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東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

つぎはぎだらけで、子どもと親のニーズ置き去りの幼児教育保育無償化

2019年11月25日 | こども危機
  《教科書ネット21ニュースから》
 ◆ 幼児教育・保育無償化の裏にあるもの
石山久男(いしやまひさお 子どもと教科書全国ネット21代表委員)

 ◆ 幼児教育・保育の無償化とは
 10月から消費税引き上げ分を財源にすると称して幼児教育・保育の無償化が実施されます。まず、その内容を確認しておきましょう。
 (1)幼児教育・保育の認可施設としては、幼稚園・保育所・認定こども園・企業主導型保育の4類型がありますが、すべての3~5歳児と住民税非課税世帯の0~2歳児の利用料が無償になります。
 (2)認可外保育施設は、すべての3~5歳児が月額37,000円まで、住民税非課税世帯の0~2歳児が月額42,000円まで、5年間限定で無償になります。
 その5年の間に認可施設になるように努めることが建前です。ただし、各自治体の判断により無償化の対象外とすることができます。
 (3)食材料費実費(月額7,500円)を各施設が子ども全員から徴収します。ただし年収360万円未満世帯は主食費(3,000円)だけ徴収します。いままで保育料に含まれていた保育園も新規に徴収します。
 ◆ 無償化というが実は負担増も

 無償化とはいうものの、住民税課税世帯の場合、0~2歳児は有料のままです。
 その上、全世帯で食材料費が新たに徴収されます

 いままでは、所得段階別に食費も含む保育料が定められていましたから、所得の少ない方は少額の保育料ですんでいましたが、今後は食材料費は所得に関係なく一律に徴収されるので、中には負担が増える人も出てきます。
 それはかなり無理なので、自治体の負担で食材料費の全部または一部を無償にするところもあります。
 東京都の場合は、23区のうち18区は徴収額0になりましたが、多摩・島しょ地区では2市2町1村以外は4,500~7,500円を徴収します。
 ◆ 子どもを安心して預けられるの?

 最も大きな問題は、とくに保育施設の場合、子どもを安心して預けられる施設になるのかという問題です。
 子どもの安全と成長を保障するために、施設・設備の基準や、保育士さんが過重労働にならずにやりがいを持って保育の仕事にあたれるような保育士定数の基準が国で定められています。
 実はこれらの基準を守り保育の質を保障するための財源も措置もほとんど用意されていません
 また、無償化によってさらに需要が増える保育園の増設と待機児解消のための予算もほとんど見込まれていません
 その結果がどうなるか、次にいくつかの点を見ておきましょう。

 ◆ 法定基準が一応守られる公立公営保育園・幼稚園が激減へ

 実は2004年から公立保育園運営費の国庫負担が廃止され、それ以来、公立保育園は減少の一途をたどっています。
 待機児対策で保育園は増えていますが、ほとんどすべてが民間立保育園です。
 さらに今度の無償化で必要になる幼児教育・保育の費用負担は、私立園=国1/2・都道府県1/4・市区町村1/4、公立園=国0、都道府県0、市区町村全額、となっています。
 このため東京23区の財政負担は91億円増になります。政府は無償化という聞こえのいい宣伝をしながら、その費用負担は市区町村に押しつけたのです。
 これでは市区町村での公立園の運営は難しくなり、民営化がさらに急速に進み、公立保育園はますます狭き門になるでしょう。
 ◆ 民間立保育園で子どもの安全と成長のための基準はどうなる

 民間立の場合、その基準が守られるためには、行政の担当部署が実際に現場に立入調査を行って監督する必要があります。
 国は都道府県に対し、認可外保育施設に年1回以上立入調査をするよう求めていますが、2016年度の実施率は68%に過ぎず、しかもその半数弱が基準を満たしていなかったとのことです。
 東京都の実施率はもっと少なく、2017年度は21%でした。
 都全体で1722施設あるのに対し担当職員は18人しかいないとのことです。
 政府は職員を1入増やす費用を地方交付税で手当てするといいますが、焼け石に水でしょう。
 ◆ 株式会社立や企業主導型保育園の危うさ

 保育園を営利企業にしてはいけないという意味で、かつては保育園の設立運営の主体は公立または社会福祉法人立に限定されていました。
 ところが保育園も私企業の利益追求の場に開放するという政府の政策によって、2000年から株式会社立が認められ、2016年から待機児対策の一環として企業主導型保育所が新たに認められることになりました。
 これは企業が自社社員の子どもの保育が主目的ですが、一般の子どもも保育できるというものです。預けるにも福祉事務所を通さない自由契約です。
 それと並行して施設、定員、保育士の数などの規制緩和も進み、とくに企業主導型の場合は規制が緩く、職員のうち資格をもつ保育士は半数でよいことになっています。
 運営も不安定で、2016-17年度に国が助成した施設の約1割にあたる252施設が保育所事業をとりやめました。
 ◆ 保育士の過重労働、保育士不足も深刻

 この間、保育園は確かに増えています。その結果、いま保育士さんが足りないという大きな問題がおこっています。しかも保育士を退職する人も多くなっています。
 東京のある区で各保育園職員の平均勤続年数を調べ、設置主体別に分類したところ、公立では20~30年社会福祉法人立では10~20年株式会社立では2~5年という結果が出ました。
 なぜこんな違いがでるのでしょうか。
 すべてとはいいませんが、どうしても利益追求のため人件費や諸経費の削減に走らざるをえないので、過重労働になってしまう、その結果子どもとしっかり向き合ってやりがいのある保育ができない、子どもの安全が守られるかも心配、賃金が低いので生活できない、などのいろいろな理由で退職する人が多く出るのではないでしょうか。
 2018年の全産業平均賃金月額336,700円に対し、保育士は239,300円と10万円も差が出ています。
 退職者が出ればますます人手不足で過重労働になるという悪循環になっています。これでは安心して子どもを預けられませんね。
 ◆ さらに増える待機児対策をどうする

 幼児教育・保育の無償化が進めば、待機児童がさらに増えることが予想されます。
 どうしても国の予算を思い切って投入し、公立保育園、少なくとも社会福祉法人立の認可保育園を中心に急いで増設する必要があります。
 政府がいまアメリカから購入することになっているF35A戦闘機1機の価格116億円で、90人定員の保育園90か所が増設できます。
 安倍首相がトランプ大統領に約束した105機を全部やめれば、全国で9450か所造れることになります。
 そのさい保育士も多くの人数を確保しなければなりませんから、保育士の賃金・労働条件をせめて公立なみに改善することも欠かせません。
 ◆ 幼児教育保育はだれのため、なんのため

 幼児教育・保育の目的は、子どもの権利条約が定めるように、子どもの最善の利益を保障するためです。
 いいかえれば良い環境のもとで子どもが心身ともに成長発達することを幼児の段階にふさわしい形で保障することです。
 それが基礎となって青少年の段階、大人の段階での成長発達へつなげていかなくてはなりません。
 国家のため、企業のために幼児教育があるのではありません

 ◆ 安倍政権の幼児教育・保育無償化のねらい

 安倍政権のもとで新しく定められた小中高校学習指導要領では、教育の目的国家や企業のために奉仕し役立つ人材育成におこうとしています。
 同時に改められた保育指針・幼稚園教育要領には、幼児教育の目的・内容を小学校学習指導要領のねらいの実現につながる内容が盛り込まれました。
 たとえば、小学校入学前までに育ってほしい10の姿という名で、小学校の道徳科につながる道徳的内容が定められました。また、国旗・国歌に親しむということも盛り込まれました。
 幼児の姿から出発するのではなく、国家が定めた教育目的という枠に幼児教育もはめこもうとしているのです。
 無償化をテコに幼児教育を準義務教育化し、幼児から小中高校大学まで国家と企業のための教育という一本の筋を通そうというわけです。
 安倍政権の幼児教育無償化政策にはそんなねらいもあると見なければなりません。
 実はいま自民党が出している改憲案には、教育に関する憲法26条改憲も含まれていますが、そこには、教育は国家のためのものという趣旨が強くもりこまれていることにも洪目しましょう。
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 128号』(2019年10月)

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