◆ 新たに作られる貧困層
改悪された奨学金制度
◆ 奨学金は金融事業に
奨学金問題は急速に深刻化している。その原因は第一に、奨学金制度の改悪にある。
1984年に、日本育英会法の全面改定によって、それまで無利子のみであった奨学金に有利子枠が創設された。
有利子枠創設後、政府は大学の学費を引き上げる一方、1999年に財政投融資と財政投融資機関債の資金で運用する有利子貸与制度をつくり、一般財源の無利子枠は拡大せずに、有利子枠のみをその後の10年間で約10倍に拡大させた。
2004年に、奨学金事業が日本育英会から独立行政法人日本学生支援機構へと引き継がれると、奨学金は「金融事業」と位置づけられた。
2007年度以降は民間資金の導入も始まった。
2008年において有利子対無利子の予算比率は74対26と有利子の方が圧倒的に多くなっている。
無利子貸与の希望者は予約採用の段階で近年、毎年約2万人ずつ増加しているが、採用枠が少ないために、2009年には78%が不採用となった。
さらに無利子の第一種奨学金について、教育職(小・中・高校の教員)には返済免除の制度があったが、これは1998年に廃止された。
大学での研究職の返済免除制度も2004年3月に廃止された。
奨学金制度の改悪に加えて、学費の上昇が深刻だ。
1969年には年額1万2000円だった国立大学の授業料は、2010年には53万5800円と物価上昇率をはるかに上回る勢いで上昇した。入学金を含めれば、初年度納付金は80万円を超える。
私立大学にいたっては、初年度納付金は文科系で約120万円、理科系では約150万円に達する。この学費の急上昇が、奨学金を借りざるを得ない人々を増加させている。
◆ 家計低下と受給者率上昇は一致
石油ショック後の日本経済の成長は、「大学の学費が上がっても何とか払える」状態だったが、近年こうした条件は急速に失われつつある。
家計所得の増加は1997年まで続いたものの、それ以後は減少し続けている。
世帯年収の中央値は1998年の544万円から、2009年には438万円と100万円以上も下がっている。
全大学生のなかの奨学金受給者の割合は、1998年の約2割から、2010年には5割を突破した。
家計所得の低下と奨学金受給者率の上昇の時期が、ぴったり重なっていることがわかる。
◆ 返済困難で滞納急増
奨学金の返済は極めて困難だ。
第二種奨学金をたとえば10万円借りた場合、貸与総額は480万円である。貸与利率を上限の3・0%とすれば返還総額は、645万9510円に達する。
月の返還額は2万6914円で、それを20年間継続しなければならない。23歳から払い始めても43歳までかかる。
月2万6914円の返還は極めて重いものであるが、払えない場合には年利10%の延滞金が発生する。
延滞金発生後の返済では、お金はまず延滞金の支払いに充当され、次いで利息、そして最後に元本に充当される。
延滞金を含めたすべての額を払わなければ、支払いが半永久的に続くことになる。
「奨学金ホットライン」では、60歳近くの年齢になっても、支払いの終わらない方からの相談があった。奨学金返済が一生終わらない事態が生まれている。
◆ 大卒就職率低下で返済も困難に
1990年前後には約90%だった大卒の就職率は、2000年には約60%に低下し、その後も厳しい状況が続いている。
正規就職が決まったとしても、年功賃金制度やボーナスのない「名ばかり正規」や「義務だけ正規」が激増している。
そんななかで、奨学金の返済が遅れている要返還者と未返還者を足した人数は、2004年の198万人に対して、2011年が334万人と7年間で130万人以上増えている。奨学金返済が困難となっている人が急増していることがわかる。
裁判所を使った「支払督促」を申し立てられる奨学金滞納者も急増している。2004年にはわずか200件だった支払督促の申立件数が、2011年には1万件と、この7年間で50倍に拡大している。
◆ 対策全国会議を結成
有利子奨学金の無利子化や給付型奨学金の導入など、奨学金制度の改善を求めて、3月31日(日)に、クレジットやサラ金被害者の問題に取り組んできた弁護士たちとともに、「奨学金問題対策全国会議」(事務局=東京市民法律事務所03(5571)6051)をスタートさせる。
設立総会は東京・四谷の主婦会館プラザエフで、午後1時から行われる。
新自由主義による「貧困と格差」が深刻化するなか、「市場競争のなかで勝ち抜くしかない」という自己責任論が社会に蔓延している。
必要なのは、新自由主義を批判的に捉える認識を広げ、分断支配に対抗するネットワークをつくっていくことだろう。「奨学金問題対策全国会議」を、その両者の役割を果たす場として発展させて行きたい。
おおうち・ひろかず
1967年神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。2011年から中京大学国際教養学部教授。主な著書に『民主党は日本の教育をどう変えるか』(岩波書店)、『教育基本法改正論批判』(白澤社)などがある。
改悪された奨学金制度
中京大学教授 大内裕和
◆ 奨学金は金融事業に
奨学金問題は急速に深刻化している。その原因は第一に、奨学金制度の改悪にある。
1984年に、日本育英会法の全面改定によって、それまで無利子のみであった奨学金に有利子枠が創設された。
有利子枠創設後、政府は大学の学費を引き上げる一方、1999年に財政投融資と財政投融資機関債の資金で運用する有利子貸与制度をつくり、一般財源の無利子枠は拡大せずに、有利子枠のみをその後の10年間で約10倍に拡大させた。
2004年に、奨学金事業が日本育英会から独立行政法人日本学生支援機構へと引き継がれると、奨学金は「金融事業」と位置づけられた。
2007年度以降は民間資金の導入も始まった。
2008年において有利子対無利子の予算比率は74対26と有利子の方が圧倒的に多くなっている。
無利子貸与の希望者は予約採用の段階で近年、毎年約2万人ずつ増加しているが、採用枠が少ないために、2009年には78%が不採用となった。
さらに無利子の第一種奨学金について、教育職(小・中・高校の教員)には返済免除の制度があったが、これは1998年に廃止された。
大学での研究職の返済免除制度も2004年3月に廃止された。
奨学金制度の改悪に加えて、学費の上昇が深刻だ。
1969年には年額1万2000円だった国立大学の授業料は、2010年には53万5800円と物価上昇率をはるかに上回る勢いで上昇した。入学金を含めれば、初年度納付金は80万円を超える。
私立大学にいたっては、初年度納付金は文科系で約120万円、理科系では約150万円に達する。この学費の急上昇が、奨学金を借りざるを得ない人々を増加させている。
◆ 家計低下と受給者率上昇は一致
石油ショック後の日本経済の成長は、「大学の学費が上がっても何とか払える」状態だったが、近年こうした条件は急速に失われつつある。
家計所得の増加は1997年まで続いたものの、それ以後は減少し続けている。
世帯年収の中央値は1998年の544万円から、2009年には438万円と100万円以上も下がっている。
全大学生のなかの奨学金受給者の割合は、1998年の約2割から、2010年には5割を突破した。
家計所得の低下と奨学金受給者率の上昇の時期が、ぴったり重なっていることがわかる。
◆ 返済困難で滞納急増
奨学金の返済は極めて困難だ。
第二種奨学金をたとえば10万円借りた場合、貸与総額は480万円である。貸与利率を上限の3・0%とすれば返還総額は、645万9510円に達する。
月の返還額は2万6914円で、それを20年間継続しなければならない。23歳から払い始めても43歳までかかる。
月2万6914円の返還は極めて重いものであるが、払えない場合には年利10%の延滞金が発生する。
延滞金発生後の返済では、お金はまず延滞金の支払いに充当され、次いで利息、そして最後に元本に充当される。
延滞金を含めたすべての額を払わなければ、支払いが半永久的に続くことになる。
「奨学金ホットライン」では、60歳近くの年齢になっても、支払いの終わらない方からの相談があった。奨学金返済が一生終わらない事態が生まれている。
◆ 大卒就職率低下で返済も困難に
1990年前後には約90%だった大卒の就職率は、2000年には約60%に低下し、その後も厳しい状況が続いている。
正規就職が決まったとしても、年功賃金制度やボーナスのない「名ばかり正規」や「義務だけ正規」が激増している。
そんななかで、奨学金の返済が遅れている要返還者と未返還者を足した人数は、2004年の198万人に対して、2011年が334万人と7年間で130万人以上増えている。奨学金返済が困難となっている人が急増していることがわかる。
裁判所を使った「支払督促」を申し立てられる奨学金滞納者も急増している。2004年にはわずか200件だった支払督促の申立件数が、2011年には1万件と、この7年間で50倍に拡大している。
◆ 対策全国会議を結成
有利子奨学金の無利子化や給付型奨学金の導入など、奨学金制度の改善を求めて、3月31日(日)に、クレジットやサラ金被害者の問題に取り組んできた弁護士たちとともに、「奨学金問題対策全国会議」(事務局=東京市民法律事務所03(5571)6051)をスタートさせる。
設立総会は東京・四谷の主婦会館プラザエフで、午後1時から行われる。
新自由主義による「貧困と格差」が深刻化するなか、「市場競争のなかで勝ち抜くしかない」という自己責任論が社会に蔓延している。
必要なのは、新自由主義を批判的に捉える認識を広げ、分断支配に対抗するネットワークをつくっていくことだろう。「奨学金問題対策全国会議」を、その両者の役割を果たす場として発展させて行きたい。
おおうち・ひろかず
1967年神奈川県生まれ。東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。2011年から中京大学国際教養学部教授。主な著書に『民主党は日本の教育をどう変えるか』(岩波書店)、『教育基本法改正論批判』(白澤社)などがある。
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