区の住民票不作成、合法 婚外子訴訟 事実婚夫婦、逆転敗訴
事実婚で生まれた二女(2つ)の出生を届ける際、「嫡出でない子」(婚外子)と記入することを拒否したために住民票が作成されなかったのは違法だとして、東京都世田谷区の介護福祉士菅原和之さん(42)が同区に住民票作成などを求めた裁判の控訴審判決が五日、東京高裁であった。藤村啓裁判長は「区の処分に違法性はない」として、住民票作成を区に命じた一審判決を取り消し、原告の請求を退けた。
菅原さんは二女が生まれた際に「法律上結婚している両親の子と婚外子を分ける欄が出生届にあるのは、両親の結婚関係で子を差別することにつながる」として、この欄の記入を拒否。出生届は受理されず、住民票も作られなかったため訴えていた。長女については記入せずに届けたところ区役所側が「書き忘れ」として処理した経緯があったという。
高裁判決は「戸籍がないのに自治体が職権で住民票を作成するのは極めて例外的な場合に限られるべきだ」とした上で、今回のケースについて「両親が個人的信条に基づいて、届け出が可能なのに怠っている」として、例外には該当しないと判断した。
一審の東京地裁判決は、「将来的に選挙人名簿に記載されないなど、住民票がないと市民生活に重大な不利益が生じる」として区の違法性を認めたが、二審は「手続きは煩雑になるが、住民サービス自体は受けられる。二女はまだ二歳なので、選挙権についての不利益は現実化していない」と逆の判断をした。
菅原さんによると、婚外子の記載をしなかったために出生届が不受理となった同様のケースで、自治体の独自判断で住民票が作られている事例は複数あるという。
菅原さんは上告する方針。世田谷区は「判決内容の詳細を見ていないのでコメントは差し控えたい」としている。
1回の弁論でひっくり返す 原告が批判
「地裁で丁寧に導き出された判決をわずか一回の弁論でひっくり返した。残念極まりない思いです」。判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで支援者とともに記者会見した原告の菅原和之さんは、目に涙を浮かべた。
たった一度しか法廷が開かれないまま、出された逆転敗訴の判決。菅原さんは弁護士を立てずに自力で裁判を闘ってきたが、必死に準備した書面や証人の申請は二審では採用されなかった。
菅原さんは「国連の児童権利委員会などは、出生届の婚外子記載を撤廃するように何度も日本政府に勧告している」と指摘。「子どもを差別したくないとの一念で拒否しているのに、親が怠けて出生届を出さないという判決は、事実とまったく違う」と訴えた。二女は来年から幼稚園に入園する。住民サービスが受けられるといっても、区からの知らせはなく、予防接種や健診など毎回確認が必要な状態が続く。菅原さんは「住民票が作られないのは親の信条のせいだと判決が言うのなら、逆に子どもの利益を守るために作成を命じるべきではないのか」と憤った。
※解説 出生届記入欄廃止を
出生届が受理されない子の住民票を自治体が作るべきかどうかが争われた初の裁判で、東京高裁は「まだ二歳だから選挙権で不利益は生じていない」などとして、形式的に原告敗訴の判決を言い渡した。子どもの側に立ち、住民票がないことによる不利益を重視した一審判決とはまったく逆の結論となった。
原告が提訴に踏み切ったのは「役所の書類自体に、婚外子差別につながる記入欄を残してよいのか」という問題提起からだった。「私生児」とさげすまれて就職で差別されたり、結婚が破談になったりする婚外子差別は今も続いているからだ。
法相の諮問機関の法制審議会は一九九六年の答申で、婚外子の相続分を二分の一とする相続差別規定を廃止するよう提言したが、いまだに法改正には至っていない。判決は逆にその規定を引用して「民法も法律婚主義をとっているのだから、婚外子の記入欄は差別とはいえない」とした。
婚外子と分かる表記は、住民票や戸籍ではすでに廃止された。それなのに出生届だけには残っている。子どもは親を選んで生まれてくることはできない。行政はまず、出生届の記入欄の廃止に取り組むべきだろう。 (出田阿生)
『東京新聞』(2007年11月6日 朝刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007110602062166.html
事実婚で生まれた二女(2つ)の出生を届ける際、「嫡出でない子」(婚外子)と記入することを拒否したために住民票が作成されなかったのは違法だとして、東京都世田谷区の介護福祉士菅原和之さん(42)が同区に住民票作成などを求めた裁判の控訴審判決が五日、東京高裁であった。藤村啓裁判長は「区の処分に違法性はない」として、住民票作成を区に命じた一審判決を取り消し、原告の請求を退けた。
菅原さんは二女が生まれた際に「法律上結婚している両親の子と婚外子を分ける欄が出生届にあるのは、両親の結婚関係で子を差別することにつながる」として、この欄の記入を拒否。出生届は受理されず、住民票も作られなかったため訴えていた。長女については記入せずに届けたところ区役所側が「書き忘れ」として処理した経緯があったという。
高裁判決は「戸籍がないのに自治体が職権で住民票を作成するのは極めて例外的な場合に限られるべきだ」とした上で、今回のケースについて「両親が個人的信条に基づいて、届け出が可能なのに怠っている」として、例外には該当しないと判断した。
一審の東京地裁判決は、「将来的に選挙人名簿に記載されないなど、住民票がないと市民生活に重大な不利益が生じる」として区の違法性を認めたが、二審は「手続きは煩雑になるが、住民サービス自体は受けられる。二女はまだ二歳なので、選挙権についての不利益は現実化していない」と逆の判断をした。
菅原さんによると、婚外子の記載をしなかったために出生届が不受理となった同様のケースで、自治体の独自判断で住民票が作られている事例は複数あるという。
菅原さんは上告する方針。世田谷区は「判決内容の詳細を見ていないのでコメントは差し控えたい」としている。
1回の弁論でひっくり返す 原告が批判
「地裁で丁寧に導き出された判決をわずか一回の弁論でひっくり返した。残念極まりない思いです」。判決後、東京・霞が関の司法記者クラブで支援者とともに記者会見した原告の菅原和之さんは、目に涙を浮かべた。
たった一度しか法廷が開かれないまま、出された逆転敗訴の判決。菅原さんは弁護士を立てずに自力で裁判を闘ってきたが、必死に準備した書面や証人の申請は二審では採用されなかった。
菅原さんは「国連の児童権利委員会などは、出生届の婚外子記載を撤廃するように何度も日本政府に勧告している」と指摘。「子どもを差別したくないとの一念で拒否しているのに、親が怠けて出生届を出さないという判決は、事実とまったく違う」と訴えた。二女は来年から幼稚園に入園する。住民サービスが受けられるといっても、区からの知らせはなく、予防接種や健診など毎回確認が必要な状態が続く。菅原さんは「住民票が作られないのは親の信条のせいだと判決が言うのなら、逆に子どもの利益を守るために作成を命じるべきではないのか」と憤った。
※解説 出生届記入欄廃止を
出生届が受理されない子の住民票を自治体が作るべきかどうかが争われた初の裁判で、東京高裁は「まだ二歳だから選挙権で不利益は生じていない」などとして、形式的に原告敗訴の判決を言い渡した。子どもの側に立ち、住民票がないことによる不利益を重視した一審判決とはまったく逆の結論となった。
原告が提訴に踏み切ったのは「役所の書類自体に、婚外子差別につながる記入欄を残してよいのか」という問題提起からだった。「私生児」とさげすまれて就職で差別されたり、結婚が破談になったりする婚外子差別は今も続いているからだ。
法相の諮問機関の法制審議会は一九九六年の答申で、婚外子の相続分を二分の一とする相続差別規定を廃止するよう提言したが、いまだに法改正には至っていない。判決は逆にその規定を引用して「民法も法律婚主義をとっているのだから、婚外子の記入欄は差別とはいえない」とした。
婚外子と分かる表記は、住民票や戸籍ではすでに廃止された。それなのに出生届だけには残っている。子どもは親を選んで生まれてくることはできない。行政はまず、出生届の記入欄の廃止に取り組むべきだろう。 (出田阿生)
『東京新聞』(2007年11月6日 朝刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/national/news/CK2007110602062166.html
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