◆ 「GIGAスクール」構想って何?
~政府の教育ICT化戦略=「未来の教室」は学校を「人材カタログ」工場にする
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「大阪府大阪市の成果報告」から
大阪府はコロナ感染の急拡大に対応して、4月25日から「緊急事態宣言」の体制に移行しています。これに伴って、大阪市では松井市長が1人に1台のパソコンを配ったのだから、「オンライン学習」ありきで進めという方針を押しつけています。市教委は、現場の実情を無視して、市長方針に従う施策を強行しています。
小学校では2時間目まで自宅でのオンライン学習を各家庭で行い、登校後にプリント学習を行ったあと後全員で給食、中学校でも4時間目まで家庭でのオンライン学習のあと全員で給食、午後からプリント学習を行うというものです。
しかし、これでは1日の内の学校にいる時間が短縮されるに止まり、最も感染拡大の危険の高い過密状態での喫食、1クラス40人での過密状態での対面授業の形式はこれまで通りということです。
また、1人1台のPCが各校に配当されただけで、充電システムは1学年分しかない、家庭でのネット環境も未整備のままな等々問題点は山積みのままでの強行になっています。
学校現場は、ヘトヘトの状態で無茶ぶりへの対応に追われている状態です。現場を無視した政治目的の人気取りとしか思えない政治的な押しつけは今すぐ中止すべきです。
では、政府がコロナ禍に乗じて強行かつ性急に進めようとしている「GIGA(ギガ)スクール」(Global and Innovation Gateway for All)、「未来の教室」構想とは一体どのようなものなのでしょうか。
コロナ禍での政治的強制問題とは別に、大阪の実例を紹介しつつ、政府構想が学校を中心とする教育機関のすべてで子どもたちを「人材」として管理し、ICT技術を駆使して幼児期から一人一人の「個別学習計画」を策定し、蓄積した「学習ログ」の上書きと修正によって個人の一生を政官財で管理する「人材カタログ」作りを推進しようとする側面について考えたいと思います。
(1)「GIGAスクール」って何? ~大阪の実例から見る~
「GIGAスクール」構想とはどのようなものなのか。子どもたち1人に1台のパソコンが公費で支給され、授業や一人一人の学習にパソコンやICT機器を積極的に導入するというが、その実態はどうなのか。
大阪市は、全国に先駆けて、2017年度から2カ年の「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」(総務省)、「次世代学校支援モデル構築事業」(文科省)に参加し、大阪市の小学校3校と中学校2校を実証校に指定し、システム構築とソフトの活用実験を行わせた。
「ダッシュボード(SKIP)」というシステムに子どもたちのすべての情報を集めて「ビッグデータ」として蓄積し、「児童・生徒カルテ(子ども一人一人の情報)」、「学級カルテ(学級単位の情報)」、「学年カルテ」、「学校カルテ」等の形で再整理された情報を教職員や管理職はもちろん、教育委員会(行政)にまですべて「見える化」する究極の教育管理システムを作らせた。
「ダッシュボード」に集約される情報は、一人一人の出席状況から家庭環境、生活状況、既往歴から健康診断結果等健康状況や保健室利用履歴、個人の学習成績から日常所見(日常生活の様子や特技・性格等)まで個人情報のすべてにわたっている。
※ (大阪市教育委員会事務局 大阪府大阪市の成果報告 総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000609008.pdf
文科省全国学力調査や大阪独自の学力テストの成績や解答分析、単元ドリル・単元テスト・定期テストの結果と学習状況データとその分析結果、学習ソフトとそれによる学習履歴(ログ)等の学習系システムは、凸版印刷や大日本印刷等の教育企業エドテック(EdTech)が担う。
大阪独自の学力テストは、文科省の「全国学力調査」(学テ)と同じベネッセコーポレーションや内田洋行、リクルートなどに発注され、このデータも「ダッシュボード」に蓄積される。
学習成績以外の「校務システム」はエデュコム(株)が担い、システム全体はNECが統括する。
一人一人の学習履歴(ログ)から家庭環境に至るまで、民間企業の運営するシステムに「ビッグデータ」として蓄積させ、小学校入学時から中学校卒業まで蓄積され続ける。将来的に、幼稚園からの情報の引き継ぎと入試への活用を含めた高校や大学との接続まで計画されている。
(2) 新年度に始まる大阪市立小中学校への強制の第一歩
2020年9月には、すべての大阪市立学校と「ダッシュボード」が接続された。
10月には「心の天気(今の気持ちを児童・生徒が自分で入力、データを蓄積)」を最初に稼働させた。
2021年3月には、GIGAスクール構想の前倒しによって市立学校のすべてに一人1台のパソコン配布が完了した。
膨大な時間を要するパソコン1台1台の初期化作業は、多くが教員に強制された。
4月からは、小学校全校に「デジタルドリル」、中学校全校に「デジタルテスト」(AI学習システム)が導入され、「心の天気」とともに、全員が必ず毎日「ログイン」して、1分でも「取り組む」ことを義務付ける。
その内容は、すべてダッシュボードに記録される。
そして、「様子がおかしい」と判断する子どもを「発見」すると「アラート」(警告)が担任と管理職に伝えられる等機械による児童・生徒管理の第1歩が始まる。
(3) 教育のあり方も学校の姿も大きく変えられる
これが本当に教育なのか。
上からいきなり持ち込まれたものは、子どもたちの学習のあり方から一人一人の行動と心まで数値化して管理するシステムだ。
これまでの人と人との関わりの中で進められてきた教育が、根本から破壊される危険性がある。現場の教員の多くが、戸惑い、悩み、憤っている。
子どもたちは、登校したらすぐに教室に置いてある自分のパソコンを立ち上げ、全員がまず「心の天気」を入力させられる。将来的には毎時間「心の天気」を入力する。
教員は、これまで教室で顔を見て、声を聞き、仕草を見て、子どもたちの様子を確認してきた。このシステムは、職員室で教員用パソコンを見て子どもたちが入力したデータ一覧をチェックする。
これでは、子どもと直接ふれ合うことによってその思いを感じ取り、意欲や困りごとに対応しようとする力は、著しく劣化していく。「データ」で子どもの心情の変化をつかむことなどできない。子どもはそんな単純な存在ではない。子どもの変化や成長は、大人と子ども、子どもどうしの関係の中で育まれていくものだ。
※ https://www.youtube.com/watch?v=sSjm6rIiDeU(ICTと先生の1日) ← これをどう感じますか?
デジタルドリル(小学校)とデジタルテスト(中学校)は、子どもが取り組んだ問題とその正答・不正答、正答に至る過程、ドリルの実施回数等がダッシュボードに蓄積する。
AI教材は、あらかじめプログラムされた各教科の内容と進度や理解度の段階に子どもたち一人一人を位置づけて、その達成状況に応じて自動配信される「課題」を子どもたちに与えていく。
21年度は、今のところ、朝学習や昼学習、放課後学習等授業外の利用に限定されてはいる。しかし、やがてすべての授業、すべての教育活動への導入が計画されている。
授業内容へのデジタル教材の導入はテスト及び「評価」への反映を通して、AIからの指示による点数競争となり、学習の進め方から内容に至るまで、ダッシュボードに管理されることになる。ダッシュボードは数値化できる「成果」を重視し、学校や教員、そして子どもたちの「評価」を根拠づける装置だ。
「データに基づく教育」が普遍的に高い価値を有し、短期間の成果が数値化できない教科や人権教育、人格形成のための根源的な「学び」は軽視される。
教職員や市民の粘り強い闘いによって制度の強行を止めたが、大阪市の吉村市長(当時)は、2018年度に学力テストの結果を教員給与に反映させる制度を強行しようとした。ダッシュボードは「成果」で学校や教員を格差付けする「根拠」として使われそうだ。
※ https://www.dnp.co.jp/biz/theme/edu/[例えば、DNP(大日本印刷)のEdTechサイト]
(4) 教員の働き方も公教育の役割も破壊される
テスト結果や学習履歴で子どもの姿をビッグデータ化し、AIの指示や「アラート」による学習指導や生活管理が義務化され、教育実践が機械的に動機付けられるとすれば教員の専門職性が揺らぐのは明らかだ。
GIGAスクールは、子ども一人一人の発達段階や学習進度に合わせた教材の提供や指導が行えるとするが、構想には少人数学級や少人数指導のために専門職としての教員の定数を根本的に増やす発想はない。
民間企業による教員免許のない講師や補助教員、ICT指導員、学習支援員やスクールサポートスタッフ等の非正規職員の派遣で補うとしている。
子ども自身の意欲や関心に支えられ、教員がそれに呼応する形で作り上げられてきた「学び」ではない。機械的な「人材育成プログラム」に基づくアルゴリズムにしたがって、教員や学習支援員らがAIの提示する「効率的な」学習と「課題解決スキル」獲得のための道具となることではないか。
教員の専門職性は薄まり、専門職ではない非正規職員が学校職員の多くを占めても大丈夫だという発想だ。
子どもと教員、子ども同士の学びあいや人間的ふれあいから生まれる好奇心や意欲の発現が、効率優先の後景に退き、子どもと教員、子ども同士、教員同士の直接のコミュニケーションの中から教育実践を産み出す営みが根本から破壊される危険性がある。
(5) 総務省・文科省・経産省がタッグを組む「未来の教室」
経産省は、構想を「『未来の教室』ビジョン(経産省「未来の教室」とEdTech研究会第2次提言)」(2019年6月)にまとめ上げている。同省は、総務省と文科省を強引に引き込みながら構想の具体化を強行している。それは、
①STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)を中心とする学習コンテンツの開発と授業編成や指導案のモデルプランを提示する。その推進のために、
②学びの「自立化・個別最適化」を徹底する。一斉授業からEdTechを活用した「自学自習」を前提とした学習到達度主義、幼児期からの「個別学習計画」と「学習ログ」(学校や学習塾・フリースクール・スポーツ教室・音楽教室等の民間の教育サービス、子どもたちを支援する専門家等による連携も容易にする標準化されたフォーマットを利用して相互運用性を担保して蓄積したあらゆる個人データ)による管理を徹底し、近い将来には「学習ログ」を入学者選抜へも活用する。そのための、
③新しい学習基盤=ICT環境整備(1人1台パソコン・高速大容量通信・クラウド接続の実現等)を行う。
※ 未来の教室 ~learning innovation~ (learning-innovation.go.jp) 経産省「未来の教室」Webサイト
https://www.learning-innovation.go.jp/
菅政権は、マイナンバーに学習ログまで紐付けしようとしている。
マイナンバーによって、人が生まれてから死ぬまでのすべてを「人材カタログ」化して国家管理を徹底し、民間資本には自由活用を認め最大限の利益を得させようということだ。経団連等財界は、諸手を挙げて菅構想に賛同している。
「未来の教室」とは、学校を「人材カタログ」工場にする構想だ。
『子どもに「教育への権利」を!大阪教育研究会』(2021年4月30日)
~政府の教育ICT化戦略=「未来の教室」は学校を「人材カタログ」工場にする
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「大阪府大阪市の成果報告」から
大阪府はコロナ感染の急拡大に対応して、4月25日から「緊急事態宣言」の体制に移行しています。これに伴って、大阪市では松井市長が1人に1台のパソコンを配ったのだから、「オンライン学習」ありきで進めという方針を押しつけています。市教委は、現場の実情を無視して、市長方針に従う施策を強行しています。
小学校では2時間目まで自宅でのオンライン学習を各家庭で行い、登校後にプリント学習を行ったあと後全員で給食、中学校でも4時間目まで家庭でのオンライン学習のあと全員で給食、午後からプリント学習を行うというものです。
しかし、これでは1日の内の学校にいる時間が短縮されるに止まり、最も感染拡大の危険の高い過密状態での喫食、1クラス40人での過密状態での対面授業の形式はこれまで通りということです。
また、1人1台のPCが各校に配当されただけで、充電システムは1学年分しかない、家庭でのネット環境も未整備のままな等々問題点は山積みのままでの強行になっています。
学校現場は、ヘトヘトの状態で無茶ぶりへの対応に追われている状態です。現場を無視した政治目的の人気取りとしか思えない政治的な押しつけは今すぐ中止すべきです。
では、政府がコロナ禍に乗じて強行かつ性急に進めようとしている「GIGA(ギガ)スクール」(Global and Innovation Gateway for All)、「未来の教室」構想とは一体どのようなものなのでしょうか。
コロナ禍での政治的強制問題とは別に、大阪の実例を紹介しつつ、政府構想が学校を中心とする教育機関のすべてで子どもたちを「人材」として管理し、ICT技術を駆使して幼児期から一人一人の「個別学習計画」を策定し、蓄積した「学習ログ」の上書きと修正によって個人の一生を政官財で管理する「人材カタログ」作りを推進しようとする側面について考えたいと思います。
(1)「GIGAスクール」って何? ~大阪の実例から見る~
「GIGAスクール」構想とはどのようなものなのか。子どもたち1人に1台のパソコンが公費で支給され、授業や一人一人の学習にパソコンやICT機器を積極的に導入するというが、その実態はどうなのか。
大阪市は、全国に先駆けて、2017年度から2カ年の「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」(総務省)、「次世代学校支援モデル構築事業」(文科省)に参加し、大阪市の小学校3校と中学校2校を実証校に指定し、システム構築とソフトの活用実験を行わせた。
「ダッシュボード(SKIP)」というシステムに子どもたちのすべての情報を集めて「ビッグデータ」として蓄積し、「児童・生徒カルテ(子ども一人一人の情報)」、「学級カルテ(学級単位の情報)」、「学年カルテ」、「学校カルテ」等の形で再整理された情報を教職員や管理職はもちろん、教育委員会(行政)にまですべて「見える化」する究極の教育管理システムを作らせた。
「ダッシュボード」に集約される情報は、一人一人の出席状況から家庭環境、生活状況、既往歴から健康診断結果等健康状況や保健室利用履歴、個人の学習成績から日常所見(日常生活の様子や特技・性格等)まで個人情報のすべてにわたっている。
※ (大阪市教育委員会事務局 大阪府大阪市の成果報告 総務省「スマートスクール・プラットフォーム実証事業」)
https://www.soumu.go.jp/main_content/000609008.pdf
文科省全国学力調査や大阪独自の学力テストの成績や解答分析、単元ドリル・単元テスト・定期テストの結果と学習状況データとその分析結果、学習ソフトとそれによる学習履歴(ログ)等の学習系システムは、凸版印刷や大日本印刷等の教育企業エドテック(EdTech)が担う。
大阪独自の学力テストは、文科省の「全国学力調査」(学テ)と同じベネッセコーポレーションや内田洋行、リクルートなどに発注され、このデータも「ダッシュボード」に蓄積される。
学習成績以外の「校務システム」はエデュコム(株)が担い、システム全体はNECが統括する。
一人一人の学習履歴(ログ)から家庭環境に至るまで、民間企業の運営するシステムに「ビッグデータ」として蓄積させ、小学校入学時から中学校卒業まで蓄積され続ける。将来的に、幼稚園からの情報の引き継ぎと入試への活用を含めた高校や大学との接続まで計画されている。
(2) 新年度に始まる大阪市立小中学校への強制の第一歩
2020年9月には、すべての大阪市立学校と「ダッシュボード」が接続された。
10月には「心の天気(今の気持ちを児童・生徒が自分で入力、データを蓄積)」を最初に稼働させた。
2021年3月には、GIGAスクール構想の前倒しによって市立学校のすべてに一人1台のパソコン配布が完了した。
膨大な時間を要するパソコン1台1台の初期化作業は、多くが教員に強制された。
4月からは、小学校全校に「デジタルドリル」、中学校全校に「デジタルテスト」(AI学習システム)が導入され、「心の天気」とともに、全員が必ず毎日「ログイン」して、1分でも「取り組む」ことを義務付ける。
その内容は、すべてダッシュボードに記録される。
そして、「様子がおかしい」と判断する子どもを「発見」すると「アラート」(警告)が担任と管理職に伝えられる等機械による児童・生徒管理の第1歩が始まる。
(3) 教育のあり方も学校の姿も大きく変えられる
これが本当に教育なのか。
上からいきなり持ち込まれたものは、子どもたちの学習のあり方から一人一人の行動と心まで数値化して管理するシステムだ。
これまでの人と人との関わりの中で進められてきた教育が、根本から破壊される危険性がある。現場の教員の多くが、戸惑い、悩み、憤っている。
子どもたちは、登校したらすぐに教室に置いてある自分のパソコンを立ち上げ、全員がまず「心の天気」を入力させられる。将来的には毎時間「心の天気」を入力する。
教員は、これまで教室で顔を見て、声を聞き、仕草を見て、子どもたちの様子を確認してきた。このシステムは、職員室で教員用パソコンを見て子どもたちが入力したデータ一覧をチェックする。
これでは、子どもと直接ふれ合うことによってその思いを感じ取り、意欲や困りごとに対応しようとする力は、著しく劣化していく。「データ」で子どもの心情の変化をつかむことなどできない。子どもはそんな単純な存在ではない。子どもの変化や成長は、大人と子ども、子どもどうしの関係の中で育まれていくものだ。
※ https://www.youtube.com/watch?v=sSjm6rIiDeU(ICTと先生の1日) ← これをどう感じますか?
デジタルドリル(小学校)とデジタルテスト(中学校)は、子どもが取り組んだ問題とその正答・不正答、正答に至る過程、ドリルの実施回数等がダッシュボードに蓄積する。
AI教材は、あらかじめプログラムされた各教科の内容と進度や理解度の段階に子どもたち一人一人を位置づけて、その達成状況に応じて自動配信される「課題」を子どもたちに与えていく。
21年度は、今のところ、朝学習や昼学習、放課後学習等授業外の利用に限定されてはいる。しかし、やがてすべての授業、すべての教育活動への導入が計画されている。
授業内容へのデジタル教材の導入はテスト及び「評価」への反映を通して、AIからの指示による点数競争となり、学習の進め方から内容に至るまで、ダッシュボードに管理されることになる。ダッシュボードは数値化できる「成果」を重視し、学校や教員、そして子どもたちの「評価」を根拠づける装置だ。
「データに基づく教育」が普遍的に高い価値を有し、短期間の成果が数値化できない教科や人権教育、人格形成のための根源的な「学び」は軽視される。
教職員や市民の粘り強い闘いによって制度の強行を止めたが、大阪市の吉村市長(当時)は、2018年度に学力テストの結果を教員給与に反映させる制度を強行しようとした。ダッシュボードは「成果」で学校や教員を格差付けする「根拠」として使われそうだ。
※ https://www.dnp.co.jp/biz/theme/edu/[例えば、DNP(大日本印刷)のEdTechサイト]
(4) 教員の働き方も公教育の役割も破壊される
テスト結果や学習履歴で子どもの姿をビッグデータ化し、AIの指示や「アラート」による学習指導や生活管理が義務化され、教育実践が機械的に動機付けられるとすれば教員の専門職性が揺らぐのは明らかだ。
GIGAスクールは、子ども一人一人の発達段階や学習進度に合わせた教材の提供や指導が行えるとするが、構想には少人数学級や少人数指導のために専門職としての教員の定数を根本的に増やす発想はない。
民間企業による教員免許のない講師や補助教員、ICT指導員、学習支援員やスクールサポートスタッフ等の非正規職員の派遣で補うとしている。
子ども自身の意欲や関心に支えられ、教員がそれに呼応する形で作り上げられてきた「学び」ではない。機械的な「人材育成プログラム」に基づくアルゴリズムにしたがって、教員や学習支援員らがAIの提示する「効率的な」学習と「課題解決スキル」獲得のための道具となることではないか。
教員の専門職性は薄まり、専門職ではない非正規職員が学校職員の多くを占めても大丈夫だという発想だ。
子どもと教員、子ども同士の学びあいや人間的ふれあいから生まれる好奇心や意欲の発現が、効率優先の後景に退き、子どもと教員、子ども同士、教員同士の直接のコミュニケーションの中から教育実践を産み出す営みが根本から破壊される危険性がある。
(5) 総務省・文科省・経産省がタッグを組む「未来の教室」
経産省は、構想を「『未来の教室』ビジョン(経産省「未来の教室」とEdTech研究会第2次提言)」(2019年6月)にまとめ上げている。同省は、総務省と文科省を強引に引き込みながら構想の具体化を強行している。それは、
①STEAM(科学、技術、工学、芸術、数学)を中心とする学習コンテンツの開発と授業編成や指導案のモデルプランを提示する。その推進のために、
②学びの「自立化・個別最適化」を徹底する。一斉授業からEdTechを活用した「自学自習」を前提とした学習到達度主義、幼児期からの「個別学習計画」と「学習ログ」(学校や学習塾・フリースクール・スポーツ教室・音楽教室等の民間の教育サービス、子どもたちを支援する専門家等による連携も容易にする標準化されたフォーマットを利用して相互運用性を担保して蓄積したあらゆる個人データ)による管理を徹底し、近い将来には「学習ログ」を入学者選抜へも活用する。そのための、
③新しい学習基盤=ICT環境整備(1人1台パソコン・高速大容量通信・クラウド接続の実現等)を行う。
※ 未来の教室 ~learning innovation~ (learning-innovation.go.jp) 経産省「未来の教室」Webサイト
https://www.learning-innovation.go.jp/
菅政権は、マイナンバーに学習ログまで紐付けしようとしている。
マイナンバーによって、人が生まれてから死ぬまでのすべてを「人材カタログ」化して国家管理を徹底し、民間資本には自由活用を認め最大限の利益を得させようということだ。経団連等財界は、諸手を挙げて菅構想に賛同している。
「未来の教室」とは、学校を「人材カタログ」工場にする構想だ。
(子どもに「教育への権利」を!大阪教育研究会 井前弘幸)
『子どもに「教育への権利」を!大阪教育研究会』(2021年4月30日)
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