★ 増大する不登校
通常学級の変革が求められる (週刊新社会)
鹿児島県立短期大学 田口康明
★ 増え続ける特別支援学級・学校
最近、「普通学級で共に」を勧めるが、「もう無理」という本人・保護者が増えてきているという。少人数でゆっくりとしたペースで勉強する方がこの子にあっている、ということで特別支援学級を選ぶ保護者も増えている。
他方で、2022年12月に発表された文科省の調査では、小中学校の担任が、「発達障害の可能性のある子」が通常学級に8・8%、11人に1人程度在籍していると感じていることが報告された。
「排除のまなざし」が広がっている。そして、特別支援学級・学校が増えている。23年、全国の小中学校で5000を超える特別支援学級が存在する。
★ 不登校30万人弱
他方で、文部科学省の10月の発表によれば、2022年度、全国の国公私立学校を対象に実施した「問題行動・不登校調査」で、病気や経済的理由などとは異なる要因により30日以上登校せず「不登校」と判断された小中学生が、前年度比22・1%(5万4108人)増の29万9048人となり、過去最多を更新した。
不登校は10年連続で増加している。20年度の19万6127人から2年間で10万人以上増えた。
文科省は「新型コロナウイルス禍」を理由にしている。要因として「無気力、不安」(51・8%)、「生活リズムの乱れ、あそび、非行」(11・4%)、「友人関係の問題」(9・2%)という順になっており、「不登校=いじめ」は正しくはない。
これらの「要因」とされるものは結果であって、原因ではない。
どの子もはじめから無気力や勉強嫌いな訳ではなく、そうなるにはそのプロセスがある。徐々に学校になじめなくなり、学力が低下し、やる気を失っていく。文科省の調査はそこに全く踏み込んでいない。
調査でも、不登校の小中学生のうち、学校内外で相談や指導を受けていない児童生徒は38・2%の11万4217人である。学校はもはや相談先ですらない。
こうした不登校対策として、2016年12月に義務教育の段階における教育機会の確保に関する法律(教育機会確保法)が施行された。
不登校特例校の設置を促し、民間のフリースクールを援助し、さらには「夜間中学」の設置を各県に1校以上開設することを促している。また従来からの施策で、「教育支援センター(適応指導教室)」や「スクーリング・サポート・ネットワーク整備事業(SSN)」などもある。
特に、不登校特例校は、少ない授業時間と、少人数(20人程度)教室で行う学校であり、「学びの多様化学校」という名称で設置拡大を促している。また、来春からは、小中学校の中に不登校児童生徒を対象とした「校内教育支援センター」の開設や高校生の遠隔授業による取得単位数の拡大を行うとしている。
多様な場の充実は、一見正論に見える。またそれを妨げる必要もないが、不登校の対策としてではなく、はじめから通常学級をそのように改変していけばよい。通常学級の変革が後回しになって、ついて行けない子どもは特別支援学級か不登校へという構図は残されたままだ。
★ 通信制高校生が増大
通信制高校生は、2020年度の20万7千人から23年度は23万8千人となっている。
全日制・定時制の高校生は減り続け2023年に300万人を割り込んだ。高校生の約8%が通信制に在籍していることになる。
戦後、働く若者たちの学びの場の役割を果たしてきた通信制高校は、現在多くは不登校生徒の受け皿となっているのだが、他方で自分の「夢」のために自由に学びたいというものも増えている。通常の高校がそうした願望を持つ子どもたちにとって不自由なものとなっているのである。
著名な脳科学者の茂木健一郎氏が校長をつとめ、校舎の設計は隈研吾氏という「屋久島おおぞら高校」(2005年、鹿児島県屋久島町に開校)は22年度に生徒数が1万人を超えた。
★ 変革すべきは通常学級
今、日本の教育政策は「個別最適な学び」と「協働的な学び」ということで、デジタルを活用した「個別最適な学び」と学校での集団による「協働的な学び」の2つがあるという。
そんなことはない。子どもたちは、周りの子どもたちの雰囲気や気力に押されて、学ぶのである。
個別にデジタル教材に向き合っても学びにはならない。デジタルなゲームですら「他者」の存在によって初めて成り立つ。
明治以来、日本の近代学校は拡大を続けてきた。これまでは性別、貧富、出自によって排除されてきた子どもたちを取り込むようになってきている。障害の有無もしかりである。世界的にも排除・分離から統合へ、そしてインクルーシブ(包摂、みんな一緒)へ移ろうとしている。
昨年9月の国連障害者権利委員会の対日勧告を拒否して、「分離教育」にこだわる文科省の姿勢が、特別支援学級・学校の増大を生み出し、「不登校児童生徒」の増大を生み出している。
通常学校・学級で学ぶ子どもたちの「範囲」をせばめ、排除の方向へ動いている。求められていることは通常学級を誰もがいていい、存在を否定しない学級へと作り変えることである。
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※屋久島おおそら高等学校
鹿児島県の屋久島にある私立の通信制高等学校である。在宅自習で必要な単位を習得。スクーリングは年1回、4泊5日で屋久島本校で行われる。指定サポート校が全国各地にある。(校舎は左の写真)
『週刊新社会』(2023年11月8日)
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