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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

高校必修科目、公共・歴史総合・地理総合は国定教育への復古

2018年05月21日 | こども危機
 ◆ 不当な支配に屈した次期学習指導要領
   ―高等学校学習指導要領改訂案でより鮮明に―
(教科書ネット)
鶴田敦子(子どもと教科書全国ネット21代表委員)

 ◆ はじめに
 次期学習指導要領を批判的に読み問題点を明らかにするのは、それを乗り越える自主的教育実践をつくり出し、平和で民主的な社会にしたいと考えるからです。
 多くの良心的な教師達がその取り込みを始めていることを、まず共有したいと思います。
 ◆ 内閣が「教育勅語」を持ち出した意図と次期学習指導要領
 2017年3月、内閣は「憲法や教育基本法に反しない形で教育勅語を教材として用いることまで否定されるものではない」という閣議決定を行いました。この真意は、「教育勅語」の容認と復活させる意図の表明です。
 「教育勅語」の本質は、国民は、臣民として、疑うことなく積極的に、時には我が身を捨てて、国家に尽くす精神を身につける装置であったことです。それは、一方で、非学問的な内容を教育に持ち込み、さらに学校と家庭・地域が一体となって国家に協力する体制で進められました。
 次期学習指導要領からは、以下にみるように、これとほぼ類似する教育の構造が見えます。
 「教育勅語」の閣議決定は、新学習指導要領を核にして復古的教育体制へ邁進する内閣の覚悟を、政権の支持者と非支持者双方に示す必要からとられた策であると思われます。
 ◆ 高校における道徳教育
 高等学校の学習指導要領では、総則に科目「公共」・「倫理」・特別活動とともに「人間としての在り方生き方に関する中核的な指導の場面であること」を明記しました。
 自民党の道徳・規範教育の強化のための懸案だったこの科目「公共」は、全員の必修科目として「道徳教育を受け持つ科目」として設置されました。
 この「公共」では、小・中学校の徳目主義(文科省は徳目を避けて内容項目という言葉にしているが、本質は徳目)道徳教育ではなく、内容主義とも言える別の手法がとられています。
 ◆ 科目「公共」における国定道徳教育手法
   ―憲法・学問的見解を学ばせず政府見解を教える

 科目「公共」では、「協働」「自助・共助」「社会参画」「公共」という言葉を使いながら政権の見解やグローバル企業が求める内容を教科内容としていますが、憲法、立憲主義、国民主権、基本的人権や公共・公共性に関する学問的内容等は教育内容にはありません
 つまり、憲法・学問の代わりに国家等の見解を教科内容にするという手法の道徳教育です。これでは、国家政策を批判的にみて立憲主義に基づく政治を求める主権者は育ちにくく、国家政策に主体的に協力していく国民を創り出していきます。
 このような、国民像こそ、小・中学校での徳目主義道徳を基礎にした国定道徳の目標の到達点と言えます。
 ◆ 「見方・考え方を働かせ」と書き道徳的目標をかかげる
 全ての教科の目標が、真っ先にその教科の「見方・考え方を働かせて」と書きながら、その内容は全ての教科で記述されていません。(中央教育審議会答申には記述があり、義務教育学校は解説書で記述)。
 これを学習指導要領に書かないのは書けない理由があるからと思います。
 また、全ての教科の目標は、資質・能力の3観点である①「知識・理解」②「思考力・表現力・判断力」③の「主体的に学ぶ力・人間性」それぞれに応じて(①②③の記号は筆者)、(1)(2)(3)と3つ目標が立てられています、表1は、③に相当する目標(3)を取り出したものです(略)。
 「人間性」とは、教科によって多少違いはありますが、「日本人としての自覚」「愛国心」「○○の態度」を掲げており、教科教育が国定道徳教育を教科目標としてかかげたことになります。
 教科は、学問を背景にして成立するという原則、学問の自由の尊重が歪められています。
 ◆ 必修科目「歴史総合」「地理総合」等の重大な問題

 (1)「近代化・大衆化・グローバル化」という歴史区分を導入した「歴史総合」
 「歴史総合」は、「近代化と私たち」「国際秩序の変化や大衆化と私たち」「グローバル化と私たち」の3つの概念区分で近現代史を教えるとしています。
 「学問としての歴史学を遮断し、『近代化・大衆化・グローバル化』に価値を見出す。歴史教育だけでなく、歴史学そのものが問われている」(河合美喜夫「新科目歴史総合で歴史教育・世界史教育はどうなるか一歴史認識と近現代史教育のあり方を問う」)など歴史研究及び歴史教育に携わってきた多くの研究・教育関係者から批判の声があがっています。
 (2)「領土問題」について政府見解を盛込む「地理総合」
 表2が示すように(略)、これは小・中学校も同様の問題です。領土問題は、関係国間の歴史的な事実の経過を踏まえて客観的な立場で学習するものです。「固有の領土」という学問的にも未解明な事柄を持ち出しています
 政府見解を教科書検定という強権で教科書に記述させ、教え込むというやり方は、既にはじまっています。子ども達を偏狭な国家主義へ導くことの危険性は十分にあります。
 そして、思考力・判断力を育てるという資質・能力の欺隔性を見る思いがします。
 (3)その他(55科目中27科目の変更)
 知の創造をめざす教科「理数」の設置、プログラミング等の充実・強化を図る「情報」、日本の伝統文化に関する教育の充実を図る「保健体育・家庭・国語」等々を改善の例としてあげています。
 以上の科目の変更は、主に、国家・財界の意図にそっての変更と言えます。

 ◆ 改定教育基本法が意図する学校・家庭・地域との協働
 次期学習指導要領には、「…必要な人的又は物的な体制を家庭や地域の人々の協力を得ながら整えるなど、家庭や地域社会との連携及び協働を深めること」と具体的に家庭と地域との協働体制を指示されています。
 これは改定教育基本法の第13条「学校、家庭及び地域住民等の相互の連携協力」の具体化そのものですが、改定教育基本法それ自体が、立憲主義に基づく基本法ではなく、教育への国家支配を正当化する重大な問題を含むものであることを改めて認識する必要があります。
 2015年、文科省は、「教員改革」「次期学習指導要領に基づく学校」「地域協働本部」の三位一体ですすめる「『次世代の学校・地域』創世プラン」(2015馳プラン)を公表し、自民党は今、「家庭教育支援法案」「青少年健全育成基本法案」の国会上程を準備中です。
 学習指導要領の問題は、学校教育の問題だけではなく、戦争ができる非民主的な国家をめざす教育の総動員体制の一環としてあるように思います。(つるたあつこ)
『子どもと教科書全国ネット21ニュース119号』(2018.4)

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