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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

右翼の組織的パブコメ工作露見

2008年05月20日 | 平和憲法
永野厚男(教育ライター)

 文科省は、小中学校の新学習指導要領について、最後の意見公募(パブリック・コメント)を、2008年5月24日〆切で実施しています。今回は、移行措置に限定していますが、"国を愛する態度"の教化の「総則」への拡大や、小学校の音楽での"君が代"強制強化等に、反対の意思表示をしていかないと、もし不幸にも将来、改憲の国民投票が政治日程に上った時、国家権力に従順というか、「改憲」にマルを付けてしまうような子どもたちが、学校教育の中で多く作り出されてしまう危険性が高くなります。

 新学習指導要領告示前の、前回のパブコメは、以下に私が取材した通り、右翼側の組織的な攻勢で、9割強は国家主義強化の意見が集中しました。
 文科省が隠し続けていた、前回のパブコメ全文を市民延べ6人で4月末と5月中旬、同省7階で計6時間半、閲覧してきました。そして右翼が大挙、送ったパブコメのパターンを以下、再現し、分析しました。また、4月29日、横浜市で開かれた新学習指導要領の問題点等をテーマにする講演会で、琉球大の高嶋伸欣名誉教授に指摘頂いたことも、最後に載せました。

 皆様、諦めず、文科省にパブコメを寄せ、抵抗しましょう。
          ↓
◇ 郵送は、〒100-8959千代田区霞が関3-2-2、中央合同庁舎第7号館、文科省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室宛。
◇ FAXは、(03)6734-3734宛。
◇ 電子メールは、kyokyo@mext.go.jp


 ● 新学習指導要領の国家主義強化、右翼側の組織的パブコメ工作の全文が明らかに

 文科省は前記「加筆」の"根拠"の一つに挙げている、5679件に上るパブリックコメントの全文の公表を、社民党の日森文尋議員が4月9日の衆院文部科学委員会で求めても拒否していたが、日森議員側や市民の粘り強い要求に4月21日、ようやく同省7階に据え置く形で"公開"した。
 しかし、閲覧には個人情報(氏名・所属)の記入が必要、コピーする際は「住所等を書いた身分証明書を提示し、自分で同省2階のコンビニに行き自費で」という制約付きだ。
 情報公開運動等に取り組んでいる市民延べ6人が4月末と5月中旬、同省7階で計6時間半、2万頁のパブコメ全文の、個人情報を削除したA4判のコピーを、『広辞苑』くらいの厚さの21分冊にしたファイルで、閲覧した。
 市民たちは始め、"君が代"や"愛国心"の強制強化、自衛隊、天皇、神話等で、国家主義的な意見が9割強を占めているのに驚いたが、読み進める内に、その実態は同一のものが100枚、200枚以上綴じてあるものが多く、右翼側の組織的な攻勢下、「水増し」というレベルを越えた、八百長・インチキであることが判明し、怒りを抱かざるを得なかった。
 以下、句読点の脱字、誤字はそのままに、20ほどの右翼側のパターンから、数例を紹介する。

 パターン1
 以下のパターン1は、小学校の音楽で、「国歌『君が代』は、いずれの学年においても指導すること」という改定案に、新指導要領で「歌えるよう」を加筆する元凶になった、"君が代"強制の強化だ。
◆ パターン1-1
件名:中学校学習指導要領案について
「意見」国旗国歌
 入学式や卒業式で、国旗掲揚、国歌斉唱は当然ですこれに反対する公立の教師は処分すべきです。オリンピック・その他の行事競技時は国旗・国歌が世界中で認められ国民も喜んで認めてほしいのです。
◆ パターン1-2
件名:小学校学習指導要領案について
〔意見〕日の丸君が代の意義と歌を小さいうちから歌えるように、しっかり教えてください。行事の折には国旗を掲揚し、君が代を歌わせるべきです。オリンピックなどでも君が代が歌えないような若者を恥ずかしいと思いませんか? 世界でそんな事が通ると思うのですか? 絶対に教えるべきです。
◆ パターン1-3
件名:中学校学習指導要領案について
 「意見」〔国旗、国歌への敬意〕
 国歌を斉唱できるように指導するとともに、国旗、国歌の由来の指導、儀礼を身につけさせることを入れて下さい。現行の学習指導要領でも国旗掲揚、国家斉唱を行うことが位置づけられているが、現実には入学式、卒業式では、起立斉唱を指導しなかったり、国旗、国歌を否定する偏向教育が行われています。

◇ これらパターン1の3例を以下、分析する。
 パターン1-1は、冒頭の「国旗国歌」とのタイトルのみ手書きで、他はパソコン文字のものが多い。「反対」「行事」「ほしい」の3語が1~3行目の行末(端)にあり、右翼側の原版の文字がコピーする内に欠け、3語だけ手書きで書き足したものが多く、「反対」→「反」、「行事」→ナシ、「ほしい」→「いる」の文言に直したパターンもある。また、全文をパソコンで打ち直したものや、3語が脱字のままのものが混在。なお、「当然です」の後の句点(。)脱落のものが多い。
 枚数は、少なく見ても、1冊目に40枚ほど、3・4・5冊目に数枚ずつ、6冊目は40枚ほど連続。8冊目も10枚ほど。これだけでも100枚は越えるが、他の分冊にもある。
 感情的なトーンのパターン1-2は、9冊目に50枚ほど、12冊目に40枚ほど、13冊目に100枚ほど連続し、件名が幼稚園や中学のものもある。また、「件名:幼稚園教育要領案について/小さいうちから行事の折には国旗を掲揚し、君が代を歌わせてください」という類似バージョンも、15冊目に150枚ほど集中しており、右翼側が同時期に集中して郵送、又はFAXした、と推察できる。
 オール手書きのパターン1-3は、「国家斉唱」という誤字のまま、1冊目に同一筆跡(改行もすべて同じ)が5枚連続で綴じられている。このため、市民側が「こんな見え見えのインチキコピーも1件ずつにカウントするのか」と質すと、教育課程企画室の川村係長は「同文、同一筆跡であっても、差出人が違えば、カウントする制度になっている」と、平然と答弁した。
 川村係長は「総数はカウントしているが、(国歌の問題等、意見が分かれる件で、文科省の施策に)賛成と反対のどちらが多い、等のカウントはしていない」とも述べた。しかし3月28日まで密室で新指導要領の文言を執筆した文科省の官僚らが、21分冊のパブコメのファイルをざっと見れば、国家主義の意見が多数=世論だ、と印象付けられるのは間違いない。

 パターン2
  以下のパターン2は、冒頭に記した、"国を愛する態度"の「総則」への明記の元凶になったものだ。
◆ パターン2-1
 文科省教育課程企画室御中、小学校学習指導要領案についての要望
 日々、子供達の為にご精勤いただいておりますことに深甚なる感謝を申し上げます。/平成十八年十二月に教育基本法も改正され、《略》国旗掲揚や国歌斉唱の指導は当然のことになりました。《略》愛国心、つまり国のために尽くすという基本的な価値観なくして、子供達に「やる気」を与えることなどできません。《略》以下の点を明確に盛り込んでいただきますよう強く要望いたします。/一、社会科以外でも「国を愛する心」を教えることを指導要領に盛り込み、定められた内容について必ず実施することを明記していただきたい。
◆ パターン2-2
件名:小学校学習指導要領案について
 唱歌や童謡を通して愛国心を身につけさせて欲しい。

◇ ここでパターン2の2例を、以下分析する。
 パターン2-1は、冒頭の「感謝を申し上げます」や、中ほどの「要望いたします」以降だけ書き換えたものが、数バージョンある。/このバージョンには「児童生徒が国歌を斉唱できるよう指導する責務が教師にあることを規定するとともに国旗国歌への敬意を表すよう指導要領に規定していただきたい」や「日本の建国の由来及び神話の学習の充実」の他、「入学式や卒業式で、国旗掲揚、国歌斉唱は当然です。これに反対する教師を処分して下さい」と、パターン1-1に類似したものもある。/枚数は、少なく見ても、7冊目に60枚以上、8・10冊目にそれぞれ30枚以上、連続。
 パターン2-2は「欲しい」が平仮名のものや、オール手書きで「愛国心」と題し、「唱歌や童謡を通じで、国を愛することを身に付けさせること」と誤字のあるものもある。/枚数は、少なく見ても、1冊目に10枚ほど、2・3・4・5冊目に数枚ずつある。/文科省は、小学校の音楽の教科書に4曲載せさせている「歌唱共通教材」は、低中学年の授業で教えるのは現行指導要領で3曲で可としてきたのを、新指導要領では4曲すべてに拡大・統制した。右翼の「唱歌で愛国心を」のホンネが、小1での「白地に赤ーく」で始まる文部省唱歌「日のまる」(高野辰之作詞、岡野貞一作曲)の強制にあることが露呈した。
 この他、「件名:皇室、幼稚園教育要領案について、幼児期から天皇陛下が国民のために祈りを捧げられていることを教えた方がよいと思います」とのパターンも多出している。

 パターン3
 以下のパターン3は、改定案が第1章・総則の冒頭を、「各学校においては,教育基本法及び学校教育法その他の法令法令並びにこの章以下に示すところに従い、適切な教育課程を編成するものとする」としていた文末を、新指導要領で「編成するものとし、これらに掲げる目標を達成するよう教育を行うものとする」と加筆した元凶の一つ。
◆ パターン3
件名:小学校学習指導要領案について
 到達目標を明確にし、学習したことが目標に達したか否か、チェックする規定を設けてほしい。

◇ パターン3は「ほしい」が「いただきたい」になっているものもある。
 雛型の"参照用コメント"まで作り文科省にパブコメを出す活動をしてきた日本教育再生機構(理事長=八木秀次・高崎経済大教授)が、学校教育法改"正"で"愛国心教育"等を、"目標提示"から"達成目標"へと強化した――という趣旨の主張をしていることと軌を一にする。

 琉球大の高嶋伸欣名誉教授は、4月29日、横浜市で開かれた新指導要領の問題点等をテーマにする講演会で、次のように指摘した。――家永裁判の第三次訴訟で最高裁は、「指導要領は法的拘束力があり、検定制度自体は合憲だが、(指導要領等)法規の運用は公正さ、一貫性、客観性がなければならない」という論理構成をし、歴史教科書への文部省の検定意見の4件を「裁量権の逸脱。違法」とし、国側に賠償を命じている。/「今回の指導要領の根幹問題での加筆は、公正さ等がない。恣意的な権力行使であり、職権乱用だ」と、提訴されたら、文科省側は勝てないんじゃないか。――
 学習指導要領の"法的拘束力"を、自分たちに都合いい時(国家主義や政権政党の政策の教化を、教育現場に強制する時)はふんだんに使う一方、都合の悪い時(改定案から根幹部分を変える時の公正さの必要性)は無視する文科省は、民主主義社会の行政機関とは言えない。

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