《リベルテ(東京・教育の自由裁判をすすめる会ニュース)から》
◆ 東京「君が代」裁判・五次訴訟報告
~2期日にわたる証人尋問を終え、結審へ
審理担当 鈴木 毅
東京「君が代」裁判・五次訴訟は、第13回口頭弁論ののち4月17日に進行協議が行われ、学者証人1名と原告9名への尋問を計480分、2期日で実施することを決定。7月4日(木)・18日(木)に午前・午後にまたがる日程での弁論が設定されました。
そして7月4日の第14回口頭弁論では、行政法の専門家である岡田正則早稲田大学大学院法務研究科教授と原告3名(井上佳子、鈴木毅、田中聡史)への尋問を行い、7月18日の第15回口頭弁論では、原告6名(今田和歌子、大能清子、山口美紀、秋田清、川村佐和、山藤たまき)への尋問を行いました。
いずれも地裁最大規模(傍聴席98席)の103号法廷で10~12時・13~15時にわたって実施しました。傍聴席はいずれもほぼ満席で進行し、本訴のヤマ場にふさわしい法廷となりました。
なお18日の尋問終了後、結審に向けての日程が示され、11月29日までに最終準備書面を提出し、12月16日(月)に最終弁論(13:30~14:30/631号法廷)を行うことが決まりました。 <追記:裁判所の都合で延期(日程未定)になりましたので、ご注意下さい。>
今回は、2期日に渡った証人尋問のうち、一日目、4日に行われた尋問内容の概要を報告します(18日の分は次号にて報告予定)。
尋問は、はじめに主尋問(今回は原告側代理人による尋問)が行われ、その後、反対尋問(被告側代理人による尋問)、そして必要な場合は裁判官による質問があって終了しますが、場合によっては、さらに補充尋問が行われる場合があります。
なお、証人および原告はこの尋問に先立って「意見書」および「陳述書」を提出しており、尋問ではこの内容に関連する事項が扱われます。
4日に行われた弁論では、冒頭で尋問予定者4名が宣誓を行い、直ちに岡田教授への尋問を開始しました。以下、その概要を報告します。なお、原告反対尋問の内容は省略します。
①岡田正則教授への尋問(証人の発言内容を要約)
岡田教授はまず、本件について行政法の観点からみると、職務命令と処分の妥当性について再検討が必要だとし、本件について検討した結果、懲戒処分の適否について審査する場合に必要な留意、考慮がなされておらず、比例原則に違反し、手続き的な相当性も欠き懲戒権の濫用にあたると指摘した。
【「上司の命令は絶対」は通じない】
職務命令には訓令的職務命令(行政組織間の指揮監督権の行使としてなされる職務命令)と非訓令的職務命令(公務員個人の規律に関わる職務命令)の二種類があり、本件職務命令は後者にあたる。
後者は「受命公務員の身分や勤務条件に係る権利を侵害するものである場合には、当該職務命令への服従義務を否定される」と解されるのが通説であり、「上司の命令は絶対」というのは現代では通じない。
「従える命令かどうか」「処分が必要かどうか」の検討が必要になる。つまり公務員の勤務関係においても懲戒権濫用の法理が適用されることになるが、本件はそのケースにあたる。
【懲戒権濫用の内実】
そこで懲戒権濫用の判例法理に沿って検討すると、まず「処分の根拠規定の存在」だが、君が代斉唱時の起立・斉唱は法律上の義務ではないため起立強制には法的根拠がない、また当時の人事部長が通達発出時の説明会で「職務命令を出して従わせるのが大事だ」と説明していることからもわかるように、処分が多事考慮および不正な動機に基づいていることも妥当性を欠く。
次いで「客観的に合理的な理由の存在」については、不起立行為が卒業式等の進行に何ら支障を生じさせていないことを考えると理由を欠く。
また処分理由に示された地公法33条(信用失墜行為)違反にも客観的な根拠がなく、都教委の恣意的な思い込みに基づく判断だと言わざるを得ない。
そして三点目の「処分の程度や手続きが社会通念上相当であると認められるか否か」という点については、比例原則違反や手続き的な相当性を次いた場合は懲戒権の濫用となり違法となる。
これらの点について検討していく上で、いくつか考慮すべき事項(要考慮事項)があるが、とりわけ重要なのは教員の専門性とそれに基づく教員自身が有する裁量権だ。しかしこの点についての考慮が全くなされていない。
1966年にユネスコで採択された「教員の地位に関する勧告」は専門職である教員の身分保障は不可欠で、恣意的な処分は許されないと指摘しおり、これを考慮すべきであるが、無視。
さらに近年、ILO・ユネスコが本件について新たな勧告を出し、制裁的な懲戒処分が教員の思想・良心の自由を侵害する懸念が示されているがこれも無視。国際社会において「日本が民主国家である」というのであれば、これらの勧告に適合させるのは常識で、このような処分はやめるべきだ。
【再処分の違法性】
再処分は理由の記載がなく手続き上違法であるが、実体面でも違法である。
まず処分内容を変更したのにその理由が示されていないという時点で懲戒権の濫用となるが、処分者が取消判決を考慮する義務を果たしていない点でも違法となる。
第一に、前訴取消判決は、減給処分などの「量定を裏付ける事由がない」という判断をしたのであって、「量定が不合理だ」と判断したわけではない。
答弁書を見るとこの点を被告は誤解し、原処分における判断事由を見直すことなく再処分を発令している。すなわち要考慮事項を考慮することなく戒告処分を発令しているわけで、裁量権逸脱濫用にあたり違法だ。
第二に、原処分と同様に、任命権者への服従を自己目的化した命令とその手段としての懲戒権の行使であることは不正な動機に基づく行為で、明らかに違法である。
第三に、比例原則違反にあたり違法だ。最高裁は原処分を「処分の選択が重きに失するもの」との理由で取り消したが、その際、処分によって得られる利益と失われる利益とを衡量した。この際の懲戒処分による不利益については「経済的な不利益」を挙げているが、実際には人事上や任用上の不利な取り扱いなど他にもさまざまな不利益があることに加えて、戒告処分を受けた場合よりも加重された内容の再発防止研修を受けさせられていることも考慮すべきである。
この再発防止研修は処分の延長である懲罰的行為で、原処分取消後もその事実行為は消せず、不利益行為、事実行為として残っている。
これらのことを衡量すれば、本件再処分も「処分の選択が重きに失するもの」として、社会通念上著しく妥当を欠く懲戒権濫用による違法との評価は免れないものとなる。
【被告による反対尋問】
※質問の多くは省略し、岡田教授の返答の要旨を紹介する。
・(労働関係法は公務員には適用されないのでは?に対して)→法理は適用される。
・(一級建築士事件の判例は本件と同一に論じられるのか?)→できる。法理は適用される。
・(教員の裁量には限界があるのでは?)→本件では専門職としての教員の裁量は全く考慮されていないことが問題だ。
・再発防止研修は教育専門職を対象とした研修ではない。不利益処分の延長にすぎない。くり返し反省を迫っている点で、(再発防止研修執行停止申立の)東京地裁決定が危惧していた違憲のレベルに達している。
・都教委は「日の丸・、君が代」を命令に従うかどうかを点検する道具にしている。
・公正な手続きの観点からすれば、手続き的な保障が必要。
・特別活動において専門的な判断にもとづく行為は有用である。儀式的な行事を考慮して静かに座っている行為に対して「支障がある」という見方があったとは証明されていない。
・「全体の奉仕者」とはその場の多数者に奉仕する者を意味するのではない。
・最高裁は単なるくり返しによる処分加重はいけないと言っている。説明もなく減給してはいけない。
・再処分の時に原処分と同じ理由を示すことはあり得ない。
【裁判官質問】
(右陪席裁判官)
事情聴取と聴聞の違いのメルクマールは何か?
→聴聞は、処分内容を示して弁明を聴く機会を意味する。
(裁判長)
意見書にある「真に教育的考慮に基づく行為」という記述について説明をしていただきたい。
→教育的な意味を問い直して選び取った行動を意味する。
『リベルテ(東京・教育の自由裁判をすすめる会ニュース) 75号』(2024年7月31日)
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