=東京新聞<いま考える。くらしと経済>(1)=
◆ ゼロ成長前提の政策を (TOKYO Web)
伊東光晴・京大名誉教授
将来不安をなくし暮らしを良くしたいという私たちの声は政治に届いているのだろうか。アベノミクス開始から三年半。日銀による大幅な金融緩和を進めてきた政府だが、十分な賃金上昇や消費には結びついていない。いまどんな経済政策が必要なのか。有識者らとじっくり考える。初回は高度成長期から日本経済をみつめてきた京大名誉教授の伊東光晴氏(88)-。
◆ 派遣労働禁止、空き家活用・・・
-政策論議をどうみる。
与党も野党も、目先の人気取りに走っている。真実を語り、国民と誠実に向き合うべき時だ。
一時期の円安でトヨタ自動車など製造業は空前の利益を稼いだ。これは海外で稼いだ利益が円安で帳簿の上で膨らんだだけ。
企業は人口が減る日本では設備投資せず、賃上げもせず、海外の稼ぎを海外で回しているだけだ。
政府は財政支出で経済成長させると言う。だが今は高度成長期ではない。民間投資の呼び水とはならず財政赤字を増やすだけだ。与党も野党も聞こえのよい言葉で成長の幻想を振りまいているが、現実に目を向けることが必要だ。
-現実とは。
成熟した日本で成長は望めないということだ。
生産年齢人口が減るので、内閣府は労働力をフル活用しても年0・4%しか成長しないと推計している。政策も、ほとんど成長しないことを前提に、お金をかけずに内実を良くする方向に転換すべきだ。
今やっていることは、逆。 成長を前提に国債をどんどん発行し、日銀が買っている。
行き着くところまで行かないと止まらないのが日本だ。第二次大戦と同じ。
私は十八歳で終戦を迎えた。父は家では「こんなばかな戦争して」と言っていたが、外では言わなかった。国民全体がそうだった。いまの日本も国債の信用がなくなり、金利が上昇し、財政破綻するところまでいってしまうだろう。
-いま必要な政策は。
まずは派遣労働の禁止だ。派遣に就く若者が増えており、長年働いても給料は増えにくく、年金も定かでない。
戦前の女工哀史や炭鉱労働の悲惨な状況を踏まえ禁止されていたが、解禁され対象が広がっている。
再禁止すれば賃上げにつながり、将来への安心感が少子化対策になる。
地域が過疎化で虫食い状態になっている。コンパクトシティー化で地域再編することも道路や公共施設の維持費節約につながる。
全国で増える空き家なども活用すべきだ。
戦後は世代ごとに家を建ててきたが、住宅費が節約できれば余裕が生まれる。無理に需要をつくってあくせく稼ぐのでなく、ストック(過去につくった財産)を活用するのが本当に豊かな社会だ。日本は成熟社会に見合った政策が打ち出せていない。
-構造転換が遅れたと。
もっと早く財政を立て直して社会保障に力を入れ、少子化対策も打つべきだった。
米経済学者ガルブレイスは、弱者への分配に力を入れる「福祉国家」の安定財源として「流通税」を唱えた。欧州で一九七〇年代に採用された付加価値税(日本で言う消費税)につながった。私も当時、欧州視察し、付加価値税を政治家に提案したが、選挙で落ちるといわれ実現しなかった。
-経済破綻を避けるにはどうすればよいか。
私は右派だろうが左派だろうが、付加価値税(消費税)は上げ、福祉国家を目指すべきだと考えている。
いまの政権は異論に耳を傾けないのが非常に心配だ。本当の民主主義は多数決が全てではない。多様性が重要であり、それが破局を防ぐことになる。 (聞き手・吉田通夫)
※<いとう・みつはる> 1927年東京生まれ。東京商科大(現一橋大)卒、京都大教授などを経て現職。専門は理論経済学。国民生活審議会委員などを歴任。近著に「ガルブレイス-アメリカ資本主義との格闘」(岩波新書)
『東京新聞』(2016年6月22日 朝刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201606/CK2016062202000159.html
◆ ゼロ成長前提の政策を (TOKYO Web)
伊東光晴・京大名誉教授
将来不安をなくし暮らしを良くしたいという私たちの声は政治に届いているのだろうか。アベノミクス開始から三年半。日銀による大幅な金融緩和を進めてきた政府だが、十分な賃金上昇や消費には結びついていない。いまどんな経済政策が必要なのか。有識者らとじっくり考える。初回は高度成長期から日本経済をみつめてきた京大名誉教授の伊東光晴氏(88)-。
◆ 派遣労働禁止、空き家活用・・・
-政策論議をどうみる。
与党も野党も、目先の人気取りに走っている。真実を語り、国民と誠実に向き合うべき時だ。
一時期の円安でトヨタ自動車など製造業は空前の利益を稼いだ。これは海外で稼いだ利益が円安で帳簿の上で膨らんだだけ。
企業は人口が減る日本では設備投資せず、賃上げもせず、海外の稼ぎを海外で回しているだけだ。
政府は財政支出で経済成長させると言う。だが今は高度成長期ではない。民間投資の呼び水とはならず財政赤字を増やすだけだ。与党も野党も聞こえのよい言葉で成長の幻想を振りまいているが、現実に目を向けることが必要だ。
-現実とは。
成熟した日本で成長は望めないということだ。
生産年齢人口が減るので、内閣府は労働力をフル活用しても年0・4%しか成長しないと推計している。政策も、ほとんど成長しないことを前提に、お金をかけずに内実を良くする方向に転換すべきだ。
今やっていることは、逆。 成長を前提に国債をどんどん発行し、日銀が買っている。
行き着くところまで行かないと止まらないのが日本だ。第二次大戦と同じ。
私は十八歳で終戦を迎えた。父は家では「こんなばかな戦争して」と言っていたが、外では言わなかった。国民全体がそうだった。いまの日本も国債の信用がなくなり、金利が上昇し、財政破綻するところまでいってしまうだろう。
-いま必要な政策は。
まずは派遣労働の禁止だ。派遣に就く若者が増えており、長年働いても給料は増えにくく、年金も定かでない。
戦前の女工哀史や炭鉱労働の悲惨な状況を踏まえ禁止されていたが、解禁され対象が広がっている。
再禁止すれば賃上げにつながり、将来への安心感が少子化対策になる。
地域が過疎化で虫食い状態になっている。コンパクトシティー化で地域再編することも道路や公共施設の維持費節約につながる。
全国で増える空き家なども活用すべきだ。
戦後は世代ごとに家を建ててきたが、住宅費が節約できれば余裕が生まれる。無理に需要をつくってあくせく稼ぐのでなく、ストック(過去につくった財産)を活用するのが本当に豊かな社会だ。日本は成熟社会に見合った政策が打ち出せていない。
-構造転換が遅れたと。
もっと早く財政を立て直して社会保障に力を入れ、少子化対策も打つべきだった。
米経済学者ガルブレイスは、弱者への分配に力を入れる「福祉国家」の安定財源として「流通税」を唱えた。欧州で一九七〇年代に採用された付加価値税(日本で言う消費税)につながった。私も当時、欧州視察し、付加価値税を政治家に提案したが、選挙で落ちるといわれ実現しなかった。
-経済破綻を避けるにはどうすればよいか。
私は右派だろうが左派だろうが、付加価値税(消費税)は上げ、福祉国家を目指すべきだと考えている。
いまの政権は異論に耳を傾けないのが非常に心配だ。本当の民主主義は多数決が全てではない。多様性が重要であり、それが破局を防ぐことになる。 (聞き手・吉田通夫)
※<いとう・みつはる> 1927年東京生まれ。東京商科大(現一橋大)卒、京都大教授などを経て現職。専門は理論経済学。国民生活審議会委員などを歴任。近著に「ガルブレイス-アメリカ資本主義との格闘」(岩波新書)
『東京新聞』(2016年6月22日 朝刊)
http://www.tokyo-np.co.jp/article/economics/list/201606/CK2016062202000159.html
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