◆ 「ヒトラーだ」は、ヘイト・スピーチではない (前田朗blog)
菅直人(前首相)が維新と橋本徹(前大阪市長・前府知事)を名指して「ヒトラー」呼ばわりしたことが波紋を呼んでいる。
松井・吉村・橋本 vs 菅・蓮舫の間で議論の応酬になり、維新はなぜか立憲民主党に抗議したという。
この件で、橋本は「国際社会ならアウトだ」、松井は「ヒトラーに例えるのはヘイト・スピーチだ」と主張して、菅を批判したという。
意味不明、かつ虚偽の主張である。
なぜこのような幼稚な嘘が横行するのか不思議だが、私のところにも「ヒトラーだと非難するとヘイト・スピーチになるのか」という問い合わせが届いた。
問題のある政治家に対して「ヒトラーだ」と批判するのは、国際社会では頻繁に用いられてきた、その意味ではよくある批判の言葉である。
ヒトラーだと言われて、それが当てはまれば、その政治家の政治生命が危機となるのがまともな民主主義社会である。
「ヒトラーのようだ」はヘイト・スピーチとはおよそ関係がない。むしろ逆である。ヒトラーによって差別され、被害を受けたユダヤ人にヘイト・スピーチが向けられた。「ヒトラー」はヘイトの主体であって、被害客体ではない。
次の2つの観点で検討しよう。
日本のヘイト・スピーチ解消法第2条はヘイト・スピーチを次のように定義する。
<この法律において『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。>
第1に被害者として保護されるのは「本邦外出身者」である。松井・吉村・橋本は「本邦外出身者」ではないだろう。
第2に目的は「差別的意識を助長し又は誘発する目的」である。これもまったく関係ない。
第3に実行行為(1)は「その生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知」である。菅はこうした危害に言及していない。
第4に実行行為(2)は「本邦外出身者を著しく侮蔑」である。全く関係ない。「侮蔑」に当たるとの主張は当たらない。政治家同士の批判の応酬である。
第5に実行行為(3)は「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動」である。これもおよそ関係ない。
以上の通り、どこからどう見ても、ヘイト・スピーチではない。
2.国際社会のヘイト・スピーチ処罰法
世界の150か国でヘイト・スピーチは犯罪とされている。法律は多様であるが、代表的な例を見ておこう。
ポーランド刑法第256条及び第257条は国民、民族、人種及び宗教の差異、又はいかなる宗派にも属さないことのために、公然と憎悪を煽動した者、その国民、民族、人種又は宗教関係ゆえに、もしくはいずれかの宗派に属さないことゆえに、住民の中の集団又は諸個人を公然と侮辱した者、もしくはそれらの理由で、他人の人間の尊厳を侵害した者は、訴追されるべきとしている。
第1に犯罪動機は「国民、民族、人種及び宗教の差異」とされている。
第2に実行行為は「公然と憎悪を煽動」「公然と侮辱」「人間の尊厳を侵害」である。
フランス刑法第624-3条は「その人の出身、又は特定の民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であるか構成員でない――現にそうであれ、そう考えられたものであれ――ことに基づいて、人又は集団に公然性のない中傷をすれば、第四カテゴリーの犯罪に設定された罰金を課す。ジェンダー、性的志向、障害に基づく公開ではない中傷も同じ刑罰を課す」と規定する。
第1に犯罪動機(被害者の属性)は「その人の出身、又は特定の民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であるか構成員でないこと」である。「ジェンダー、性的志向、障害」が追加された。
第2に実行行為は「中傷」である。
大半の国では人種、国民、言語、宗教、ジェンダー等を理由とするヘイト・スピーチを処罰する。
「政治的批判」をヘイト・スピーチだと非難するのは的外れである。
国際自由権規約も人種差別撤廃条約も、人種、国民、皮膚の色、言語等に基づくヘイト・スピーチの規制を求めている。いずれも政治的ヘイト・スピーチには言及していない。
以上の通り、日本法、各国法、国際人権法の観点から言って、「ヒトラーだ」がヘイト・スピーチになることは考えられない。
およそ逆である。
ヘイト・スピーチはヒトラーの得意技であった。
ヒトラーとその同類によるヘイト・スピーチを非難するべきである。
ヒトラーとその同類に対する批判を「ヘイト・スピーチ」と呼ぶのは倒錯している。
マスコミの中には松井・吉村・橋本の異常な主張をそのまま横流ししている例が見られるが、不見識である。
下記の報道を参照すべきである。
※ 橋下徹は盟友・石原慎太郎から「ヒトラーに該当」と称賛されていた! 高須院長に協力の吉村、優生思想の松井、維新議員に反論の資格なし
https://lite-ra.com/2022/01/post-6152.html
※ 菅元首相「ヒトラー投稿」にモーレツ抗議 維新お得意の手口に惑わされるな!
https://news.yahoo.co.jp/articles/2dd59e5ce624897472b24a2f3614f165cb227529
『前田朗blog』(THURSDAY, JANUARY 27, 2022)
http://maeda-akira.blogspot.com/2022/01/blog-post_27.html
菅直人(前首相)が維新と橋本徹(前大阪市長・前府知事)を名指して「ヒトラー」呼ばわりしたことが波紋を呼んでいる。
松井・吉村・橋本 vs 菅・蓮舫の間で議論の応酬になり、維新はなぜか立憲民主党に抗議したという。
この件で、橋本は「国際社会ならアウトだ」、松井は「ヒトラーに例えるのはヘイト・スピーチだ」と主張して、菅を批判したという。
意味不明、かつ虚偽の主張である。
なぜこのような幼稚な嘘が横行するのか不思議だが、私のところにも「ヒトラーだと非難するとヘイト・スピーチになるのか」という問い合わせが届いた。
問題のある政治家に対して「ヒトラーだ」と批判するのは、国際社会では頻繁に用いられてきた、その意味ではよくある批判の言葉である。
ヒトラーだと言われて、それが当てはまれば、その政治家の政治生命が危機となるのがまともな民主主義社会である。
「ヒトラーのようだ」はヘイト・スピーチとはおよそ関係がない。むしろ逆である。ヒトラーによって差別され、被害を受けたユダヤ人にヘイト・スピーチが向けられた。「ヒトラー」はヘイトの主体であって、被害客体ではない。
次の2つの観点で検討しよう。
1. 日本のヘイト・スピーチ解消法1.日本のヘイト・スピーチ解消法
2. 国際社会のヘイト・スピーチ処罰法
日本のヘイト・スピーチ解消法第2条はヘイト・スピーチを次のように定義する。
<この法律において『本邦外出身者に対する不当な差別的言動』とは、専ら本邦の域外にある国若しくは地域の出身である者又はその子孫であって適法に居住するもの(以下この条において「本邦外出身者」という。)に対する差別的意識を助長し又は誘発する目的で公然とその生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知し又は本邦外出身者を著しく侮蔑するなど、本邦の域外にある国又は地域の出身であることを理由として、本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動する不当な差別的言動をいう。>
第1に被害者として保護されるのは「本邦外出身者」である。松井・吉村・橋本は「本邦外出身者」ではないだろう。
第2に目的は「差別的意識を助長し又は誘発する目的」である。これもまったく関係ない。
第3に実行行為(1)は「その生命、身体、自由、名誉若しくは財産に危害を加える旨を告知」である。菅はこうした危害に言及していない。
第4に実行行為(2)は「本邦外出身者を著しく侮蔑」である。全く関係ない。「侮蔑」に当たるとの主張は当たらない。政治家同士の批判の応酬である。
第5に実行行為(3)は「本邦外出身者を地域社会から排除することを煽動」である。これもおよそ関係ない。
以上の通り、どこからどう見ても、ヘイト・スピーチではない。
2.国際社会のヘイト・スピーチ処罰法
世界の150か国でヘイト・スピーチは犯罪とされている。法律は多様であるが、代表的な例を見ておこう。
ポーランド刑法第256条及び第257条は国民、民族、人種及び宗教の差異、又はいかなる宗派にも属さないことのために、公然と憎悪を煽動した者、その国民、民族、人種又は宗教関係ゆえに、もしくはいずれかの宗派に属さないことゆえに、住民の中の集団又は諸個人を公然と侮辱した者、もしくはそれらの理由で、他人の人間の尊厳を侵害した者は、訴追されるべきとしている。
第1に犯罪動機は「国民、民族、人種及び宗教の差異」とされている。
第2に実行行為は「公然と憎悪を煽動」「公然と侮辱」「人間の尊厳を侵害」である。
フランス刑法第624-3条は「その人の出身、又は特定の民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であるか構成員でない――現にそうであれ、そう考えられたものであれ――ことに基づいて、人又は集団に公然性のない中傷をすれば、第四カテゴリーの犯罪に設定された罰金を課す。ジェンダー、性的志向、障害に基づく公開ではない中傷も同じ刑罰を課す」と規定する。
第1に犯罪動機(被害者の属性)は「その人の出身、又は特定の民族集団、国民、人種又は宗教の構成員であるか構成員でないこと」である。「ジェンダー、性的志向、障害」が追加された。
第2に実行行為は「中傷」である。
大半の国では人種、国民、言語、宗教、ジェンダー等を理由とするヘイト・スピーチを処罰する。
「政治的批判」をヘイト・スピーチだと非難するのは的外れである。
国際自由権規約も人種差別撤廃条約も、人種、国民、皮膚の色、言語等に基づくヘイト・スピーチの規制を求めている。いずれも政治的ヘイト・スピーチには言及していない。
以上の通り、日本法、各国法、国際人権法の観点から言って、「ヒトラーだ」がヘイト・スピーチになることは考えられない。
およそ逆である。
ヘイト・スピーチはヒトラーの得意技であった。
ヒトラーとその同類によるヘイト・スピーチを非難するべきである。
ヒトラーとその同類に対する批判を「ヘイト・スピーチ」と呼ぶのは倒錯している。
マスコミの中には松井・吉村・橋本の異常な主張をそのまま横流ししている例が見られるが、不見識である。
下記の報道を参照すべきである。
※ 橋下徹は盟友・石原慎太郎から「ヒトラーに該当」と称賛されていた! 高須院長に協力の吉村、優生思想の松井、維新議員に反論の資格なし
https://lite-ra.com/2022/01/post-6152.html
※ 菅元首相「ヒトラー投稿」にモーレツ抗議 維新お得意の手口に惑わされるな!
https://news.yahoo.co.jp/articles/2dd59e5ce624897472b24a2f3614f165cb227529
『前田朗blog』(THURSDAY, JANUARY 27, 2022)
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