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東京「君が代」裁判4次訴訟控訴審判決永尾ルポ

2018年05月02日 | 日の丸・君が代関連ニュース
  =東京「君が代」裁判=
 ◆ 「心を変えろ」という都教委の脅しにNO! (週刊金曜日)
永尾俊彦(ながお としひこ・ルポライター)

 4月18日、東京都立学校の教師13人が「君が代」斉唱の際に不起立だったことに対しての処分取り消しを求めた裁判で、一部勝訴判決があった。累積加重処分は認めなかったものの、ほかの点については最高裁判決の枠内に留まった
 「減給処分は違法」 「一部勝訴」 「都教委を断罪」
 4月18日、前夜からの雨がやみ、晴れ間が見えはじめた午後1時すぎ、東京高等裁判所前に判決の結果を記した「旗」を持つ原告が並んだ。
 卒業式や入学式での「君が代」斉唱時に起立しなかったとして東京都教育委員会から戒告・減給などの懲戒処分を受けた都立学校の教師13人(現職8人、元職5人)が処分の取り消しと損害賠償を求めた訴訟で、東京高裁の杉原則彦裁判長は被告東京都の控訴を棄却、すべての減給処分を取り消した一審の東京地裁判決を維持した(一部勝訴)。
 しかし戒告処分の取り消しを求めていた教師側の控訴も棄却、一審判決通りだった。
 東京地裁は、昨年9月15日の判決で原告の田中聡史さん(49歳、美術など)の4回目と5回目の不起立への減給処分について、「処分の相当性を基礎づける具体的な事情は認められない」として取り消しを命じた。だが、都は田中さんについてのみ控訴。田中さんの処分取り消しが維持されるかが判決の最大の焦点だった。
 「3回目の不起立までは戒告、4回目以降は減給と、回数の累積に加重する処分を都はどうしても認めさせたかったから控訴したんでしょう。が、それは思想・良心を棄てなければ処分を重くするということで、棄却されたのは意義深いです」と田中さんは話した。
 原告側の金井知明弁護士は今回の高裁判決が追認した一審判決が田中さんについて、①自らの信条等に基くものであること②卒業式等の混乱が生じていないこと2条件をあげ、「処分の相当性を基礎づける具体的な事情」を認めなかったとし、
 「(2条件を守れば)4回やっても5回やっても処分が加重されない不起立行為が、果たして懲戒処分の対象になるのかが今後は問われるだろう」と述べた。
 原告の大能清子(おおのきよこ)さん(58歳、国語)は、「不起立の回数で処分を重くするのは心を変えろという脅し。人の心が裁かれてはいけないんだなと思います」と語った。
 ◆ 「倫理的負債」返す不起立
 田中さんが中学校時代に通った京都市の校区内には被差別部落や在日朝鮮人が多く住む地域があり、田中さんは差別について考えはじめる
 1989年、田中さんが20歳の年に昭和天皇の大喪の礼が行なわれた。それを契機に天皇と日本の戦争責任を検証した本を集中的に読んだ。
 差別と天皇制は表裏一体であり、戦後の日本は戦争責任をとっていない。中国で親が日本軍に殺された人々は、戦後も辛い思いをして生きている。そして、自分が安定した生活を送ることへの後ろめたさを田中さんはぬぐえなくなる。
 しかし、田中さんは直接中国の人を殺したわけではない。
 「でも、倫理的な負債を負っていると思うんです」田中さんは、ボソッと答えた。
 胸を衝(つ)かれる思いがした。戦後世代でここまで戦争責任を突き詰めて考えている人がいる。田中さんにとって不起立は、戦争責任のツケを払うという意味もある。
 このような「心」を持つ田中さんに、都教委は不起立ごとに再発防止研修を課し、地方公務員法などの講義を聞かせて反省を迫る。
 「私には、反省のしようがないんです」(田中さん)
 そのほか、不起立の教師は担任を外す。遠隔地に異動させる。定年後の再雇用もしない。
 教育を司る都教委が教師をいじめている。

 ◆ 「血の叫び」を聞け!
 都教委は、「君が代」斉唱時に起立するのは「慣例上の儀礼的所作」であるとし、今回の高裁判決もこれを認めた。
 そして起立斉唱は思想・良心の「間接的な制約となる面はある」としつつ、「その制約を許容しうる程度の必要性及び合理性が認められる」ので憲法19条の思想・良心の自由に違反するとはいえないとし、戒告処分については容認した。
 これは従来の最高裁の枠組通りの判決だ。
 これを変えるべく、原告と弁護団は会議を重ねて389ぺージに及ぶ控訴理由書を高裁に提出した。
 また、宗教学の権威である島薗進上智大学特任教授の意見書も提出し、儀式的行事の儀礼的所作が宗教性と無縁ではなく、「日の丸」に向かって起立し、「君が代」を斉唱する行為は、国家神道の残滓であるなどと論証した。
 原告の元職、永井みどりさん(68歳)はカトリック信者だ。「『日の丸』は太陽神である天照大神(あまてらすおおみかみ)を象徴し、『君が代』は天皇を賛美した歌で、その前での起立斉唱は宗教的行為です」と話す。
 だが、高裁判決は島薗教授の意見書を一顧だにしなかった。
 もう一点、教師側が力を入れたのが、教員への起立斉唱の強制は児童生徒に圧力をかけ、起立斉唱させることになる点だった。
 だが、高裁判決はこの点にも答えなかった。
 原告の元職、加藤良雄さん(67歳)はこう糾弾した。「裁判長に言いたい。下級審がわれわれの声を聞いて、血の叫びを聞いて、最高裁の判決を少しでも変えていかなければいつまでたっても最高裁の枠内じゃないか!」
 ◆ 今年も1人が戒告処分
 都教委が、2003年に卒業式などの「君が代」斉唱時に起立しない場合は処罰するという通達を出して以来、不起立やピアノ伴奏拒否で戒告、減給、停職などの処分を受けた教職員は4月19日現在で延べ483人にのぼる(「被処分者の会」より)。
 だが、教職員らの粘り強い闘いで、最高裁、東京高裁、同地裁の各判決でこれまで延べ73件63人の処分が取り消されている(同)。
 今年の卒業式の「君が代」斉唱でも少なくとも1人が起立せず、戒告処分を受けた。同会は組織的に「不起立闘争」を呼びかけているわけではない。あくまでもその教職員の思想・良心に基づく。
 前出の加藤さんは、田中さんの減給処分取り消しが高裁でも維持されたことを「暗闇を照らすかがり火」と表現した。
 「これをもっと大きなかがり火にして、そして夜明けを迎えたい」
 原告は、最高裁に上告する。

 ※ながお としひこ・ルポライター。『貧困都政-日本一豊かな自冶体の現実』(岩波書店)ほか。
『週刊金曜日 1182号』(2018.4.27)

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