◆ 安倍政権が子どもたちをどんな「人材」に育てたいのかが見えてきた
~中学校「特別の教科道徳」教科書を読む~
今年、採択にかかる中学校「道徳」教科書は、以下の8社です。「日本教科書」は新規参入、あとは小学校でも発行しています。
しかし、多くは文科省が定めた22の内容項目(徳目)を子どもたちに学ばせるために書かれたもので、リアリティーに乏しく、問題のある内容です。それを以下のように整理してみましたが、具体的には教科書ネット作成の「資料集」を参照してください。
◆ 「がんばれ、がんばれ」と子どもを叱咤激励し、
「弱い自分」への反省をせまる
松井秀喜選手やイチロー選手などスポーツ選手を登場させ、その頑張りを紹介する題材があります。
重い障害や難病、人の死を取り上げ、困難な中で頑張る姿を紹介した“感動物語”も目立ちます。
そのあとに、「自分の弱さを克服し、よりよく生きる」などのコラムがついていたりします。
全体として、「今のままではダメ、もっともっと頑張りなさい」と、子どもたちを追い立てているように感じます。「そんなことはわかっているけど、できないんだよ~」という中学生の心の葛藤にこたえるものではないな、と思いました。
◆ 自分を犠牲にして、
一方的に集団や社会への従属をせまる
東京オリンピックで優勝した女子バレーボールチームのマネージャーが、チームのために献身的に尽くしながら「愚痴一つこぼさなかった」と賛美したもの、今ある法やきまりについて、その意義を問うことなく「とにかく守れ」と教え込もうとするものなど、集団や社会への従属を一方的にせまっている、と感じる題材が目立ちます。
これは、「国家が先にあるのではなく、一人ひとりの人間が持ってうまれた基本的人権を守るためにこそ、政府がつくられる」という近代社会の大原則を否定するものではないでしょうか。
また、小学校の教科書と同じように、「正しい礼儀」の作法を教え込もうとする題材や、「礼儀正しい日本人」の様子が外国から称賛された記事を集めた題材もあります。「礼儀正しい日本人になりなさい」と、子どもたちに教え込もうとしているように見えました。
「愛国心」の項目で、「国旗が掲揚されるときには…起立ぐらいしたら」という王貞治さんのエッセーを掲載した教科書が2社あり、とても気になりました。
◆ 社会のあり方に目を向けさせず、
問題を自分の心の持ち方にさせてしまう
中学生の時期は、周りの人々との関係だけでなく、広く社会に目を向けて考えることができるようになる時期です。困難にぶつかった場合でも、その原因を社会のあり方の問題としても考えることができるし、各教科の学習でそのための力をつけています。
しかし「道徳」では、そのように社会に目を向けるのではなく、自分の心の持ち方を変えることによって解決できたという話が多く、とても気になりました。
たとえば、「労働」が「奉仕」と同義語で扱われていたり、長時間過密労働も自分の心がまえ一つで「たいした問題ではない」かのように書かれている題材がいくつかあります。
また、「日本アンガーマネジメント協会」の資料を掲載したり、「怒りの感情と上手につきあおう」などと、大人が自分の心を制御する訓練のようなものが持ち込まれていることにも問題を感じました。
◆ 自然科学や社会科学の到達点を無視
自然科学や社会科学の到達点から見て疑義のある題材があります。理科や社会科ではなく「道徳」の教科書で徳目を説くためには問題ない、ということなのでしょうか。
一例として、ナチスドイツの迫害を受けたユダヤ人を救うためにビザを書いた杉原千畝氏をとりあげた「希望のビザ」(学図2年)の中で、「日本はドイツと防共協定を結んでいる国で。そのために、あなた方ユダヤ人にビザを出すのは難しい立場にあります」の下線部に「生徒が誤解する表現である(当時の日本の外交政策)」という検定意見がつき、「私は数人分のビザなら発行することができますが、これほど大勢の人たちにお出しするのは…」と修正されました。
同じ題材を掲載した他の5社は、最初から修正後のように記述しています。歴史の事実をゆがめるものであり、重大な問題です。
特に日科には、侵略戦争への反省無しに、“大変な中でも頑張った人がいた”“植民地の人に尽くしたよい日本人もいた”など、特異な歴史観にもとつくエピソードが多く掲載されています。
そもそも日科は、侵略戦争を賛美する育鵬社の歴史・公民教科書と深いかかわりのある「日本教育再生機構」理事長の八木秀次氏らが創設した会社であり、『マンガ嫌韓流』シリーズ等のいわゆるヘイト本を多数発行している「晋遊舎」の子会社と言われています。
◆ 徳目をおしつけるための自己評価
子どもたちに自己評価をさせる教科書が複数あります。
あかつき(別冊)と日文(別冊)は1時間ごとに、東書は学期ごとに、授業へのとりくみをふり返り、4~5段階で記入させるようにしています。
それだけでなく、22の徳目の一つひとつについて、その“到達度”を自己評価させる教科書があります。日科は、22の徳目を「身につけたい22の心」として4段階で評価させます。教出は3段階で、あかつきは学期ごとに5段階で評価させるようになっています。
このようなことは、「児童(生徒)の学習状況や道徳性に係る成長の様子」を評価するが「数値による評価は行わない」とした学習指導要領からも逸脱し、子どもの内心の自由を侵害するものではないでしょうか。
◆ 子どもから出発する子どものための教育を
全体通して、安倍政権がすすめる「戦争する国」、グローバル企業が活躍する経済大国に奉仕する「人材」養成をねらったものだと思いました。それは、どの社に対しても共通に指摘せざるをえない問題点だと思います。
やっぱり、教科書を使って文科省が定めた徳目を教え込み、評価するという「道徳の教科化」はやめてほしい、という声をひろげていくことが大切だと思います。
同時に、教科書通りに教えることを強制するのではなく、子どもたちの状況に合わせて計画を変更したり、別の教材を組み合わせたりすることができるようにしてほしい、何よりもみんなで自由に意見を出し合い、考えていかれるようにしてほしい、という意見をたくさんあげることによって、先生たちや子どもたちを応援していきたいと思いました。(こうじやようこ)
~中学校「特別の教科道徳」教科書を読む~
糀谷陽子(子どもと教科書全国ネット21)
今年、採択にかかる中学校「道徳」教科書は、以下の8社です。「日本教科書」は新規参入、あとは小学校でも発行しています。
中学校「特別の教科道徳」教科書の発行社各社の題材の中には、差別や人権問題、戦争、環境問題など現実の社会問題をとりあげ、その解決に向けて人々がどのように行動しようとしているのか、また、いじめ問題を扱ったものなど、「ぜひ、子どもたちに読んでほしい」と思うものがいくつかあります。
発行社名 略称
日本教科書 日科
光村図書出版 光村
学研教育みらい 学研
廣済堂あかつき(別冊付)あかつき
日本文教出版(別冊付) 日文
東京書籍 東書
教育出版 教出
学校図書 学図
しかし、多くは文科省が定めた22の内容項目(徳目)を子どもたちに学ばせるために書かれたもので、リアリティーに乏しく、問題のある内容です。それを以下のように整理してみましたが、具体的には教科書ネット作成の「資料集」を参照してください。
◆ 「がんばれ、がんばれ」と子どもを叱咤激励し、
「弱い自分」への反省をせまる
松井秀喜選手やイチロー選手などスポーツ選手を登場させ、その頑張りを紹介する題材があります。
重い障害や難病、人の死を取り上げ、困難な中で頑張る姿を紹介した“感動物語”も目立ちます。
そのあとに、「自分の弱さを克服し、よりよく生きる」などのコラムがついていたりします。
全体として、「今のままではダメ、もっともっと頑張りなさい」と、子どもたちを追い立てているように感じます。「そんなことはわかっているけど、できないんだよ~」という中学生の心の葛藤にこたえるものではないな、と思いました。
◆ 自分を犠牲にして、
一方的に集団や社会への従属をせまる
東京オリンピックで優勝した女子バレーボールチームのマネージャーが、チームのために献身的に尽くしながら「愚痴一つこぼさなかった」と賛美したもの、今ある法やきまりについて、その意義を問うことなく「とにかく守れ」と教え込もうとするものなど、集団や社会への従属を一方的にせまっている、と感じる題材が目立ちます。
これは、「国家が先にあるのではなく、一人ひとりの人間が持ってうまれた基本的人権を守るためにこそ、政府がつくられる」という近代社会の大原則を否定するものではないでしょうか。
また、小学校の教科書と同じように、「正しい礼儀」の作法を教え込もうとする題材や、「礼儀正しい日本人」の様子が外国から称賛された記事を集めた題材もあります。「礼儀正しい日本人になりなさい」と、子どもたちに教え込もうとしているように見えました。
「愛国心」の項目で、「国旗が掲揚されるときには…起立ぐらいしたら」という王貞治さんのエッセーを掲載した教科書が2社あり、とても気になりました。
◆ 社会のあり方に目を向けさせず、
問題を自分の心の持ち方にさせてしまう
中学生の時期は、周りの人々との関係だけでなく、広く社会に目を向けて考えることができるようになる時期です。困難にぶつかった場合でも、その原因を社会のあり方の問題としても考えることができるし、各教科の学習でそのための力をつけています。
しかし「道徳」では、そのように社会に目を向けるのではなく、自分の心の持ち方を変えることによって解決できたという話が多く、とても気になりました。
たとえば、「労働」が「奉仕」と同義語で扱われていたり、長時間過密労働も自分の心がまえ一つで「たいした問題ではない」かのように書かれている題材がいくつかあります。
また、「日本アンガーマネジメント協会」の資料を掲載したり、「怒りの感情と上手につきあおう」などと、大人が自分の心を制御する訓練のようなものが持ち込まれていることにも問題を感じました。
◆ 自然科学や社会科学の到達点を無視
自然科学や社会科学の到達点から見て疑義のある題材があります。理科や社会科ではなく「道徳」の教科書で徳目を説くためには問題ない、ということなのでしょうか。
一例として、ナチスドイツの迫害を受けたユダヤ人を救うためにビザを書いた杉原千畝氏をとりあげた「希望のビザ」(学図2年)の中で、「日本はドイツと防共協定を結んでいる国で。そのために、あなた方ユダヤ人にビザを出すのは難しい立場にあります」の下線部に「生徒が誤解する表現である(当時の日本の外交政策)」という検定意見がつき、「私は数人分のビザなら発行することができますが、これほど大勢の人たちにお出しするのは…」と修正されました。
同じ題材を掲載した他の5社は、最初から修正後のように記述しています。歴史の事実をゆがめるものであり、重大な問題です。
特に日科には、侵略戦争への反省無しに、“大変な中でも頑張った人がいた”“植民地の人に尽くしたよい日本人もいた”など、特異な歴史観にもとつくエピソードが多く掲載されています。
そもそも日科は、侵略戦争を賛美する育鵬社の歴史・公民教科書と深いかかわりのある「日本教育再生機構」理事長の八木秀次氏らが創設した会社であり、『マンガ嫌韓流』シリーズ等のいわゆるヘイト本を多数発行している「晋遊舎」の子会社と言われています。
◆ 徳目をおしつけるための自己評価
子どもたちに自己評価をさせる教科書が複数あります。
あかつき(別冊)と日文(別冊)は1時間ごとに、東書は学期ごとに、授業へのとりくみをふり返り、4~5段階で記入させるようにしています。
それだけでなく、22の徳目の一つひとつについて、その“到達度”を自己評価させる教科書があります。日科は、22の徳目を「身につけたい22の心」として4段階で評価させます。教出は3段階で、あかつきは学期ごとに5段階で評価させるようになっています。
このようなことは、「児童(生徒)の学習状況や道徳性に係る成長の様子」を評価するが「数値による評価は行わない」とした学習指導要領からも逸脱し、子どもの内心の自由を侵害するものではないでしょうか。
◆ 子どもから出発する子どものための教育を
全体通して、安倍政権がすすめる「戦争する国」、グローバル企業が活躍する経済大国に奉仕する「人材」養成をねらったものだと思いました。それは、どの社に対しても共通に指摘せざるをえない問題点だと思います。
やっぱり、教科書を使って文科省が定めた徳目を教え込み、評価するという「道徳の教科化」はやめてほしい、という声をひろげていくことが大切だと思います。
同時に、教科書通りに教えることを強制するのではなく、子どもたちの状況に合わせて計画を変更したり、別の教材を組み合わせたりすることができるようにしてほしい、何よりもみんなで自由に意見を出し合い、考えていかれるようにしてほしい、という意見をたくさんあげることによって、先生たちや子どもたちを応援していきたいと思いました。(こうじやようこ)
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