あなたは日本国憲法を全部読んだことがありますか

　　【本音のコラム】
　◆ 賛否を問う前に

斎藤美奈子（文芸評論家）

　共同通信が六、七日に行った世論調査では憲法改正に賛成が４４・５％、反対が３８・０％。毎日新聞の世論調査では賛成が４６％、反対が３４％だった。半数近くが改憲に賛成なんですね。
　この種の調査を見るたび思うのだが「憲法改正に賛成ですか、反対ですか」という設問だけでいいのかな。その前に私が必要だと思うのは「あなたは日本国憲法を全部読んだことがありますか」だ。何％が「はい」と答えるだろう。
　日本の義務教育では、小学六年生と中学三年生の社会科（公民）で憲法について学ぷことになっている。だが文部科学省の学習指導要領では、憲法の理念は教えても、条文までははっかり読ませようとしていない。しかも少し前までは、中学の指導要領に「条文解釈に深入りしないように留意すること」というただし書きがあった。
（注：平成十年十二月十四日 中学校学習指導要領 第２章 各教科 第２節 社会 第２ 各分野の目標及び内容 〔公民的分野〕 ３ 内容の取扱い (４)）
http://www.mext.go.jp/b_menu/hakusho/nc/k19981214003/k19981214003.html
　教室で九条の解釈を議論されると困るとでも思ったか。
　私たちが憲法音痴なのは、何十年も、改憲を党是とする政権与党の下で学校教育を受けたせいかもしれない。
　子どもに国歌を歌わせるなら、憲法の前文だって暗唱くらいさせてもいいのに。
　改正の是非を問う調査には「自民党の改憲草案を読んだことがありますか」という設問も本当は必要だろう（ちなみに自民党のＨＰを開けばすぐ読める）。
　改正の前も後も知らずに、賛成も反対もない。

『東京新聞』（2013/7/10【本音のコラム】）