パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

★ デンマークのデモクラシーの特徴

2024年01月20日 | 平和憲法

  《週刊新社会から》
 ★ 暮らしの中にこそ 真のデモクラシーを

小島ブンゴード孝子

 「本紙」5面に、2022年4月から23年3月まで「デンマークからこんにちは」を連載していただいた小島ブンゴード孝子さんが、11月に来日。新社会党本部にご本人をお招きし、全国をオンラインで結んでお話をお聞きしました。参加者から出された沢山の質問も合わせて、紹介します。

 《ブンゴードさんのお話》

 ★ デモクラシーって?

 50年間デンマークに暮らし、デンマークの社会福祉や医療、教育、女性、家族など紹介してきましたが、気づいたことは、全ての分野の根底にデモクラシーが流れており、日本とは違うということです。
 デンマークには多数決ではないデモクラシーがあります。多数決もひとつの方法ですが、全てではありません。
 デンマークのある人は「多数決は暴力だ。いかに少数派の意見を社会に反映させることができるか、そのプロセスがデモクラシーだ」といいます。
 デンマークの福祉や医療制度の理解には、このデンマーク的なデモクラシーを理解していただくことが必要だと思いました。

 ★ 人こそ資源

 デンマークの人々の共通認識は「人こそ資源」。人という資源が自分たちの国をより良くしていく力だから、その資源を育てること=教育は、誰でも学びたいものが学べる何より大事な公共サーヒスであり、最大の投資であるとの位置付けです。男女ともに学び、労働者として働き社会を支えます。
 ただ働けばよいということではありません。賃金などの労働条件だけでなく、労働環境が悪ければ、各自の資質をフルに発揮できない。それは人という資源を無駄遣いしていることです。
 そのためデンマークでは、全ての労働分野で労働環境に留意しています。
 また、赤ちゃんからお年寄りまで不安を抱えず年をとっても最後まで生活できる、これが本当の意味での福祉国家だと思うのです。

 ★ 税金は高い、でも・・・

 国民は高い負担に耐えられるのかと質問されます。所得税は平均45%消費税は教育活動を除く全ての商品とサービスに25%
 私たちは税金という重い負担を抱えていますが、教育、医療は基本的に無料、どんな重病で入院しても個人の負担はありません(薬は一部個人負担)。
 福祉も生活の部分は自分で賄いますが、コアの介護は、市と国が出します。
 現在、社会保障分野の支出増が課題です。デンマークでは子どもの出生率は増えており、少子化の悩みはありません
 しかしそれは、子どもが育っていく過程で必要なケア・教育にかかる費用の増加に繋がります。これをどう支えるかが喫緊の課題です。
 介護・教育などの分野は自治体の運営なので、既に地方税の引き上げを決めた自治体もあります。また医療分野の賃金や労働環境の改善も急がなければ人材が減少します。
 これまでに築いてきた社会保障や教育制度の基本を保持するためにどうするか、税負担のあり方に関心を持って、国民全体が話し合っています。
 高負担をきらって出ていく人もいますが、帰ってくる人も多くいます
 有能な人が納税をきらって皆逃げていったら、デンマークは成り立ちませんし、国民一人当たりの生産や、幸福度が世界でトップクラスの国にはなれませんよね。

 《質 問》

 ★ 高い投票率を支えているのは?

 国民学校(小中一貫)では、最高執行機関として学校理事会があります。保護者代表、教職員代表、地域の代表も入りますが、学狡の主役は生徒ですから、当然生徒代表も入クます。
 中学生を対象とした疑似選挙もおこなわれていますし、地方自治体の約半数は、子ども市議会を持っています。
 中学生の子どもたちが自分の考えを明らかにして立候補し、当選すると子ども市議会議員になります。年に4回ぼどさまざまなことを話し合い、決まったことを大人の本物の市議会に提案しますが、そこで採択されることもあります。
 それらを通して選挙とは、政治とはどういうものかを小中学生時代から体験しています。
 選挙権、被選挙権共に18歳以上で、これまでで一番若い国会議員当響者は19歳でした。
 政治を信頼はしているが、「どうでもよい」などと任せているわけではありません。
 選挙活動が始まると、各地でディスカッション、ディベートがおこなわれ、候補者や政党が主張することに対して、市民が質問し意見を述べ合います。
 高い負担の税金が、ちゃんと必要なところに回っているか、それを市民はウォッチし、政治家も明らかにします。そこに信頼が生まれ、投票率の高さに繋がっています。

 ★ 日本とデンマークの子育てに違いがありますか?

 子どもへの親の想いはどこの国でも同じでしょう。どうしようもない親もいないわけではありません。その意味ではデンマークだから特別だということはありません。
 デンマークでは女性も皆働きます。そのため出産すれば、子どもは生後1カ月頃から保育所に通い始めます。3歳児なら90%以上は保育所で過ごします
 子育ては、親だけではなく保育所という幼児教育、社会教育の場で責任を持っておこない、皆で子育てをしています。
 受け持つ保育士たちは、夫来を担う子どもたちを育てる役割に誇りを持つて取り組んでいます。デンマークでは、子どもの年齢や個々の成長に合わせた教育を、保護者、保育士、学校の先生たちが連携しておこなっているのです。
 0年から9年生の義務教育期間に社会の中で生きていく基本の力をつけ、さらにその上の教育機関で資格教育を受け、卒業したらやりたい仕事を見つげて働きます。
 子育ては家族の責任とされ、一流の大学を出て、一流の会社に入れば安泰という日本とは少し違うのではないでしょうか。

 ★ 貧富の差はありますか?

 あります。ただ、生きていく基本的なこと(教育・医療.福祉)は公共で運営され、その場その場でお金を払う必要がありません。皆が収入に応じて税金を出して支えています。
 納税のために生活が破綻することはなく、年金は、ほとんどの人が働いているので、国民年金だけという人は極めて少ないです。

 ★ 希望の灯絶やさず

 労働者が掛ける労働市場年金(日本の厚生年金に相当)は、労働者が負担する保険料の倍額を雇用者が負担します(1対2)。老後の生活レベルをキープするための年金確保のために、賃上げと同じように、労働者は熱を持って交渉します。

 私がこれまで紹介してきたデンマークの仕組みは、デンマークの人たちが話し合い、実践し、失敗したら相談し、人を大切にして暮らせるように努力改善してきたプロセスの積み重ねなのです。
 私たちの共著『普段着のデモクラシー』では、農民教育を拡げたグルントヴィー、社会民主主義政覚を起こしたスタウニング、ナチス占領時代もデモクラシーを啓発し続けたハル・コックなどを紹介しています。
 デンマーク人はこれら先人たちを誇りに思い、国づくりの基本としているように思います。

 ★ 障がいのある方への就労支援は?

 デンマークでは障害は個性だととらえます。
 身体的な障害であれば普通の学級で大丈夫
 自閉症などの場合だと「学校は楽しいところ」であるために、場合によつては特別な教室を用意することもありますが、その場合でも、ずっと別ではなくて、他の生徒たちと一緒の授業もあります。
 就労支援は自治体が運営するワークショップでおこないますが、その人その人の個性に応じた支援をしています。

 ★ 離婚が多いのは社会保障がすすんでいるからですか?

 確かに少なくありませんが、日本で聞くような、離婚したいが経済的に自立できないからしないということはありません。
 デンマーク統計局によると、「家族の形」は37種類あるそうです。離婚は、結婚している人が離婚するわけですが、デンマークは結婚せずに同棲のままの人も多くいます。婚姻届けを出しても別姓の人もいれば、婚姻届けをしなくても同姓を名乗る人もいてバラバラです。
 要するにそんなことはどうでもよく、本人たちが決めることです。

 ★ それでも子供が生きていけるからですよね?

 そうです。親の離婚によって明日の暮らしに困るような社会ではありません。
 日本では子どもの居場所、子ども食堂を作って支えようとボランティアの皆さんも一生懸命取り組んでおられますね。気持ちはわかりますが、果たしてそれはボランティアのする仕事でしょうか
 これは国がやるべきこと、公助であるべきだと思います。
 自助も共助も大切ですが、国が費用節減のために自助、共助を推奨するのはおかしいと思います。
 ボランティアの皆さんが、赤字を出してでも取り組んでおられる事実を聞いていますが、そこまで追い詰めている国の責任、政治家は怠慢ですね。

 ★ 非正規労働者の待遇はどうですか?

 非正規労働者はアルバイト学生ぐらいで、フルタイムも短時間のパートも、デンマークでは全て正規労働者です。
 子育てなどで37時間働くのはきついような場合は、交渉で30時間とか25時間位に短縮し、一段落したらまたフルタイムに戻る等の融通性があります。
 労働時間数が少なければ賃金は減りますが、その他の労働条件は全く変わらず、年金も変わりません。
 そういう意味で、日本の非正規雇用は問題ありだと私は思います。労働者としての自分の権利というものをちゃんと主張できないし、すぐに解雇される等の不安を抱えて働いていたら、社会としての生産性は上がらないでしょう。

 ★ 皆さんに伝えたいこと

 デンマークとあまりにも違い無理だと思ってほしくないのです。
 私は今の日本は非常に問題ありきで、このままでは船が沈没するのではという危機感を持っています。でも、希望も持っています。皆さんには、希望の灯をずっと灯し続けていただきたいのです。
 デモクラシーというと、多数決とか政治だけのことだと思いがちですが、実は、子どもや家族との接し方や毎日の生活の中にデモクラシーがあるのではないでしょうか。
 若い世代の中に変化も生まれています。善段の生活の中でデモクラシーを考えてもらいたいし、私たちはその後押しをしていく立場だと思いますので、希望は捨てません。
 皆さんもその希望ち持ちつつ頑張ってくください。


※ 小島ブンゴード孝子 プロフィール
学習院大学英文科卒。1973年デンマーク人ブンゴードと結婚。永年にわたり、医療・福祉・教育・女性/労働問題などをテーマに、日本人向けの研修を企画。本紙にも様々な形で協力。主な著書に『デンマークの女性が輝いているわけ』、『デンマークに見る普段着のデモクラシー』(2023年6月)がある。いずれも大月書店(共著)

『週刊新社会』(2024年1月1日)


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