『子どもと教科書全国ネット21NEWS』から
◆ 横浜市教育委員会が実教版歴史教科書の
採択を妨害した事件の違法性と対応策
◆ 事件の概様
この事件は、朝日新聞(東京本社版)の8月29日朝刊・社会面で報道され、すでに横浜市・神奈川県の地域的な話題ではなくなっています。
それは、当然のことです。公立高校が採択を希望した教科書を、教育委員会が正当な理由もなく一方的に、別の特定の教科書に変更してしまったのです。戦後日本の教科書制度の歴史に前例のない暴挙を、横浜市教育委員会はやってのけたのです。
横浜市立高校は9校あります。その内の4校が来年度用の教科書として実教出版の『高校日本史A・B』を選んだことを、「教科用図書意見報告書」という教育委員会が定めた書類で、公式に届け出ていました。ところが、それを他社のものに書き替えるように、教育委員会の指導主事たちが、内密裏に各校長に迫ったのです。これを、校長たちは拒否します。これも、当然のことです。
東京都の場合は、人事権を持つ高校指導課長の電話攻勢によって、最後には校長たちが書類を書き替えています。
この違いの結果、横浜の場合は、学校希望を指導主事たちが覆したという証拠資料が、残りました。
学校希望を覆した採択案を主事たちが作成して公の場に出したのは、7月11日の第3回教科書取扱審議会においてでした。この審議会は、教委の諮問機関で、採択案の作成を諮問され、これまでは、学校からの「報告書」通りの案を答申していました。それに、これまではその「報告書」通りに整理して案とする文字通りの事務的な作業を、審議会の事務方として参加している指導主事たちが担当していたのも、複雑な作業でもあるのですから、合理的なことでした。
ところが今回の場合は、主事たちが審議会に諮る前に校長たちに働きかけ、拒否されると独断で、4校の分を山川出版のものに替えた案を、いきなり次の審議会に提案し、それを答申とすることで押し切ってしまったのです。
しかも、採択内容を決定する8月3日の教育委員会での審議の際に、その原案である答申が、例年とは異なって、学校希望を覆した部分を含むことを、事務方は各委員に知らせなかったのです。このことは、傍聴者が確認しています。
指導主事とその上司の事務方幹部は、結果的に重要な情報を教育委員に対して、隠蔽したのです。
◆ 採択は個々の高校の基本的な権利
高校の教科書採択は、無償制との関係がなく、専科制が前提の高校の授業内容の最終決定権や成績評価権と密接に関連した、個々の高校の基本的な権利です。だから、校長たちが書換えを拒否し、主事たちも強くは言えなかったのです。
こうした、大原則を熟知しているから、全国の教育委員会は、高校の採択では学校希望通りにしてきたのです。
それを、横浜市教委の事務方は踏みにじったのです。この採択による教師分の教科書や教師用指導書の購入に対しては、支出差し止めの監査請求や住民訴訟が考えられます。
何しろ、主事たちによる職権乱用を裏付ける公式の文書が、前述のように出揃っているのですから。
ところで、なぜ実教版が狙い打ちにされたのでしょう?
これも審議会の「会議録」によって、横浜市が採択した自由社と育鵬社の「つくる会」系教科書が批判されている事実などを記述しているのを、嫌ったのだと分かりました。
学校教育法では、高校教育の目標として「健全な批判力の育成」を明示しています。その目標達成を、市教委は邪魔したつもりなのでしょう。
でも、全国紙によって周知の事件となったのですから、この事自体を教材にすることが、可能です。
授業内容の最終決定権は、各学校・各教師にあるのです。それに、高校は毎年の採択です。来年度の採択は高校2年生以上も対象で、日本史の分は倍増します。この事件を広く知らせることが、執筆者や出版社を応援することにもなります。
(たかしまのぶよし)
『子どもと教科書全国ネット21NEWS』86号(2012年10月15日)
◆ 横浜市教育委員会が実教版歴史教科書の
採択を妨害した事件の違法性と対応策
高嶋伸欣 琉球大学名誉教授
◆ 事件の概様
この事件は、朝日新聞(東京本社版)の8月29日朝刊・社会面で報道され、すでに横浜市・神奈川県の地域的な話題ではなくなっています。
それは、当然のことです。公立高校が採択を希望した教科書を、教育委員会が正当な理由もなく一方的に、別の特定の教科書に変更してしまったのです。戦後日本の教科書制度の歴史に前例のない暴挙を、横浜市教育委員会はやってのけたのです。
横浜市立高校は9校あります。その内の4校が来年度用の教科書として実教出版の『高校日本史A・B』を選んだことを、「教科用図書意見報告書」という教育委員会が定めた書類で、公式に届け出ていました。ところが、それを他社のものに書き替えるように、教育委員会の指導主事たちが、内密裏に各校長に迫ったのです。これを、校長たちは拒否します。これも、当然のことです。
東京都の場合は、人事権を持つ高校指導課長の電話攻勢によって、最後には校長たちが書類を書き替えています。
この違いの結果、横浜の場合は、学校希望を指導主事たちが覆したという証拠資料が、残りました。
学校希望を覆した採択案を主事たちが作成して公の場に出したのは、7月11日の第3回教科書取扱審議会においてでした。この審議会は、教委の諮問機関で、採択案の作成を諮問され、これまでは、学校からの「報告書」通りの案を答申していました。それに、これまではその「報告書」通りに整理して案とする文字通りの事務的な作業を、審議会の事務方として参加している指導主事たちが担当していたのも、複雑な作業でもあるのですから、合理的なことでした。
ところが今回の場合は、主事たちが審議会に諮る前に校長たちに働きかけ、拒否されると独断で、4校の分を山川出版のものに替えた案を、いきなり次の審議会に提案し、それを答申とすることで押し切ってしまったのです。
しかも、採択内容を決定する8月3日の教育委員会での審議の際に、その原案である答申が、例年とは異なって、学校希望を覆した部分を含むことを、事務方は各委員に知らせなかったのです。このことは、傍聴者が確認しています。
指導主事とその上司の事務方幹部は、結果的に重要な情報を教育委員に対して、隠蔽したのです。
◆ 採択は個々の高校の基本的な権利
高校の教科書採択は、無償制との関係がなく、専科制が前提の高校の授業内容の最終決定権や成績評価権と密接に関連した、個々の高校の基本的な権利です。だから、校長たちが書換えを拒否し、主事たちも強くは言えなかったのです。
こうした、大原則を熟知しているから、全国の教育委員会は、高校の採択では学校希望通りにしてきたのです。
それを、横浜市教委の事務方は踏みにじったのです。この採択による教師分の教科書や教師用指導書の購入に対しては、支出差し止めの監査請求や住民訴訟が考えられます。
何しろ、主事たちによる職権乱用を裏付ける公式の文書が、前述のように出揃っているのですから。
ところで、なぜ実教版が狙い打ちにされたのでしょう?
これも審議会の「会議録」によって、横浜市が採択した自由社と育鵬社の「つくる会」系教科書が批判されている事実などを記述しているのを、嫌ったのだと分かりました。
学校教育法では、高校教育の目標として「健全な批判力の育成」を明示しています。その目標達成を、市教委は邪魔したつもりなのでしょう。
でも、全国紙によって周知の事件となったのですから、この事自体を教材にすることが、可能です。
授業内容の最終決定権は、各学校・各教師にあるのです。それに、高校は毎年の採択です。来年度の採択は高校2年生以上も対象で、日本史の分は倍増します。この事件を広く知らせることが、執筆者や出版社を応援することにもなります。
(たかしまのぶよし)
『子どもと教科書全国ネット21NEWS』86号(2012年10月15日)
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