◆ 今の中東情勢をどう見るか
~日本の役割は、国際世論喚起 (週刊新社会)
◆ 司令官暗殺が招いた危機
2018年5月のトランプ大統領によるイラン核合意の一方的破棄以来、米国とイランの対立は悪化の一途をたどりましたが、ついに2020年1月2日、トランプ大統領はイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官を無人機によるミサイル攻撃で爆死させる暴挙に出ました。
誰もが戦争になるとおそれた危機は、その後、米国、イラン双方の自制により回避されましたが、米国とイランの対立はその後も悪化したまま、誰もその先を見通せない状況が続いています。危機が常態化し、我々は緊張した日々を過ごさなければならなくなりました。
◆ 米大統領の計画的な攻撃
スレイマニ殺害のシナリオは以前から考えられていたということがわかりました。ボルトン大統領補佐官など強硬派はそれを主張していたのです。
決してトランプ大統領の気まぐれではなかったのです。
それを裏付けるかのように、トランプ大統領は開き直りました。トランプ大統領がスレイマニ司令官殺害の口実として挙げた、複数の米国大使館への危機が、実は根拠のないことが分ったのです。
それが明らかになると、トランプ大統領は、そんなことなど、スレイマニ司令官の殺害という重要な目的のためにはどうでもいいことだ、と開き直ったのです。
どこかで聞いたようなセリフです。そうです。2003年3月のブッシュ大統領のイラク攻撃の時と同じです。はじめに攻撃ありきだったのです。
◆ イスラエルの安全保障と分断
次の標的はハメネイ師率いるイランの反米体制なのです。そしてそれはまさしくサダム・フセインのイラクを攻撃し、倒した時と同じです。
米国の中東政策に歯向かう国は許さないということです。そして、それは取りもなおさず、イスラエルの安全保障の確保です。
実際のところ、この目的を果たすため、米国とイスラエルの中東政策は、つねにアラブ諸国を分断させる政策でした。
1979年にエジプトとイスラエルの和平を実現させ、エジプトをイスラエルと戦うアラブ諸国から外しました。
1991年の湾岸戦争によってサウジをはじめとした湾岸産油国は米国の庇護なくしては自国を守れない国にしてしまいました。
そして2003年のイラク攻撃でイラクからサダム・フセインを排除し、2011年にはアラブの春に便乗する形でシリアのアサド体制を弱体化させました。
残った、最後で最強の反イスラエル国家こそ、1978年のホメイニ革命を引き継いだハメネイ師のイランだったのです。
◆ イランの核武装阻止の米国
トランプ大統領は、オバマ大統領が欧米諸国と一緒になって合意にこぎつけたイランとの核合意を2018年5月に一方的に破棄しました。ここから米国とイランの対立は激しくなりました。
なぜ破棄したのか。それはイスラエルにとってイランが核保有国になることだけは絶対に認められないからです。なぜなら、どんなにイスラエルの軍事力が強くても、国土の小さいイスラエルは核爆弾ひとつで人が住めない国になるからです。
そして、オバマ大統領が結んだ核合意は、イランの核開発を遅らせる事はできても、決してイランに核開発を断念させるものではなかったのです。
その意味では、トランプ大統領が中途半端な核合意を廃棄したことは首尾一貫しているのです。
いまやイランを完全非核化させられるか、それをイランが受け入れるのかが米国・イスラエルとイランの、生存をかけた対立問題となったのです。
◆ パレスチナ問題解決が不可欠
パレスチナ問題こそ中東問題の最大のテーマであり、パレスチナ問題の公正で永続的な平和の実現なくして中東情勢の平和はないからです。
パレスチナ問題の公正で永続的な解決とは、イスラエルとパレスチナの両国がお互いに国家としての主権を認め合って共存する事です。
1948年に国運安保理が採択した決議がそれを目指したものでした。
しかし現実はむしろ逆行し、いまではイスラエルが一方的にパレスチナを占領し、併合するようになりました。もちろん国際法違反です。
しかし、国際世論はこの米国とイスラエルの国際法違反を止められません。そして米国の大統領がトランプ大統領になって、このイスラエルの横暴が行き着くところまで行くようになりました。
かつては一致団結して戦ったアラブ諸国は、分断、懐柔され、いまではどの国もアラブの同胞であるパレスチナを助けようとはしません。
最後に残ったイランですら、スレイマニ司令官の殺害に見られるように、圧倒的な軍事力を誇る米国とイスラエルに潰されかねないのです。
しかし、どんなに軍事力で圧倒しても、不条理に抵抗する人の心まで抑えつける事はできません。その行きつく先が自爆テロによる抵抗であり、それを抑えつけようとするさらなる米国・イスラエルの弾圧です。
終わりのない非対称的な戦いであり、これ以上悲惨で人道にもとるものはありません。
中東情勢をこれ以上悪化させないためにも、国際的世論を喚起して、米国とイスラエルの反省を促すしかありません。憲法9条を持った日本こそ、その先頭に立たなくてはいけないのです。
『週刊新社会』(2020年2月4日)
~日本の役割は、国際世論喚起 (週刊新社会)
元駐レバノン大使 天木直人
◆ 司令官暗殺が招いた危機
2018年5月のトランプ大統領によるイラン核合意の一方的破棄以来、米国とイランの対立は悪化の一途をたどりましたが、ついに2020年1月2日、トランプ大統領はイラン革命防衛隊のスレイマニ司令官を無人機によるミサイル攻撃で爆死させる暴挙に出ました。
誰もが戦争になるとおそれた危機は、その後、米国、イラン双方の自制により回避されましたが、米国とイランの対立はその後も悪化したまま、誰もその先を見通せない状況が続いています。危機が常態化し、我々は緊張した日々を過ごさなければならなくなりました。
◆ 米大統領の計画的な攻撃
スレイマニ殺害のシナリオは以前から考えられていたということがわかりました。ボルトン大統領補佐官など強硬派はそれを主張していたのです。
決してトランプ大統領の気まぐれではなかったのです。
それを裏付けるかのように、トランプ大統領は開き直りました。トランプ大統領がスレイマニ司令官殺害の口実として挙げた、複数の米国大使館への危機が、実は根拠のないことが分ったのです。
それが明らかになると、トランプ大統領は、そんなことなど、スレイマニ司令官の殺害という重要な目的のためにはどうでもいいことだ、と開き直ったのです。
どこかで聞いたようなセリフです。そうです。2003年3月のブッシュ大統領のイラク攻撃の時と同じです。はじめに攻撃ありきだったのです。
◆ イスラエルの安全保障と分断
次の標的はハメネイ師率いるイランの反米体制なのです。そしてそれはまさしくサダム・フセインのイラクを攻撃し、倒した時と同じです。
米国の中東政策に歯向かう国は許さないということです。そして、それは取りもなおさず、イスラエルの安全保障の確保です。
実際のところ、この目的を果たすため、米国とイスラエルの中東政策は、つねにアラブ諸国を分断させる政策でした。
1979年にエジプトとイスラエルの和平を実現させ、エジプトをイスラエルと戦うアラブ諸国から外しました。
1991年の湾岸戦争によってサウジをはじめとした湾岸産油国は米国の庇護なくしては自国を守れない国にしてしまいました。
そして2003年のイラク攻撃でイラクからサダム・フセインを排除し、2011年にはアラブの春に便乗する形でシリアのアサド体制を弱体化させました。
残った、最後で最強の反イスラエル国家こそ、1978年のホメイニ革命を引き継いだハメネイ師のイランだったのです。
◆ イランの核武装阻止の米国
トランプ大統領は、オバマ大統領が欧米諸国と一緒になって合意にこぎつけたイランとの核合意を2018年5月に一方的に破棄しました。ここから米国とイランの対立は激しくなりました。
なぜ破棄したのか。それはイスラエルにとってイランが核保有国になることだけは絶対に認められないからです。なぜなら、どんなにイスラエルの軍事力が強くても、国土の小さいイスラエルは核爆弾ひとつで人が住めない国になるからです。
そして、オバマ大統領が結んだ核合意は、イランの核開発を遅らせる事はできても、決してイランに核開発を断念させるものではなかったのです。
その意味では、トランプ大統領が中途半端な核合意を廃棄したことは首尾一貫しているのです。
いまやイランを完全非核化させられるか、それをイランが受け入れるのかが米国・イスラエルとイランの、生存をかけた対立問題となったのです。
◆ パレスチナ問題解決が不可欠
パレスチナ問題こそ中東問題の最大のテーマであり、パレスチナ問題の公正で永続的な平和の実現なくして中東情勢の平和はないからです。
パレスチナ問題の公正で永続的な解決とは、イスラエルとパレスチナの両国がお互いに国家としての主権を認め合って共存する事です。
1948年に国運安保理が採択した決議がそれを目指したものでした。
しかし現実はむしろ逆行し、いまではイスラエルが一方的にパレスチナを占領し、併合するようになりました。もちろん国際法違反です。
しかし、国際世論はこの米国とイスラエルの国際法違反を止められません。そして米国の大統領がトランプ大統領になって、このイスラエルの横暴が行き着くところまで行くようになりました。
かつては一致団結して戦ったアラブ諸国は、分断、懐柔され、いまではどの国もアラブの同胞であるパレスチナを助けようとはしません。
最後に残ったイランですら、スレイマニ司令官の殺害に見られるように、圧倒的な軍事力を誇る米国とイスラエルに潰されかねないのです。
しかし、どんなに軍事力で圧倒しても、不条理に抵抗する人の心まで抑えつける事はできません。その行きつく先が自爆テロによる抵抗であり、それを抑えつけようとするさらなる米国・イスラエルの弾圧です。
終わりのない非対称的な戦いであり、これ以上悲惨で人道にもとるものはありません。
中東情勢をこれ以上悪化させないためにも、国際的世論を喚起して、米国とイスラエルの反省を促すしかありません。憲法9条を持った日本こそ、その先頭に立たなくてはいけないのです。
『週刊新社会』(2020年2月4日)
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