パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「河野談話」見直し論の問題点

2014年05月13日 | 平和憲法
 ■ 日本の右傾化を進め 国家主義化を企む
鈴木裕子(女性史研究家)

 ■ はじめに
 一昨年、安倍晋三内閣が誕生以来、暴力的な雰囲気に日本社会が包まれている。
 この間、特定秘密保護法による治安国家化、集団的自衛権行使の解釈改憲等による軍事化、愛国心・郷土愛・天皇信仰への傾向を強める国家主義化、さらに歴史認識をめぐる偽造の創出の暴挙を政権与党、複数野党が行っている。
 日本維新の会共同代表の橋下徹大阪市長の日本軍「慰安婦」をめぐる「妄言」、それを擁護する同会共同代表の石原慎太郎元都知事の発言などに続いている。さらなる「妄言」や右翼的行動が急ピッチで進んでいる。
 ■ 「河野官房長官談話」見直し論の急速な台頭
 安倍首相は、2012年の総選挙での公約に「河野談話」の見直しを掲げたが内外の反対に遭い、いったんは引っ込めたものの、依然として「見直し」を狙っている。ただ日韓間の関係悪化を危惧する米国に気兼ねして、表向きは沈黙を守っているにすぎない。
 首相の意を代弁するかのごとく、14年1月、新しく選任されたNHKの籾井勝人会長が就任記者会見でオランダの「飾り窓」を例に「慰安婦」は「商行為」、どこの国も行っていた。日本軍だけが非難される言われはないと発言。まさしく橋下市長の「妄言」を彷彿させ、市民団体から猛烈な批判を受けている。
 他方、自民党から脱党し、いわば別働隊ともいえる維新の会やその傘下組織・関係団体が、昨13年より今日にかけて、「日本の誇り」の名の下に侵略戦争を美化し、「河野談話」見直し論や運動が力を増している。
 その背景には自民党、みんなの党、日本維新の会など右派勢力が圧倒的に国会の議席を占めているという事実と、この間進行している日本社会の保守化・反動化が指摘できる。
 ■ 日本維新の会と民間右翼の勢いづくエスノセントリズム・他民族排斥運動の展開
 いま、「見直し」の先頭を切っているのが、日本維新の会である。最近では、2月20日、衆院予算委員会における元杉並区長の山田宏議員の「慰安婦」問題についての質疑に示される。その言い分は、大要、次のようなものである。
 「何としても日本の課せられたいわれのない汚辱を晴らしたい」「日本軍や官憲が直接強制連行に加わって、少女たちを性奴隷にしたなどというものを、河野談話は認めたものでなかった」「河野談話は、確たる証拠もなく、一方的な〔被害者〕証言で、しかもその証言内容もいい加減、日本人として胸を張れない、こうした状況を改善するのが政治家の役割」。
 これに対し菅義偉官房長官は、「機密」事項として、言葉を濁したものの、同月28日、政府内に「河野談話」検証チーム設置を明らかにした。
 同日、維新の会は、中山成彬衆院議員・元文科相の名で、河野談話の見直しを求める署名運動の開始を発表。そのなかで「韓国政府は諸外国に事実に基つかない慰安婦問題の告げ口外交」と口汚く罵倒、米国内で「慰安婦像」設置など「我が国の名誉を著しく既め」、この背景には「河野官房長官談話」に「根本的な原因」があり、「談話」が「韓国の言い分を取り入れ」たもので、見直しを政府に求める国民運動を開始するとした。
 3月に入り、在日特権を許さない市民の会東京支部等が派手な行動・デモンストレーションを開始、「特定秘密保護法の活用と発展」「反日勢力根絶への第一歩」「仏像泥棒、千年反日、ねつ造慰安婦もう沢山!日本の未来を守るため、異常反日を続ける韓国と断絶しよう」を呼号し、それこそ異常な排外主義を煽り立てている。
 ■ 被害女性たちの意思に反して強制
 「河野談話」とは一体、何であったのか。今日、問題となっている「河野談話」とは、1993年8月、総選挙で敗北した宮沢喜一自民党政権の河野洋平内閣官房長官が、政府による第二次調査結果を発表し、その際、官房長官談話を発表した。
 談話は、慰安所の設置、管理、「慰安婦」の移送等に日本軍が当たっていた。そして、被害女性たちが本人の意思に反して強制されたことを認め、「お詫びと反省の気持ち」を表明したものの、法的責任の履行には言及を避けた
 つまり、長らく歴代政権が「慰安婦」を含む戦後賠償問題は、サンフランシスコ条約やニカ国間条約・協定などによって完全かつ最終的に解決との見解を踏襲するものであった。
 先の妄言や発言は、95年に自由主義史観研究会が「慰安婦」攻撃で、被害者証言はあてにならず、強制性を示す文書がなければ「慰安婦は商行為」、とするという言の焼き直しにすぎないものである。
 当の河野氏自身は、「談話」について、「そもそも『強制的に連れてこい』と命令して『強制的に連れてきた』と報告するだろうか」「そういう資料は残したくないという気持ちが軍関係者」にあり、「処分されていたと推定」できるとした。
 被害者証言については、「明らかに厳しい目にあった人でなければできないような状況説明が次から次と出」、「その状況を考えれば、その話の信愚性」「信頼性」が十分あると語っている。
 ■ 国家主義の刷り込み図っている
 事務方のトップとして、取りまとめの衝に当たった元内閣官房副長官の石原信雄氏も、「結局私どもは通達とか指令とかいうような文書的なもの、強制性を立証できるような物的証拠は見つけられなかった」が、「ヒアリングの結果は、どう考えても、これは作り話」ではない、とこもごも語っている(以上の引用は適宜要約。典拠文献は、文末に示した)。
 ちなみにその後、強制性を示す文書は多数発見されている。
 今日、「河野談話」の見直し論派は、その真実性とは関係なく、かつての侵略戦争を正当化し、再び、日本市民を戦争協力へと駆り立てるための方便と考えて、「国民意識」への国家主義刷り込みを図っていると見ることができるのではないか。
 【典拠文献】
『オーラルヒストリーアジア女性基金』2006年3月7日号
日本の前途と歴史教育を考える若手代議士の会(安倍晋三事務局長)編『歴史教科書への疑問』1997年
『朝日新聞』1997年3月31日付河野氏へのインタービュー
石原信雄「河野談話はこうしてできた」大沼保昭・岸俊光編『慰安婦問題という問い』動草書房、2006年
『週刊新社会』(2014/4/15、4/22)

コメント    この記事についてブログを書く
« 算数と道徳教育との関連!? | トップ | 強制の定義に目をつぶるニセ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

平和憲法」カテゴリの最新記事