付金やメディア対策で官房機密費を使える自民党が、こうした広告戦略を打つことの是非である。
税金を投入してイメージ中心のインフルエンサーマーケティングを行うことが横行すれば、資金力の差によって有権者の票が左右される状況が加速する。
今回の件で講談社と自民党は契約内容や金額を一切明らかにしていないが、政治資金と同様に、第三者が検証できる仕組みづくりが必要ではないか。
かつて同誌に携わった編集者の軍地彩弓氏は、パフィントンポスト日本版への寄稿で「政治的な意図はない」とする講談社に対して「読者や社会に対する説明責任を果たしていない」と苦言を呈した。
筆者も同感である。ジャーナリズムの一翼を担う同社が批判に対してどれだけ真摯(しんし)に対応するのか注目したい。
(毎月第4木曜日に掲載)
『東京新聞』(2019年6月27日)
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