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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

ベトナム人実習生の"奴隷労働"

2007年05月04日 | ノンジャンル
 ●ベトナム人実習生の"奴隷労働"
  トイレ1分罰金15円


 外国人研修制度を悪用した派遣労働が全国で横行している。希望を持って日本に技術実習に来たアジアの若者を人間以下の扱いにして人件費を浮かせる「世界のトヨタ」グループの実態を追った。
安田浩一

 「日本は技術が発展した豊かな国」。ベトナム・ホーチミン出身のレ・ティ・キム・リエンさん(二二歳)は、そう信じていた。二〇〇四年、一〇月、外国人研修・技能実習制度を利用して日本の土を踏んだ。「一〇人家族の家計を助けたい」と願うリエンさんが配属されたのは、「豊かな国」で最も豊かな自動車メーカー、トヨタの下請企業である。しかしリエンさんを待ち受けていたのは低賃金労働とセクハラ、そして「お前らは人間じゃない」という暴言だったー。
 三月二七日、不当に安い賃金で働かされたうえ、人権侵害をも受けていたとして、リエンさんら六人のベトナム人女性が実習先の企業や外国人研修・技能実習制度を運営する国際研修協力機構(JITCO)などを相手に、未払い賃金や慰謝料として総額六九00万円の支払いを求める訴訟を名古屋地裁に起こした(四月六日号「アンテナ」欄で既報)。「あこがれていた日本で、こんなことになるとは思いませんでした」と、リエンさんは過酷な勤務の実態を訴える。

■「おまえらは人間じゃない」

 六人が研修生(二年目からは実習生)として働いていた「ティエムシー」(愛知県豊田市)は、トヨタ車のアームレストなどの縫製を請け負う四次下請け企業である。
 だが「研修」とは名ばかりで、実際はミシン踏みという単純労働を強いられる毎日だった。
 研修期間中の手当ては月に五万八〇〇〇円。そのうち二万五〇〇〇円は彼女たちの意向を無視して強制的に貯金させられた。そのうえ貯金通帳と印鑑、さらにはパスポートまでもが取り上げられた。「逃亡防止」というのが、その理由である。
 研修生は制度上、残業が禁止されているが、これも無視された。しかも残業代は時給三五〇円だった。実習生として残業が認められるようになっても、残業時給は一〇〇円アップしただけである。
 労働法もへったくれもない。まさに奴隷としかいいようのない働かされ方であった。

 当然、人権侵害も横行していた。待遇に不満を漏らすと「強制送還するぞ」と社員から脅された。仕事でミスをすれば「お前らは人間じゃない。動物だ」と罵倒された。
 リエンさんは「人間だと思われていないことが悲しかった」と暗い表情を見せる。
 私の手許にはティエムシー社が作成した「トイレ使用時間・使用回数表」と題された表がある。勤務中のトイレに要した時間と回数を記録した下品としかいいようのないシロモノだが、同社はこれを大マジメに"活用"していた。
 「一分間で一五円の罰金を取られます」(リエンさん)
 人間の生理現象にまで「罰」をもうけていたのだ。表には各自のトイレ回数と並べて「きゅうりょうよりマイナスします」と記されていた。なんと悪意に満ちた"注釈"であろうか。尿意を金に少えるあこぎさで、一兆円企業が支えられているのかと思うとウンザりするしかない。
 問題はそれだけではない。

 同社経営者らによる執拗なセクハラも、ベトナム人女性に恐怖を与えた。
 ある女性は寂室で休んでいるときに突然、経営者の"訪問"を受けた。経営者は勝手に布団に入り込み、「愛人になるなら強制貯金の借用を許す」などと性的関係を迫ったという。
 別の会社幹部も女性らに対して、卑猥な言葉をつかってからかった。
 訴状によるとこの幹部は、女性の一人をつかまえ、自分の股間を指差したうえで、「男のを女のに入れる。その後、気持ちがいい」などと、言ったあげく、「アナル」「ペニス」「肛門」などの日本語をわざと教え、恥ずかしがる女性を見て楽しんだ。また、「乳首は大きいの?小さいの?」「乳首が大きければ胸は小さい。乳首が小さければ胸は大きい」などの発言も繰り返し、女性たちが赤面すると満足そうな表情を見せていたという。「本当はもう(ベトナムヘ)帰りたいです。でも、それもできません」リエンさんはうつむきながらそう言った。

 来日する際、彼女らはベトナムの人材送り出し機関に八八○○米ドルの保証金を支払っている。
 「すべて借金でまかないました。自宅の権利書も預けています」(リエンさん)
 一般的にベトナムでは、平均年収が一五〇〇ドル程度だといわれている。つまり年収約六年分もの借金をしているのだ。送り出し機関との契約では、仕事を途中で放棄した場合、保証金は没収されることになっている。そんなことにでもなったら、これまで屈辱を受けてまで働いてきた意味がなくなる。
 ベトナムで"人質"を取られ、日本で搾取される。研修制度が"現代の奴隷制度"と呼ばれる所以がそこにある。身動きできないような仕掛けのなかで徹底的にこき使う、というのが研修制度の本質にほかならない。

■過酷環境を生むトヨタの体質

 それにしても、経常言には"恥"という感覚はないのか。自らが研修生・実習生に対し、わざわざ「反日」という感情を植えつけていることに気がつかないのか。
 ティエムシーの森平勝会長を直撃した。
 森平会長は強張った表情に焦燥の色を浮かべて私の前に現れた。訴松に発展したことがよほどショックだったようだ。そのうえ「迷惑をかけてしまった」とうなだれるのである。反省しているのかと思いきや、話を進めるなかで実は「迷惑をかけた」相手がベトナム人女性らではなく、同じように研修生を受け入れている同業者に対するものだと知って私はやはり呆れるしがなかった。
 同社は研修生受け入れのために設立された業界団体、「豊田技術交流事業協同組合」の勧めでベトナム人を受け入れるようになったという。「人件費が安く、人手不足も解消できるというのが協同組合側の説明でした。末端の下請工場という立場からすると、安価な労働力を拒む理由はありません」(森平会長)

 ちなみに「豊田技術交流事業協同組合」の会員企業は約二○社。その多くがベトナム人研修生を受け入れている。しかしティエムシーでの、不当な労働条件が明らかとなったことで、地元の豊田労働基準監督署は協同組合加盟業者に対して是正勧告を出している。「迷惑をかけた」とは、そのことを指すものらしい。
 「賃金に関してはすでに是正勧告を受けたので解決済みと考えている。いまさら高額な損害賠償には応じられない」(森平会長)
 さらにセクハラなど人権侵害に対しては「公判のなかではっきりさせる。原告の主張には事実でないことも含まれている」としながらも具体的な内容には触れなかった。

 同じようにベトナム人研修生を受け入れている協同組合加盟企業をまわったが、ほとんどが「ティェムシーの問題だから」と取材拒否。ただし、ある企業の経営者は「ここだけの話」として声を潜めながら次のように話した。
 「研修生・実習生の労働条件に関しては協同組合が決めたことだから、ティエムシーだけに問題があったとはいえない。重要なのは、われわれが、不当に安価な労働力を受け入れざるを得ない状況に追い込まれていることだ。製品の引き取り単価を切り下げられ、下請企業はもはや人件費を切り崩すしか生き残る道はない。しかも、下請けの末端ともなれば人材も集まらない。研修制度を利用する以外に何かよい方法があるのか」
 さらにこうも付け加えた。
 「我々は毎月、受け入れたベトナム人ひとりにつき三万円の管理費を協同組合に支払っている。いわば受け入れ手数料みたいなものですよ。三万円のうち一万円はベトナム側へ流れているらしいが、二〇〇人以上のベトナム人を企業に派遣している協同組合は、黙っていても毎月四〇〇万円の収入があるわけです。これは利権といってもよいのではないでしょうか
 協同組合理事長の伊東和彦氏は、三次下請け企業のなかでは大手として知られる、伊東産業の社長でもある。私は同社を訪ねて伊東社長への面会を申し込んだが「多忙」を理由に断られた。
 国際貢献、技術移転、人材交流。それが研修制度の目的であったはずだ。そうした建て前とは裏腹に、期限付きの安価な労働力として"活用"されているのが実情だ。これを利用して、大企業とブローカーまがいの受け人れ機関だけが肥え太るのである。今回、当該企業や協同組合のみならず、こうした奴隷労働を放置しているJlTCOの責任が問われたのも当然だ。
 さらに下請けを追い込み、結果として外国人研修生の人権をも踏みにじったトヨタにも、今後、追及の矛先が向けられることになるだろう。

やすだこういち ジャーナリスト。著書に『JRのレールが危ない』『JALの翼が危ない』(以上、金曜日)『外国人研修生殺人事件』(七つ森書館)

『週刊金曜日』(4/20号№651)

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