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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

労働基準行政が危ない~進行する一部民営化の動き(1)

2017年07月07日 | 格差社会
 「違反するのが当たり前」-道路交通法と同じように揶揄される日本の労働基準法。これを管轄する監督官の増員が必要なはずなのに、政府の規制改革推進会議は、監督行政を一部民営化する方向を打ち出した。むこれが今後の労働行政に与える影響や危険性、そして国際的な視点からの課題について検討する。
  《労働情報 特集から》
 ◆ 揺らぐ公正・中立性の担保 社労士への委託も視野に
竹村和也(弁護士 東京南部法律事務所)

 「労働基準監督業務の民間活用タスクフォース」(主査八代尚宏昭和女子大学グローバルビジネス学部特命教授)は、3回の議論を経て、2017年5月8日、「労働基準監督業務の民間活用タスクフォース取りまとめ」を公表した。
 ◆ 結論ありきの民間委託への短絡

 「取りまとめ」は、事業場に対する十分な監督が行われているとは言い難い状況にあること、定期監督を実施した事業場数のうち違反事業数が高い割合で推移していること、さらに時間外労働の上限規制を導入する労基法改正法案等の更なる法規制の執行強化が求められる状況にあることなどから、「労働基準監督官の業務を補完できるよう、民間活用の拡大を図ることが不可欠である」とする。
 この取りまとめを踏まえて、規制改革推進会議の第1次答申(5月23旦にも同内容の記載がある。
 取りまとめが指摘するとおり、現在、事業場に対する十分な監督が行われている状況にないことは、我々労働弁護士の感覚とも合致する。
 36協定が締結されていないにもかかわらず時間外労働が常態化している事業場や、時間外労働手当が支払われていない事業場において、労働基準監督署から監督を受けたことがないという例は多くある。
 また、労働組合や労働者が労働基準法違反を申告しても、監督にまで中々至らないことも多い(そもそも受理自体を拒むことさえある)。
 このことの原因の一つに、ILO基準(労働監督官-人あたり最大労働者数1万人)に遠く及ばない日本の監督官の少なさ(雇用者1万人当たりの監督官数0・62人)があることは間違いない。
 そのことは、取りまとめにおいても指摘されている。
 労働基準監督行政が不十分であること、監督官の数が少ないこと、この2点において取りまとめと我々の認識に違いはない。そうであれば、十分な労働監督行政を確保するために、労働基準監督官の増員こそ速やかに検討されるはずである。
 しかし、取りまとめは、労働基準監督官の増員ではなく、「民間活用の拡大を図ることが不可欠」と断言しているのである。
 タスクフォースの議論のなかでは、この労働基準監督官の増員が触れられており、厚労省側は、査定当局に増員の要求をしているものの行財政状況が厳しいと発言している。しかし、それに必要な予算等の確保に関する議論には至らず、委員からは「公務員制度改革」との関係で増員に否定的な見解まで示される始末である(第3回高橋滋委員の発言)。
 タスクフォースは、「規制改革」の立場から「民間活用」を提起することを既定路線としていたのである。
 労働基準監督行政が、労働者の権利擁護等に密接に関連することを思うとき、このような結論ありきの姿勢に違和感を拭えない(2ヵ月でたった3回の議論しかなされていないことも指摘したい)。
 ◆ 実効性の欠如、及び民間委託の危険性
 取りまとめで示された民間受託者による任意の調査に実効性がないことは、タスクフォースのヒアリングにおいて厚労省が再三指摘しているところであるし、別稿でも論じられているはずである。
 ここで指摘したいのは、民間委託の危険性である。

 取りまとめは、民間の受託者は、あくまでも任意調査をするに留まり、強制力を有する監督権限を与えることは提言していない。強制力を伴う監督官業務を民間事業者が行使することができないことは当然であるが、そもそも民間受託者が、監督業務に関与することに疑問がある。
 任意調査とはいっても強制力を伴う監督業務に繋がる可能性があり、また法違反等に対する是正勧告等がなされる場合もある。そのような業務に公正中立性の担保が十分でない民間事業者に就かせることは、適正な監督業務を阻害する恐れが懸念される。
 取りまとめは、特に社労士への委託を想定しているが、社労士は、企業を顧客先として、その労務管理や社会保険・労働保険の諸手続を取り扱っている。
 企業が従業員と労働トラブルになった際には、企業側に立ってこれを補助する社労士もいる。一部の社労士には「労働基準監督官対策」を行うとして営業を行っている者もいる(例えば社労士法1条2項に規定されている「中立公正」を逸脱した広告等の情報発信が問題にされることも多い)。
 このような立場にある社労士が、実際の、または潜在的な取引先・顧客先である企業に対して、積極的に労務関係書類の提出を促し、相談指導を行い、必要に応じて労働基準監督官による監督指導につなげていくことができるか、疑問である。
 さらに、一部と思われるが、社労士が労基法等の法違反行為等に関与しているのではないかと疑われる事例もある。我々労働弁護士も、無効な固定残業代による残業代不払等において、社労士がそれを指南していた事例に遭遇することは多々ある。
 タスクフォースの第2回でも話題にあがった、愛知県社会保険労務士会に所属する社会保険労務士による「すご腕社労士の首切りプログ」問題を想起すれば、以上のような疑問は的外れなものではない。
 もっとも、このような懸念は社労士だけではなく、程度の差はあれ弁護士等にも当てはまるものである。民間事業者への業務委託である限りつきまとう問題であって、やはり労働基準監督官の増員、そのための予算確保の必要性こそ検討されなければならない。
『労働情報』(2017/7)

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