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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

「知識の習得とともに、友達と意見を交わしながら性について考える」性教育授業実践

2019年07月03日 | 暴走する都教委
  《教科書ネット21ニュースから》
 ◆ 人権教育としての「性の学び」 ~中学校の性教育実践より~
樋上典子(ひがみのりこ 東京都足立区公立中学校)

 ◆ はじめに
 厚生労働省がまとめた2017年の人口動態統計で、戦後初めて日本人の10~14歳の死因として自殺が1位になっていたことが報告されました。様々な問題を抱える教育現場で「いのちの大切さを子どもたちにどのように理解させるか」が、大きな課題となっています。
 「いのち」はからだの学習でイコール「いのちの学習」だということをいつも子どもたちに伝えています。科学的に自分のからだを知ると、自分のすごさ、からだを大切にしたいという思いが出てきます。そして、自分のからだを大切に出来る人は、人も大切に出来るということを、1年生の「生命誕生」の授業の初めにいつも話します。
 100回「いのちが大切」であると伝えても、なかなか子どもに伝わりませんが、科学的にきちんと伝えると、ストンと心の中に落ちる。これが性教育の魅力でもあります。
 また、若者の性行動を煽るような情報、からだ観を阻害するような情報の氾濫、特にSNSの普及により、自分自身を肯定できなくなっていることは深刻です。
 自分のからだについての正しい知識を得ることは、からだの変化を迎える、特に思春期真っ只中の子どもたちにとっては必要な学びです。
 足立区は、「貧困問題」を真正面から取り上げ、何とか解消したいと、様々な政策を打ち出しています。「予期せぬ妊娠」、「性感染症」の回避はもちろん、自身の性のあり方を考えさせることは豊かな性を生涯育むことにつながり、「貧困の連鎖」を断つためにも性教育は欠かせない、そんな思いでプログラムを組み、実践を積み重ねています。
 今回は「避妊・中絶」を含めた「自分の性行動を考える」授業実践内容について、どんな思いで行っているか・簡単に紹介させていただきます。
 ◆ 実践を行うにあたって

 本校は、性教育を人権教育として位置付け、3年間のプログラムを組んで実践しています。
 保護者、地域の方々に応援をしてもらって8年になります。
 この授業は、大学の先生と共に、何度も検証授業を繰り返し、練り上げてきている授業でもあります。
 内容は、1年生で「生命誕生」、「女らしさ?男らしさ?を考える」、
 2年生で、「多様な性」、
 3年生で、「自分の性行動を考える(避妊、中絶を含)」、「恋愛とデートDV」。
 9教科で扱わないものを取り上げ、総合的な学習の時間等に位置付けて行っています。
 また、保健体育科保健分野で、1年生「月経と射精」、3年生「性感染症・エイズ」についても検証授業を重ねています。
 4月の保護者会で性の学習の大切さを話し、授業後は学校通信、学年通信等で授業の様子を伝えています。
 また、保護者はもちろん、地域の保健所、男女共同参画プラザ、産婦人科医、近隣の小中学校にも案内を出して参観をお願いしています。
 そして教育課程にも位置づけ、足立区教育委員会の方々にも参観してもらい、助言をいただいています。
 ◆ 自分の性行動を考える
   ~避妊・中絶を含めた授業~について


 ①事前アンケートより

 男女共修・学級ごと、3年生の3月に「自分の性行動を考える」という避妊、中絶の知識を含めた授業を行います。生徒たちの変容を知るために、生徒たちのアンケートを必ずとります。
 今回授業前では「2人が合意すれば中学生でも性交渉をしてもよい」が40%、「2人が合意すれば高校生になれば性交渉をしてもよい」が50%でした。
 しかし、避妊と中絶についての知識がありません。特に中絶について、法律や時期があることを知っている者は20%も満たない状況です。これは毎年、同じような数値が出ます。
 ②授業の流れと様子

 授業の初めに、人間と動物の違いを伝え、性交と交尾の違いを説明します。
 人間と動物の大きな違いは脳であり、特に人間らしく生きるためには「前頭葉」を発達させることの大切さを伝えます。
 人間の性は「ふれあいの性」が主であるが、他の動物と同じように「生殖の性」でもある。月経のある女性と射精ができる男性が性交渉をすれば「妊娠」する可能性があることを強調します。
 そこで人間は妊娠しないための「避妊」、そして予期せぬ妊娠を中断する「人工妊娠中絶」をあみ出したことを簡単に伝え、「高校生の性交渉は許されるか」「もし、妊娠したらどうするか」についてのグループ討議→代表者による討議(7,8人)を行います。
 生徒たちは活発に意見を出します。
  「好きならしてもいいじゃん」
  「でも、妊娠したらどうするの?」
  「ゴムすればいいじゃん」
  「もし、高校生で妊娠したらどうする?」
  「産む」
  「育てられないから無理」。

 いろいろと意見が分かれます。
  「中絶は赤ちゃんがかわいそう」
  「じゃ、誰が育てるの?」
  「高校をやめて働く」
  「野球がやりたくて高校へ行くって、頑張って受験したんじゃないの?」
 と言われて、頭を抱えて悩みます。

 男子が、「彼女が産みたいっていうなら、産んでもいいと思う。でも、産みたくない、おろしたいって言うならおろしてもいいと思う」と言うと、
 女子から、「それは自分があまりにもなさ過ぎ。無責任」と非難される場面もありました。
 「非常に難しい。非常につらい、苦しい。だから、性の安心、安全のためにしっかりこれから勉強しましょう」とモチベーションをあげてから、本題に入っていきます。
 前半は人工妊娠中絶
 中絶件数の現状、中絶するための知識、法律、時期、病院選び等について説明をします。
 中絶は身体的にも精神的にも辛い。だから、きちんと避妊をしなければならないことを伝え、ピル、コンドーム等について、また、緊急避妊ピルについても話します。
 何より、一人、二人で考え込まない。抱え込まない。誰か信頼のできる大人に相談することの大切さも話します。
 そして中絶は辛いがせざるを得ないこともある。法律、つまり母体保護法はあなたを守るためにもあることも伝えます。
 当事者がいるかもしれない。当事者になるかもしれない。中絶が決して脅しであってはいけません。
 最後に「産み、育てられる状況になるまでは性交しない」これが一番であることを強調します。
 今はメディアに煽られている面もあり、好きだから性交することがイコールになってしまう傾向があります。
  「焦ることはない、素敵で大切な行為だからこそ、じっくり考えることが必要」そして、
  「避妊について語り合えない時も性交を絶対にすべきではない」
  「避妊をしないというのは、まさに性暴力であり、性交というのは、その人自身の人生を変えてしまう場合もある」
 ことも伝えます。

 「知識の習得とともに、友達と意見を交わしながら性について考える」これは学校でできる良さでもあり、大変効果的です。
 事後アンケートでは知識の習得は高まり、「中高生の性交渉は許されるか」の回答も半減します。
 知識を得ることで、そして真剣に考えることで「慎重になった」と分析しています。

 東京都教育委員会は今回の件で、性教育の手引きの見直しを行いました。外部講師だけに頼るのでなく、目の前の子どもたちの性の安心、安全のために「大人の学び」がさらに必要であることを大人が自覚することが大切です。
 「予期せぬ妊娠をする」「性感染症に罹患する」・・・これは子どものせいでしょうか。違います。きちんと教育してこなかった「大人の責任」ではないでしょうか。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 125号』(2019年4月)

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