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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

プリンスホテル事件と映画「靖国」上映中止事件

2008年04月12日 | 平和憲法
 ◆ 私が参加する集会は大丈夫か-右翼暴力から表現の自由をどう守るか
2008年4月7日
「裁判所の決定まで無視したプリンスホテルに対する要請」呼びかけ人賛同人一同502名
代 表  呼びかけ人 毛 利 正 道(弁護士)mouri-m@joy.ocn.ne.jp

 プリンスホテル、そして映画「靖国 YASUKUNI」

 「グランドプリンスホテル新高輪」(東京都品川)が右翼街宣車による迷惑の恐れを理由として、契約も裁判所の仮処分決定も守らずに、日教組教育研究全国集会全体会(本年2月2日)などの会場と客室190室3泊分の使用を拒絶しこれを貫いたため、昨年まで56回続いてきた同全体会が開催できなくなった。高裁までの3回の司法判断を無視、「これでは裁判所の決定をだれも守らなくなるのでは」とのネットに流れた市民の声にブルッと来た私は、2月3日からメルマガ「非戦つうしん」の通信網を頼りにプリンスホテルへの態度撤回要請署名を開始。
           http://www1.ocn.ne.jp/~mourima/08.2.3purinsu2.html

 右翼が「教研集会に昨年まで街宣活動をかけてきた目的を達した」と公言する中、500を超えた賛同署名を届けた5回目の同ホテル訪問(3月24日)では、市民とともにホテルの責任者との1時間を超える会談が実現。ホテル側の回答は、ひと言で言うと、「警察と一度も協議をしていないなど、あまりにずさん、独りよがりな判断経過だったと実感した」と、その夜に第二東京弁護士会で行われた緊急憲法シンポ「日教組ホテル使用拒否を考える」で私がパネリストとして発言したとおり。シンポで私は続けて、前例にさせないため同ホテル経営主体(株)プリンスホテルに「間違っていた」と態度表明させるまで徹底して求め続ける、とも宣言した。

 さて次の手はと考えているところに、映画「靖国 YASUKUNI」の4月12日からの公開を決めていた東京・大阪の映画館5館すべてで3月中に上映中止が決まり、名古屋の1館も5月上映予定を延期した、とのニュースが流れた。全国に62の中核的ホテルを有する従業員8600名、売上年間2000億円の大企業体であるプリンスホテルが、マスメディアやネットで「契約も裁判所の決定も守らない」と公言し続けているとあっては、その「波及効果」が出てくるのではと心配していたところ、上映予定館のうち、大手「東映」直系であるシネコン「新宿バルト9」がまず上映中止を決め、他の4館も追随した。

 報道によると、「銀座シネパトス」では右翼の街宣車から抗議を受けており、名古屋の映画館では右翼から「上映は靖国神社を参拝してからにせよ」と詰め寄られ、「他の上映予定館にも上映中止を求める電話攻撃が殺到した」(映演労連声明)とのことである。毎日新聞もプリンスホテル問題が「映画界にも波及した」と述べた。「地味ながらも心揺すぶる映画」大好き人間の私としては、ここでもじっとしていられない(その後、5月以降各地で上映されることになってきたが、それによってこの「波及効果」問題が解消したわけではむろんない)。

 公の集会施設でも制約が

 (略)

 プリンスホテル会場使用拒否問題の特質

   事実経過


 (略)

 この件の第1の特質は、抗告審までの3回にわたる司法判断を得ながら、ホテル側がこれに従わず、当該集会が中止に追い込まれたことである。従来は仮処分決定が出ればこれに従って集会が開催できており、このようなことは史上初めてのようである。日教組は、解除通告を受け直ちに2000人以上規模の都内10カ所の代替会場をあたったが、もはやいずれも確保不可能であったとのことである。ホテル側は、抗告棄却決定から開催予定日まで準備の間がなかったと主張しているが、遅くとも12月26日の仮処分決定が出た時点で敗訴に備えて準備することは可能であり、さすれば十分準備期間はあった。

 また、ホテル側は、成約以後に前年の大分での教研集会の様子(のみ)を調査したところ、街宣車が2ヶ月前から多数押しかけ集会当日は150台800名が動き回り、周辺商店街休業・会場周囲2キロ道路封鎖という状態であり、今年の全体会当日にもこの状況になると、周囲半径2キロの12の会場で入試を受ける受験生7000人に多大の影響を及ぼすところだったため契約解除したと私たちに弁明した。しかし、ホテル側はその事情も仮処分審理で十分主張しており、にもかかわらず敗訴したのである。ホテルの態度を許したのでは、「裁判所の判断は守らなくてもよい」との社会風潮を醸成することに繋がる

 (むろん、「必要な条件を付すことができる」とする都公安条例第3条ならびに、20台の車両をデモに付随させたいとした申請に対し、人列の両端各一台の宣伝カーのみ認めるとの条件を付したケースについて合法とした東京高等裁判所1982年10月31日決定によれば、受験生に被害が及ばないように街宣車の走行道路・台数を制限することは十分可能である)。

 第2の特質は、会場が公の施設ではなく、民間だったことである。そのため、上記公の施設をめぐる判例の到達点はストレートには適用されず、ホテル利用契約の契約解除の有効性が焦点となり、会場使用申込み段階での上記説明程度で説明義務を履行しているがゆえに解除理由がないとの司法判断となった。民間の場合の最大の問題は、憲法の表現・集会の自由規定が直接は適用されないと理解されていることである。

 しかし、ホテルは(映画館も)単なる私企業ではなくそれ自体高い公共性をもった存在である。少なくとも「(株)プリンスホテル」は全国各地に中核的な役割を担っている大規模ホテルを多数抱え、業界で大きな影響力を持つ大企業体であり、「憲法人権規定の私人間効力」が間接的にせよ発揮される場面だと思われる。大規模な企業ほど、企業の社会的責任が強く求められるということは、このことをも意味している。この点では、映画「靖国」の上映を最初に断った映画館が、大手東映直系だったことも想起されなければならない。

 さらに民間の場合に留意されるべきは、会場使用を拒否する側も憲法によって表現の自由が保障されている存在であるところ、プリンスホテルや東映のような態度を取っていたのでは、その社会的風潮を助長することによりついにはみずからの表現の自由、さらに営業の自由までも奪われてゆくということである。プリンスホテルよ、それでよいのか。

 (略)

 特別に重要な「繋がる権利」、そしてそれを侵す元凶との闘い

 (略)

 ここで、今回のような事態が起こる元凶である右翼街宣行動の犯罪性について再認識しておく必要がある。上記第二東京弁護士会シンポでのパネリストを務めた朝日新聞社の樋田毅氏によると、大音響の街宣車で騒ぐ右翼の大半は、暴力団と密接な繋がりのある「任侠右翼」(警察用語で「右翼標榜暴力団」である。私自身も、地元で刑事事件を担当した際、右翼幹部と暴力団が繋がっていることを体験している。現実の街宣行動も、多数の街宣車で繰り出せば明らかに脅迫罪や威力業務妨害罪、道路交通法違反が成立するし、たった一台での街宣行動であっても、それを受けた一市民が青ざめわなわなと震え縮み上がる現場に立ち会ったことのある私から見れば、りっぱに脅迫罪が成立する。右翼の街宣行動とは、このような擬似犯罪者集団による犯罪行動なのであって、表現の自由で保障される対象になるものではない。その資金源含めて、そのような犯罪行動は社会からいっさい放てきされるべきである。

 その役割を任務として担っているのが警察であるが、現実はどうか。私に寄せられた情報によると、2000年2月27日に横浜市桜木町駅前で行われた「『日の丸・君が代』の法制化と強制に反対する神奈川の会」主催のリレートーク集会を、右翼街宣車十数台100名以上が取り囲み、大音響をまき散らし隙あらば襲いかかろうとまでしたのに対し、警察はただ両者の間に立つだけでこの妨害を止めさせることなく、あろう事か主催者側に対し、「右翼を刺激するから」とマイクを切ろうとまでし、結局、集会は3分ほどで中止となり、デモもできなかった。明白な威力業務妨害罪の事態を放置したことになる。この他にも、第一線で右翼と対峙したことのある多くの人びとから、「警察は右翼に甘い」「右翼と共犯だ」との声を聞いている。事態の抜本的転換が図られなければならない。

 私たちになにができるか

 とりあえず、列挙してみる。できるところから始めましょう。その様子を毛利までお知らせ下さい。

1 日教組の提訴は、その2000近い原告からなる規模・構えからして意気込みが感じ取れる。この裁判闘争を支援する。

2 全国のプリンスホテルに対し、団体として不使用・不泊運動を行うことを呼びかけたい。既に、連合が呼びかけているが、これに呼応し、全国のどのような団体であれ、できればプリンスホテルを使いたいというときには、ぐっとこらえ、そのプリンスホテルに「利用したいと思ったが、不使用運動が呼びかけられているので止めておく」と電話一本入れるのである(個人の場合は、このような対応をすることも、相手の目に見えるところまで実績を重ねることも極めて困難であるので、提唱はしない)。

3 全国における集会・表現の自由侵害事例を調査収集公表する。警察の対応を含む右翼暴力関連のものは当然であるが、刑事弾圧なども含め、表現の自由が今どのように侵害されているのかトータルに把握することも重要である。

4 全国のすべての弁護士会で、プリンスホテル問題を始めとする最近の表現の自由侵害動向について、抗議とともに、「警察に責任ある警備取締りを求めるとともに、社会全体として右翼の暴力・脅迫に屈することなく、集会・表現の自由を守ってゆきましょう」とのアピールを発するとともに、継続して取り組んでゆく(これまでに、日弁連会長談話のほか、第二東京・静岡・長野の各単位会が会長声明)。

5 全国の地方自治体の首長や議会において、みずから上記と同様なアピールを発表・決議させるとともに、議会においては、地方自治法99条の国会・内閣に対する同趣旨の意見書採択を陳情する。国会質問でも取り上げる。

6 全国で無数に行われている各種集会において、この基底的権利の侵害状況について短時間であっても必ず触れる。

7 全国各地で、各自各団体が多様な取り組みを行うとともに、特別に重要な課題としてメディアに大きく取り上げてもらうよう働きかける。表現の自由なくして存在意義のないメディアの責任大である。


-この論説は、多くの呼びかけ人賛同人から寄せていただいたご意見で完成したものです-

 ※ 全文はこちらから『弁護士毛利正道のページ』http://www1.ocn.ne.jp/~mourima/08.4.7uyokubouryoku.html
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