◆ 板門店の握手 (東京新聞【本音のコラム】)
テレビ中継にくぎ付けだった。金正恩(キムジョンウン)委員長が軍事境界線を跨(また)いで韓国側に入った瞬間、「戦争は終わった」との感慨が胸を突いた。
文在寅(ムンジェイン)大統領の笑顔に警戒の影はなかった。
「ここ板門店は分断の象徴ではなく平和の象徴になった」。文氏の歴史的な名言である。
境界線のむこうは敵国だった。その両側から眺めたことが二度ほどある。両側で悪口を言い合い、緊張感が凍りついていた。それが一瞬にして氷解した。
「対決の歴史に終止符を打つために来た」。金氏の決意表明だ。
東西ベルリンを遮断していた、チェックポイント・チャーリーも、恐怖の境界線だった。
いまは検問所も取り払われ、日常的な街路と化した。
異常な状態は人間の努力によって必ず修復される。歴史の教訓を信じたい。
南北和解のシーンをテレビで眺めてホッとしたのは、日本はもう悪役にならずにすむからだ。
一九五〇年からの朝鮮戦争で、米軍が日本の基地から出撃し、日本は砲弾輸出などで大儲(もう)けだった。その砲弾の下で、どれだけの人間が亡くなったことか。
もしもこれから米国が北朝鮮を攻撃すれば、集団的自衛権行使で自衛隊が出動させられよう。
安倍首相は「制裁強化」と拳(こぶし)を振り上げるだけ。
世界は大きく動いている。戦争にたいする想像力と平和への強い希求も言葉もない首相では、この激動期に耐えられまい。
『東京新聞』(2018年5月1日【本音のコラム】)
鎌田 慧(かまたさとし・ルポライター)
テレビ中継にくぎ付けだった。金正恩(キムジョンウン)委員長が軍事境界線を跨(また)いで韓国側に入った瞬間、「戦争は終わった」との感慨が胸を突いた。
文在寅(ムンジェイン)大統領の笑顔に警戒の影はなかった。
「ここ板門店は分断の象徴ではなく平和の象徴になった」。文氏の歴史的な名言である。
境界線のむこうは敵国だった。その両側から眺めたことが二度ほどある。両側で悪口を言い合い、緊張感が凍りついていた。それが一瞬にして氷解した。
「対決の歴史に終止符を打つために来た」。金氏の決意表明だ。
東西ベルリンを遮断していた、チェックポイント・チャーリーも、恐怖の境界線だった。
いまは検問所も取り払われ、日常的な街路と化した。
異常な状態は人間の努力によって必ず修復される。歴史の教訓を信じたい。
南北和解のシーンをテレビで眺めてホッとしたのは、日本はもう悪役にならずにすむからだ。
一九五〇年からの朝鮮戦争で、米軍が日本の基地から出撃し、日本は砲弾輸出などで大儲(もう)けだった。その砲弾の下で、どれだけの人間が亡くなったことか。
もしもこれから米国が北朝鮮を攻撃すれば、集団的自衛権行使で自衛隊が出動させられよう。
安倍首相は「制裁強化」と拳(こぶし)を振り上げるだけ。
世界は大きく動いている。戦争にたいする想像力と平和への強い希求も言葉もない首相では、この激動期に耐えられまい。
『東京新聞』(2018年5月1日【本音のコラム】)
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