★ スマホが脳を壊す (東京新聞【ニュースが分かる A to Z】)
小学校に適応するために幼児期のうちに育んでおくべき力は「非認知能力」とも言われる。自分の感情を制御したり、他者の気持ちを推し量ったり、先を見通して我慢する力も含まれる。この力は大脳の前頭前野でつかさどられているが、その発達にデジタル端末が及ぼす影響の研究が進んでいる。
「スマホが子どもたちの脳を破壊している」。東北大応用認知神経科学センターの榊浩平助教はそう警鐘を鳴らす。
同大では10年度より仙台市教育委員会と共同で約7万人の小中学生に対する調査を実施。学力検査の偏差値、学習時間、生活習慣、デジタル端末との接触時間を多角的に分析した。
その結果、デジタル端末から一方的に情報を浴びる時間が長いほど、前頭前野の発達が阻害され、学力が低くなると結論づけた。特にスマホやタブレヅト端末での動画視聴や交流サイト(SNS)の使用は、依存性が高い。
榊さんは「学力低下だけでなく、不登校とも双方向的な因果関係がある」と指摘する。スマホ依存の子どもは生活習慣の乱れや心身の不調から不登校になりやすく、不登校の子どもは家にこもってスマホ依存になりがちだからだ。仙台市教委との間でも、不登校と関連づけて語られることが多いという。
日本では10年から15年にかけてスマホが爆発的に普及した。
核家族化や共働きの増加などの社会的背景もあり、このころから乳幼児に動画やアプリを使ってしのぐ「スマホ育児」も当たり前の光景となった。
この時期に23年度の小学2年生から中学1年生が生まれている。
榊さんによると、スマホ育児を行う親もまた、スマホ依存であることが多い。
こうした家庭では親子の愛着形成が不十分で子どもの不安感が強くなる。その結果、家から学校や公園といった外の世界に踏み出す意欲が湧いてこないのだという。
文科省は25年度、111億円規模の不登校対策を進める。ただ、いずれも対症療法的で「子どもの無気力・不安」という根本要因には迫っていない。
23年度調査の担当者は「学校だけが要因でないことは認識している」としつつ「調査はあくまで生徒指導の観点で、デジタルや健康は省内の他の課の担当」と話し、脳の発達と不登校との関連を調べることには後ろ向きだ。
日本の今年の出生数は70万人を切る見通しだ。
16歳未満のSNS禁止に踏み切ったオーストラリアのような国もある。
子どもが健やかに育つ環境を整える中で、国策の前提となる統計調査の在り方が問われている。
『東京新聞』(2024年12月23日)【ニュースが分かる A to Z】
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