◎ 「葛飾ビラ配布事件」、弁護団が最高裁に《上告趣意補充書》提出
2月9日(月)、弁護団らによる《上告趣意補充書》の提出に合わせて、「ビラ配布の自由を守る会」(以下、<守る会>)のメンバーを中心に、最高裁判所への要請行動が行われた。民間マンションでのビラ配布が〈住居侵入罪〉に当たるとした東京高裁判決がどう判断されるのか。〈裁判員制度〉の旗ふり役である、最高裁の“良識”が、いま問われている―――。
前日の8日、国民救援会主催の、いわゆる「言論弾圧3事件」(堀越事件、葛飾ビラ配布事件、世田谷事件)の活動者会議が開かれ、その出席者らが、遠く青森、山形、福岡などから最高裁前(東京都千代田区)に集まった。
「葛飾ビラ配布事件」とは、2004年12月、オートロックではないマンション(葛飾区)のドアポストに、荒川庸生氏が「都議団だより」などを配っていたところ、警察に「住居侵入罪」の容疑で逮捕された事件。2006年8月、東京地裁は無罪判決を出したものの、東京高裁は07年12月、一審判決を覆して「罰金5万円」の有罪判決を出し、荒川氏が上告している。
〈守る会〉の支援者らは、朝8時過ぎから最高裁西門前で事件についてのチラシを配布、マイクでもこれまでの訴訟の流れや問題点などを通勤客らに訴えた。
朝10時、被告の荒川庸生氏や弁護士5名が揃い、主任弁護人である後藤寛弁護士が「上告趣意補充書」(「上告趣意書」は2008年5月に提出されている)の内容について、次のように説明した。
(1)「地方自治」の流れが当時行きわたっており、荒川氏の配っていた「都議団だより」なども、地域の人たちの暮らしに大いに役立っていたこと。
(2)国連人権規約委員会からも日本政府に対して葛飾事件に関する「勧告」が出されていること。
(3)高裁の判断は、一般国民の良識やマスコミの論調とかけ離れていること。
(4)立川事件(2004年1月、自衛隊官舎へのビラ配布)との類似性も指摘されているが、立川事件は管理権のはっきりした【官舎】でのケースであり、葛飾の場合は、【民間のマンション】で、マンション理事会の意思もはっきりしていない中での事件である。その点を考えても同列には論じられないこと。
(5)法律研究者らによる、高裁判決への批判的見解が数多く見られること。
以上の5点の理由から、第2審の東京高裁判決は認められず、強く無罪判決を要望する。
その後、荒川氏と弁護団(弁護士5名)は、「上告趣意補充書」提出のために最高裁正面から入り、別に支援者ら12名が最高裁判所内で要請行動を行なった(弁護士5名もあとで合流)。
最高裁判所では、裁判部の矢後洋文書記官補佐が応対し、会議室で弁護士5名に「守る会」らの支援者が、それぞれ今回の事件に対して思うところを述べた。以下、発言順に要旨を紹介する。
・杉山さん 「一般のマンションでのビラ配布が、なぜとがめられるのか不思議である。ビラは何かを表現する際の重要な媒体である。どうか国民の目線で判決を下していただきたい」
・木村さん 「ごくふつうのビラ配布で逮捕されることが信じられない。良識に従った判決を期待する」
・清水さん 「公務員は、憲法99条で、憲法の擁護義務を負っている。憲法を擁護するということは、すなわち国民一人ひとりの人権を擁護するということでもある。…そう考えると、荒川さんの人権を侵すような逮捕や起訴はおかしい。従って、そうした警察官や検察官らの行動こそ裁かれるべきである。単に『法律にのっとって(逮捕・起訴)…』というだけではなく、根本には、国民一人ひとりの人権を尊ぶという視点があるべきだと思う」
・関口さん 「ビラを配るという行為だけで、どうして最高裁まで来なくてはいけないのか、とても不思議である」
・伊藤さん 「私自身、近くのおとしよりにいろいろと知らせるためにチラシを配ることがあるが、〈葛飾事件〉のようなことがあると、自分が配る時にもドキドキしてしまう」
・湯沢さん 「〈葛飾事件〉を友だちに話すと一様に驚かれる。日本政府が、国連人権規約委員会から勧告を受けていることを知ってからは、ビラ配布が間違ったことではないと分かって自信がついた」
・村田さん 「最高裁のホームページを見ると、〈裁判員制度〉の導入に向けて、司法における〈国民感覚〉、〈市民感覚〉の大切さがしきりに言われている。そうであるならば、今回の最高裁でも、裁判所自らが、〈市民感覚〉に沿った判決を出してほしいと思う」
・中村さん(葛飾区区議) 「私自身、住民の方にアンケートをお配りして、一人ひとりの生活状況を把握して、例えば〈生活保護〉の申請など手続きなどをおこなっている。もし、今回の〈葛飾事件〉のように、ビラ配布が違法とされるなら、そういう区民の方へのケアもできなくなってしまう」
・今村弁護士 「〈葛飾事件〉が起きた2004年当時から、地方自治は国民にとって関心事であり、(荒川さんの配っていた)『都議会だより』、『区議会だより』は、まさに地方自治の象徴である。ほめられこそすれ、非難されるようなおこないではない」
・松井弁護士 「原審(高裁)の判事は、さかんに〈裁判員制度〉をPRしているが、東京高裁での有罪判決の実情を知ったら、国民は〈裁判点制度〉や、日本の司法そのものにどういう思いを抱くだろうか。今こそ、裁判に対する国民の信頼を取り戻さなくてはいけない」
・後藤弁護士 「〈上告趣意補充書〉を出す時に、書記官の方に会わせてほしい旨をお願いしたが、担当の書記官にすら会わせてもらうことができなかった。〈開かれた裁判所〉というが、残念である」
・西田弁護士 「市民の声に耳を傾ける〈開かれた最高裁〉が、今求められていると思う。『法律的にどうか』といった杓子定規な議論ではなく、世間が納得できる判決を出してもらうよう期待する」
・高木弁護士 「世間の感覚と乖離した判決は望んでいない。人権規約委員会でも話題にのぼるほど、〈葛飾事件〉は世界的にも注目を集めている」
・竹内さん「平穏な方法でビラをくばることがどうして否定されるのか。きちんとした判決を出してほしい。」
・小松さん(「守る会」事務局長)「先日の機関紙でも、若者の声が紹介されていた。『こんなことでビラを配る行為が弾圧されるのなら、ぼくも平和活動を引き継いでいく』という内容だ。どうか、次代を担う若者も納得できる判決をお願いしたい」
・荒川英子さんは、第2小法廷今井功裁判長宛ての7通目の手紙を朗読し、そのまま矢後洋文書記官補佐に提出した。
<大意>「新しい年が明けて、裁判も5年目を迎えます。これまで、主任弁護人中村先生の急逝などつらいこともありましたが、昨年末、地元亀有での集会は650名もの支援者の方が集まって下さり、励まされました。この裁判を何千、何万人もの人が見守っていることを受け止めて頂きたい。マンションのポストにビラを配布することが、どうして住居侵入罪になるのでしょうか。配られていたアンケートは、葛飾区民の皆さんからは喜ばれています。生活の困窮ぶりもよく分かりますし、そういうアンケート結果は、その後の区議会の活動にも生かされています。上告趣意補充書をお読みいただき、どうか口頭弁論をひらいていただきたいです。」
・最後に、坂屋さん(国民救援会)も次のように補足した。「2008年10月にジュネーブでの人権規約委員会に出席し、多くの委員から『葛飾ビラ配布事件というのは、国民の主権にかかわることではないか?』と驚かれ、質問を受けた。そのような〈国民の主権〉にかかわることであるという認識を持ってもらいたい」
17名による要請のあと、裁判所の外で事務局長小松氏が挨拶した。それによると、今回の「上告趣意補充書」とあわせて、個人署名約4500、団体署名166、その他手紙約120通を提出した、とのことだった。その後、荒川庸生氏からお礼の挨拶があり、午前中の集会は幕を閉じた。
なお、4月17日(金)に〈守る会〉による第5回総会が地元亀有で開催される予定である。
『JANJAN』 2009/02/12
http://www.news.janjan.jp/living/0902/0902107190/1.php
三上英次
2月9日(月)、弁護団らによる《上告趣意補充書》の提出に合わせて、「ビラ配布の自由を守る会」(以下、<守る会>)のメンバーを中心に、最高裁判所への要請行動が行われた。民間マンションでのビラ配布が〈住居侵入罪〉に当たるとした東京高裁判決がどう判断されるのか。〈裁判員制度〉の旗ふり役である、最高裁の“良識”が、いま問われている―――。
前日の8日、国民救援会主催の、いわゆる「言論弾圧3事件」(堀越事件、葛飾ビラ配布事件、世田谷事件)の活動者会議が開かれ、その出席者らが、遠く青森、山形、福岡などから最高裁前(東京都千代田区)に集まった。
「葛飾ビラ配布事件」とは、2004年12月、オートロックではないマンション(葛飾区)のドアポストに、荒川庸生氏が「都議団だより」などを配っていたところ、警察に「住居侵入罪」の容疑で逮捕された事件。2006年8月、東京地裁は無罪判決を出したものの、東京高裁は07年12月、一審判決を覆して「罰金5万円」の有罪判決を出し、荒川氏が上告している。
〈守る会〉の支援者らは、朝8時過ぎから最高裁西門前で事件についてのチラシを配布、マイクでもこれまでの訴訟の流れや問題点などを通勤客らに訴えた。
朝10時、被告の荒川庸生氏や弁護士5名が揃い、主任弁護人である後藤寛弁護士が「上告趣意補充書」(「上告趣意書」は2008年5月に提出されている)の内容について、次のように説明した。
(1)「地方自治」の流れが当時行きわたっており、荒川氏の配っていた「都議団だより」なども、地域の人たちの暮らしに大いに役立っていたこと。
(2)国連人権規約委員会からも日本政府に対して葛飾事件に関する「勧告」が出されていること。
(3)高裁の判断は、一般国民の良識やマスコミの論調とかけ離れていること。
(4)立川事件(2004年1月、自衛隊官舎へのビラ配布)との類似性も指摘されているが、立川事件は管理権のはっきりした【官舎】でのケースであり、葛飾の場合は、【民間のマンション】で、マンション理事会の意思もはっきりしていない中での事件である。その点を考えても同列には論じられないこと。
(5)法律研究者らによる、高裁判決への批判的見解が数多く見られること。
以上の5点の理由から、第2審の東京高裁判決は認められず、強く無罪判決を要望する。
その後、荒川氏と弁護団(弁護士5名)は、「上告趣意補充書」提出のために最高裁正面から入り、別に支援者ら12名が最高裁判所内で要請行動を行なった(弁護士5名もあとで合流)。
最高裁判所では、裁判部の矢後洋文書記官補佐が応対し、会議室で弁護士5名に「守る会」らの支援者が、それぞれ今回の事件に対して思うところを述べた。以下、発言順に要旨を紹介する。
・杉山さん 「一般のマンションでのビラ配布が、なぜとがめられるのか不思議である。ビラは何かを表現する際の重要な媒体である。どうか国民の目線で判決を下していただきたい」
・木村さん 「ごくふつうのビラ配布で逮捕されることが信じられない。良識に従った判決を期待する」
・清水さん 「公務員は、憲法99条で、憲法の擁護義務を負っている。憲法を擁護するということは、すなわち国民一人ひとりの人権を擁護するということでもある。…そう考えると、荒川さんの人権を侵すような逮捕や起訴はおかしい。従って、そうした警察官や検察官らの行動こそ裁かれるべきである。単に『法律にのっとって(逮捕・起訴)…』というだけではなく、根本には、国民一人ひとりの人権を尊ぶという視点があるべきだと思う」
・関口さん 「ビラを配るという行為だけで、どうして最高裁まで来なくてはいけないのか、とても不思議である」
・伊藤さん 「私自身、近くのおとしよりにいろいろと知らせるためにチラシを配ることがあるが、〈葛飾事件〉のようなことがあると、自分が配る時にもドキドキしてしまう」
・湯沢さん 「〈葛飾事件〉を友だちに話すと一様に驚かれる。日本政府が、国連人権規約委員会から勧告を受けていることを知ってからは、ビラ配布が間違ったことではないと分かって自信がついた」
・村田さん 「最高裁のホームページを見ると、〈裁判員制度〉の導入に向けて、司法における〈国民感覚〉、〈市民感覚〉の大切さがしきりに言われている。そうであるならば、今回の最高裁でも、裁判所自らが、〈市民感覚〉に沿った判決を出してほしいと思う」
・中村さん(葛飾区区議) 「私自身、住民の方にアンケートをお配りして、一人ひとりの生活状況を把握して、例えば〈生活保護〉の申請など手続きなどをおこなっている。もし、今回の〈葛飾事件〉のように、ビラ配布が違法とされるなら、そういう区民の方へのケアもできなくなってしまう」
・今村弁護士 「〈葛飾事件〉が起きた2004年当時から、地方自治は国民にとって関心事であり、(荒川さんの配っていた)『都議会だより』、『区議会だより』は、まさに地方自治の象徴である。ほめられこそすれ、非難されるようなおこないではない」
・松井弁護士 「原審(高裁)の判事は、さかんに〈裁判員制度〉をPRしているが、東京高裁での有罪判決の実情を知ったら、国民は〈裁判点制度〉や、日本の司法そのものにどういう思いを抱くだろうか。今こそ、裁判に対する国民の信頼を取り戻さなくてはいけない」
・後藤弁護士 「〈上告趣意補充書〉を出す時に、書記官の方に会わせてほしい旨をお願いしたが、担当の書記官にすら会わせてもらうことができなかった。〈開かれた裁判所〉というが、残念である」
・西田弁護士 「市民の声に耳を傾ける〈開かれた最高裁〉が、今求められていると思う。『法律的にどうか』といった杓子定規な議論ではなく、世間が納得できる判決を出してもらうよう期待する」
・高木弁護士 「世間の感覚と乖離した判決は望んでいない。人権規約委員会でも話題にのぼるほど、〈葛飾事件〉は世界的にも注目を集めている」
・竹内さん「平穏な方法でビラをくばることがどうして否定されるのか。きちんとした判決を出してほしい。」
・小松さん(「守る会」事務局長)「先日の機関紙でも、若者の声が紹介されていた。『こんなことでビラを配る行為が弾圧されるのなら、ぼくも平和活動を引き継いでいく』という内容だ。どうか、次代を担う若者も納得できる判決をお願いしたい」
・荒川英子さんは、第2小法廷今井功裁判長宛ての7通目の手紙を朗読し、そのまま矢後洋文書記官補佐に提出した。
<大意>「新しい年が明けて、裁判も5年目を迎えます。これまで、主任弁護人中村先生の急逝などつらいこともありましたが、昨年末、地元亀有での集会は650名もの支援者の方が集まって下さり、励まされました。この裁判を何千、何万人もの人が見守っていることを受け止めて頂きたい。マンションのポストにビラを配布することが、どうして住居侵入罪になるのでしょうか。配られていたアンケートは、葛飾区民の皆さんからは喜ばれています。生活の困窮ぶりもよく分かりますし、そういうアンケート結果は、その後の区議会の活動にも生かされています。上告趣意補充書をお読みいただき、どうか口頭弁論をひらいていただきたいです。」
・最後に、坂屋さん(国民救援会)も次のように補足した。「2008年10月にジュネーブでの人権規約委員会に出席し、多くの委員から『葛飾ビラ配布事件というのは、国民の主権にかかわることではないか?』と驚かれ、質問を受けた。そのような〈国民の主権〉にかかわることであるという認識を持ってもらいたい」
17名による要請のあと、裁判所の外で事務局長小松氏が挨拶した。それによると、今回の「上告趣意補充書」とあわせて、個人署名約4500、団体署名166、その他手紙約120通を提出した、とのことだった。その後、荒川庸生氏からお礼の挨拶があり、午前中の集会は幕を閉じた。
なお、4月17日(金)に〈守る会〉による第5回総会が地元亀有で開催される予定である。
『JANJAN』 2009/02/12
http://www.news.janjan.jp/living/0902/0902107190/1.php
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