《リベルテ(東京・教育の自由裁判をすすめる会ニュース)から》
◆ それって変じゃない?人権センサーを研ぎ澄まそう
~斎藤講演を聞いて感じたことを少々~
今年の『学校に自由と人権を!10・22集会』の講演者、斎藤美奈子さんの肩書は「文芸評論家」ということらしい。
私は東京新聞などのコラムで、ウイットに富む言い回しで権力側をイジるエッセーを読むたびに、「そうそう!」と膝を打つことが何回もあった。それぐらいの「お付き合い」にすぎないが、ホンモノの彼女はどんな感じなんだろう、と興味津々で講演を聞いた。
◆ 軽妙な語りロとダークな内容
明るいタッチ、軽快な語り口は、期待通りだった。しかし、内容は、最近の世情を反映して、シリアスでダLクなものが多い。仕方のないこと。
それでも彼女の、前向きで、自分の思いを隠すことなく表現するそのストレートさが、講演全体を貫いていたと思う。
「世情を反映した」と先に書いたが、彼女が挙げた「世情」の事例は大きく以下の3つ。①ジャニーズ性虐待問題、②小池都知事の、朝鮮人追悼文送付拒否問題、③岸田内閣(の副大臣・政務官人事での)女性ゼロ問題、である。
その3つの事例に関する詳しい解説は省くが、「そこに共通して貫かれているものは何か?」と彼女は問いかけ、「それは人権問題です」と断言する。
そして「やさしさとか思いやりでは人権問題は解決しない」と喝破。さらに「人権主張は個人の権利であり、国がその人権を保護する義務がある」と続ける。
鋭い指摘であり、まさにこの辺りは、彼女の独壇場というべきだろう。
ジャニーズの件では、国連人権理事会が日本で記者会見を開き、それがジャニーズ問題をさらに表に押し上げた。しかし、理事会が発表している「ビジネスと人権に関する指導原則」は、ジャニーズ問題にとどまらず、①国家は人権を保護する義務がある、②企業も尊重義務がある、③被害者救済のためのアクセスが保障される、ことを強調している(と斎藤氏は説明)。
◆ 企業の人権意識は大変革したのか?
私がちょっと驚いたのは、斎藤氏が次のように述べたこと。「企業の人権意識は、グローバル化に伴って、大変革した」と。えっ?それって、良い方に大変革したっていうことでしょ?でもホントなの?「
人権デユー・デリジェンス(due diligence=DD)」と言うそうだが、様々なリスクをチェックして人権保護に向っているという。もちろん労働環境のリスクもチェックされる。労働時間とか、賃金の不足なども。
ただし、DDは本来、「買い手による、対象企業(事業)の実態を把握する事前調査」を意味しており、必ずしも労働者の側に立ったものではない(と私は思う)。しかし、そのDDの前に「人権」をつけたわけで、意味合いが変わっているのかもしれない。
それはそれとして、日本の現状を見れば、非正規労働者がどんどん増加し、低賃金で働かされ(東京の最低賃金がやっとのこと千円を超えた程度)、コロナなどの時には真っ先にポイ捨てされる、という事態は変わってないように思う。本当に人権意識が「大変革」したのだろうか?
話は飛ぶが、大阪万博の準備の遅れに対応するため、建設工事に携わる労働者を時間外労働規制から外すよう求める動きすらあるというのに。ちょっと質問してみればよかった、と思う点である。
◆ 会話の中でも人権感覚を発揮しよう
最後に彼女の「それってどうなの主義」が炸裂する。「ジヤニーズ問題は、ある意味BBCによる『外圧』で動き始めた。外圧だけでなく、我々の内部告発で動かそう」とアピールし、「人権センサーを磨き直そう」「小さなことでも口に出そう」と呼びかける。
たとえば、「子どもほったらかしてそんなことやってていいの?」と言われた時の対応として、「『あなたの言うことはおかしい。人権侵害だ』とストレートに反論するのもいいが、その対処の仕方には、様々なバリエーシヨンがある」と伝授。
「呆れた顔して、思いっきり『はあ?』と言い返すのも一つの方法だ」と。あと4つほど対応のバリエーシヨンを述べていたが、それは省略(笑)。
人権感覚を研ぎ澄ませ、「それはおかしい」と言える感覚と力を持つこと。そして個人レベルでなく、国家や権力を持つ者に対して、「人権を守るのはあなたの義務でしょ」と言い続け、単なる「やさしさとか思いやり」レベルで終わらせないことこそ、一人一人に求められているのかな、と感じた次第。
斎藤さん、これからも、鋭いウイットで、権力者を斬ってくださいね!
(加藤良雄)
『リベルテ(東京・教育の自由裁判をすすめる会ニュース) 71号』(2023年11月02日)
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