= 教職腐敗 (下) =
■ 1回10万円…「もう一つ上や」
■ 正直者がばかを見る
「実弾をうたなきゃいかんよ」。大分県南部の五十代の男性教諭は数年前、中学校の管理職試験を受けて不合格となり、親しい他校の校長に言われた。「一発十万円ですか」「いや、もう一つ上や」。
若くして教頭や校長になる人がいる。試しに県教委幹部にブリを贈った。だが、その後も試験に落ち続け、昇任とは縁がない。冗談だったのかと半ば忘れていた。
そこに噴き出したのが大分県教委の汚職事件。長女の教員採用に便宜を求めて贈賄容疑で再逮捕された元県教委義務教育課参事、矢野哲郎容疑者(52)は、自らの昇進に関しても今春の異動で離島勤務から抜てきされた謝礼として、商品券二十万円分を県教委ナンバー2の富松哲博・教育審議監(60)に贈った疑惑が指摘されている。
ほかにも同県佐伯市の小学校に勤務する校長と教頭の計三人が昇任後、収賄容疑で再逮捕された元同課参事の江藤勝由容疑者(52)に十万-五十万円分の商品券を渡していたと佐伯署に説明した。
「話は本当だったのか」。男性教諭は、職場で頑張る姿が正当に評価されないのかと考えると、やり切れない。「正直者がばかを見る世界だ」
大分県の小学校教員採用試験が十九日に迫る中、県内の三十代前半の男性は「今度こそ」の思いで毎日十時間、試験勉強で机に向かう。九回目の受験。合格者の平均年齢二七・二歳はとっくにすぎた。
妻がいて、これまでは非常勤講師一年、常勤講師五年の勤めで生計を立てていたが、契約は一年更新で不安定。今年はあえて契約せず、支えてくれる妻に感謝しながら背水の陣で臨んでいる。
合格への手応えを感じた年もあったが、届いたのは不合格の通知だった。男性は一度だけ、県教委に情報開示請求し試験の結果を確かめたことがある。
得意なはずの専門科目が二百点満点で約七十点。「そんなはずは」と疑ったが、うっかりミスでもあったのだろうとあきらめていた。
「口利きしてもらって合格した」。常勤講師時代、同年代の若い教諭が平然と言ってのけた。「県議を動かさないとだめだ」との助言も聞いた。
事件で、一部の受験生の点数が水増しされたり、合格していたはずの受験生が不合格になったり、県議や国会議員秘書らが口利きしていたりする実態が明るみに出るたびに「これまでの八年間を返してほしい」と憤りを覚える。
小矢文則教育長は十一日の記者会見で、一連の事件を「組織ぐるみと言われても反論できない」と謝罪する一方で「自分は一切知らなかった」と潔白を強調した。
事件では、元教育長二人の合否調整関与など、新たな疑惑も持ち上がっている。
底の見えない腐敗の実態をすべて明らかにしないかぎり、信頼回復への一歩は踏み出せない。「知らなかった」で済むはずもない。
『東京新聞』(2008/7/18)
■ 1回10万円…「もう一つ上や」
■ 正直者がばかを見る
「実弾をうたなきゃいかんよ」。大分県南部の五十代の男性教諭は数年前、中学校の管理職試験を受けて不合格となり、親しい他校の校長に言われた。「一発十万円ですか」「いや、もう一つ上や」。
若くして教頭や校長になる人がいる。試しに県教委幹部にブリを贈った。だが、その後も試験に落ち続け、昇任とは縁がない。冗談だったのかと半ば忘れていた。
そこに噴き出したのが大分県教委の汚職事件。長女の教員採用に便宜を求めて贈賄容疑で再逮捕された元県教委義務教育課参事、矢野哲郎容疑者(52)は、自らの昇進に関しても今春の異動で離島勤務から抜てきされた謝礼として、商品券二十万円分を県教委ナンバー2の富松哲博・教育審議監(60)に贈った疑惑が指摘されている。
ほかにも同県佐伯市の小学校に勤務する校長と教頭の計三人が昇任後、収賄容疑で再逮捕された元同課参事の江藤勝由容疑者(52)に十万-五十万円分の商品券を渡していたと佐伯署に説明した。
「話は本当だったのか」。男性教諭は、職場で頑張る姿が正当に評価されないのかと考えると、やり切れない。「正直者がばかを見る世界だ」
■ ■
大分県の小学校教員採用試験が十九日に迫る中、県内の三十代前半の男性は「今度こそ」の思いで毎日十時間、試験勉強で机に向かう。九回目の受験。合格者の平均年齢二七・二歳はとっくにすぎた。
妻がいて、これまでは非常勤講師一年、常勤講師五年の勤めで生計を立てていたが、契約は一年更新で不安定。今年はあえて契約せず、支えてくれる妻に感謝しながら背水の陣で臨んでいる。
合格への手応えを感じた年もあったが、届いたのは不合格の通知だった。男性は一度だけ、県教委に情報開示請求し試験の結果を確かめたことがある。
得意なはずの専門科目が二百点満点で約七十点。「そんなはずは」と疑ったが、うっかりミスでもあったのだろうとあきらめていた。
「口利きしてもらって合格した」。常勤講師時代、同年代の若い教諭が平然と言ってのけた。「県議を動かさないとだめだ」との助言も聞いた。
事件で、一部の受験生の点数が水増しされたり、合格していたはずの受験生が不合格になったり、県議や国会議員秘書らが口利きしていたりする実態が明るみに出るたびに「これまでの八年間を返してほしい」と憤りを覚える。
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小矢文則教育長は十一日の記者会見で、一連の事件を「組織ぐるみと言われても反論できない」と謝罪する一方で「自分は一切知らなかった」と潔白を強調した。
事件では、元教育長二人の合否調整関与など、新たな疑惑も持ち上がっている。
底の見えない腐敗の実態をすべて明らかにしないかぎり、信頼回復への一歩は踏み出せない。「知らなかった」で済むはずもない。
『東京新聞』(2008/7/18)
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