《「子どもと教科書全国ネット21ニュース」から》
◆ 英語教科書が難しい!
~小学校・中学校での混乱と二極化の中で
◆ シャワーのように浴びるだけでは
外国語活動がこの春始まった、小学校3年生ですが、新たな学習に好奇心をもって学んでいるようですが、一方で、英語に「困っている、難しい」と思う子どもたちもいます。
○ 問題を英語ばかりで言われるとわかりにくい
○ 何を言っているのか、何を言いたいのかがわからないことがあるのでわかるようにしたい
担任の先生は、「まだまだ規則性をつかんだり物事の背景を推測したりすることが難しい発達段階の3年生にとっては、ただ英語が『シャワーのように降ってくる』のでは理解できず、モヤモヤ感がつのるようです」と見ています。
このような状態が続けば、英語嫌いが生まれても不思議はありません。
◆ 小学校の英語教科書の課題
英語に「慣れる、親しむ、楽しむ」ことが目標である小学校の授業では、文字の読み書きは十分な時間をかけられてきませんでした。
その中で、必然的にリスニングによる活動が多く、難しいと感じている子どもたちも多いようです。
中学校の教師から見ると、新出単語や基本文がどれだか一見してわかりづらく、プロジェクト中心なので、定着、積み上げ感が薄く、応用につながらないのではないかという懸念があります。
◆ 小中接続時~スタートラインそろえる~
中学入学時にすでに「英語は苦手です」「英語は嫌い」という一方で、学校外で英語を学んできて、高い到達度にある生徒にとっては、アルフアベットから始まる中学英語の入門期に気持ちが乗らないという様子もしばしばみられます。
1つの教室の中に、さまざまな到達度と意欲をもつ生徒が混在しているのです。
そこで中学1年生を担当する教師は、「どの生徒も楽しく参加でき、わかる、意味のあると感じられる」授業づくりに取り組んでいます。
一緒に学ぶ姿勢や知識、スキルを身につけさせ、スタートラインを整えようと奮闘しているのです。
◆ その上、新中学教科書が難しい!
6年生の時にコロナ禍で、発声や、ペア、グループ活動が制限される中で学んできた子どもたちが中学に入り、今度は、ずっしりと重たく感じる新教科書で学んでいます。
物理的に分量が増えているだけではなく、この新教科書を使う先生や生徒たちが、追い立てられ、難しいと感じているのは、主に次の3点です。
それは、語彙数(単語やフレーズ)の大幅な増加、文法事項の高度化、文法事項の増加でひきおこされる進行スピードの速さです。
◆ 大幅に増えた語彙数
これまでは中学校3年間で1200語の新出単語が、新学習指導要領では、1600~1800語に増えました。
小学校「英語科」では600語を学ぶことになっており、この600語は中学新教科書では、既出語として扱われるので、ほぼ倍増したことになります。
ただ、この2000語を超える単語をすべて読み書きできるようになることは求めず、発信語彙(話したり、書いたりする際に使う語)と受容語彙(読んだり、聞いたりして理解できる語)に分けて、発信語彙を太字で示しています。
しかし、教師が語句を精選して提示し、小テストやスペリングコンテストなどの手立てをしても、「工夫をするにも限度があり、英語嫌いを増やす恐れがある」という現場からの声があります。
◆ 高校から降りてきた文法事項
今回の指導要領では、新たに現在完了進行形、仮定法、原形不定詞(help 人 do)など、これまで高校で教えられてきた文法事項が中3の教科書に登場しました。
そこで、高校の先生に仮定法の導入方法や、良い例文、自己表現活動に適したテーマなどを学ぶワークショップを開いたこともありました。
また中2には「It is_for A to~、make OC,疑問詞+to do,現在完了」が中3から降りてきました。
どうわかりやすく教えるかが課題です。
◆ 1パートに複数の新出文法事項
文法事項の量が増えていますが、英語の時間数(週4時聞)は変わっていません。そして、1レッスンにいくつもの文法事項が詰め込まれているのも、困難さを倍加させる要因になっています。
中1の文法事項がどのような順番で、どの時期に出てくるかを調査したレポート(東京新英研2月例会2021)によると、NEW CROWN(三省堂)では、Lesson1のパート1に、Be動詞と一般動詞が同時に出てきて、パート2に両方の疑問文が、パート3に両方の否定文が出てきます。
これまではLesson3までかけて教えてきた分量です。
また、New Horizon(東京書籍)では、Unit Ⅰで、Be動詞、一般動詞、canが出てきます。
小学校で主に口頭で学び、自己紹介などの発表活動の中で、決まり文句のように学んできた文の構造を初めて中学校で学ぶわけです。
本来は、理解し、活用できるまで、じっくり時間をかけるべきで、これが3年間の学習の土台となります。
もし、1ページに複数提示されている文法事項を一度に教えようとすれば、説明をするだけでも時間がとられ、定着のための活動や、自己表現活動の中で使ってみる経験もなければ、あっという間に「英語をあきらめる」生徒が出てくることになります。
これまでは、1年生であれば、三単現のSをどう乗り越えるかが最初の壁であったのが、レッスン1から複数の文法事項が詰め込まれ、混乱することも考えられます。
大変なのは、1年生だけではありません。新2年生、3年生は、前の学年ですでに習ったとされる文法事項も未修のため、教師も生徒もいつも時間に追われて、その中で、これまでにもまして、授業についていけない生徒を出さないような授業づくりが求められ、まさにギリギリの状態で勤務をしているのが、英語教師の現状です。
◆ それでも楽しい授業をすべての子どもに
新教科書と格闘し、さらに一人一台のタブレットの活用が求められていることに加え、次年度の高校入試には課題の多いスピーキングテストが導入されようとしています。
誠実に努力しようとすれば、教師の持ち帰り仕事はさらに増え、誰も取り残さず、よくわかる授業がしたい、という教師の願いは、悲鳴のようにさえ聞こえます。
先生にゆとりがなくなれば、最終的に影響を受けるのは生徒です。
塾通いは圧倒的に増え、家庭の経済状況の差が、意欲、学力の差になることも考えられます。
誰もが楽しめて、自分を表現する手立てとして、世界の状況を知り、学びの主人公となるような外国語、英語の授業を求めて、学び続け、持ちこたえるには、教師のための学びのネットワークが必要です。
そして、1980年代、英語が週3時間であった頃の教師たちのように、教科書を批判的、創造的に扱うことが再び、求められています。
今、私たちも、現場の教員と教育関係者とが協力し、教科書分析を進め、批判的、創造的な扱い方をチームで探っていくことが必要ではないでしょうか。
今後も、社会状況を学び、理不尽な政策には意見表明し、学びのネットワークを広げていきたいと思います。
他教科の方、教育関係者、保護者、市民の方たちにも問題を共有し、共に声を.ヒげていただければ幸いです。
<参考文献>
『子どもがもとめる外国語活動~小学校3年生のきもち』村田紀代美「新英語教育」(高文研)2021年10月号
「よくわかる英語教科書の教え方」(三友社)新英研中央常任委員会編1983年
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 141号』(2021.12)
◆ 英語教科書が難しい!
~小学校・中学校での混乱と二極化の中で
柏村みね子(かしむら・みねこ 新英語教育研究会東京支部)
◆ シャワーのように浴びるだけでは
外国語活動がこの春始まった、小学校3年生ですが、新たな学習に好奇心をもって学んでいるようですが、一方で、英語に「困っている、難しい」と思う子どもたちもいます。
○ 問題を英語ばかりで言われるとわかりにくい
○ 何を言っているのか、何を言いたいのかがわからないことがあるのでわかるようにしたい
担任の先生は、「まだまだ規則性をつかんだり物事の背景を推測したりすることが難しい発達段階の3年生にとっては、ただ英語が『シャワーのように降ってくる』のでは理解できず、モヤモヤ感がつのるようです」と見ています。
このような状態が続けば、英語嫌いが生まれても不思議はありません。
◆ 小学校の英語教科書の課題
英語に「慣れる、親しむ、楽しむ」ことが目標である小学校の授業では、文字の読み書きは十分な時間をかけられてきませんでした。
その中で、必然的にリスニングによる活動が多く、難しいと感じている子どもたちも多いようです。
中学校の教師から見ると、新出単語や基本文がどれだか一見してわかりづらく、プロジェクト中心なので、定着、積み上げ感が薄く、応用につながらないのではないかという懸念があります。
◆ 小中接続時~スタートラインそろえる~
中学入学時にすでに「英語は苦手です」「英語は嫌い」という一方で、学校外で英語を学んできて、高い到達度にある生徒にとっては、アルフアベットから始まる中学英語の入門期に気持ちが乗らないという様子もしばしばみられます。
1つの教室の中に、さまざまな到達度と意欲をもつ生徒が混在しているのです。
そこで中学1年生を担当する教師は、「どの生徒も楽しく参加でき、わかる、意味のあると感じられる」授業づくりに取り組んでいます。
一緒に学ぶ姿勢や知識、スキルを身につけさせ、スタートラインを整えようと奮闘しているのです。
◆ その上、新中学教科書が難しい!
6年生の時にコロナ禍で、発声や、ペア、グループ活動が制限される中で学んできた子どもたちが中学に入り、今度は、ずっしりと重たく感じる新教科書で学んでいます。
物理的に分量が増えているだけではなく、この新教科書を使う先生や生徒たちが、追い立てられ、難しいと感じているのは、主に次の3点です。
それは、語彙数(単語やフレーズ)の大幅な増加、文法事項の高度化、文法事項の増加でひきおこされる進行スピードの速さです。
◆ 大幅に増えた語彙数
これまでは中学校3年間で1200語の新出単語が、新学習指導要領では、1600~1800語に増えました。
小学校「英語科」では600語を学ぶことになっており、この600語は中学新教科書では、既出語として扱われるので、ほぼ倍増したことになります。
ただ、この2000語を超える単語をすべて読み書きできるようになることは求めず、発信語彙(話したり、書いたりする際に使う語)と受容語彙(読んだり、聞いたりして理解できる語)に分けて、発信語彙を太字で示しています。
しかし、教師が語句を精選して提示し、小テストやスペリングコンテストなどの手立てをしても、「工夫をするにも限度があり、英語嫌いを増やす恐れがある」という現場からの声があります。
◆ 高校から降りてきた文法事項
今回の指導要領では、新たに現在完了進行形、仮定法、原形不定詞(help 人 do)など、これまで高校で教えられてきた文法事項が中3の教科書に登場しました。
そこで、高校の先生に仮定法の導入方法や、良い例文、自己表現活動に適したテーマなどを学ぶワークショップを開いたこともありました。
また中2には「It is_for A to~、make OC,疑問詞+to do,現在完了」が中3から降りてきました。
どうわかりやすく教えるかが課題です。
◆ 1パートに複数の新出文法事項
文法事項の量が増えていますが、英語の時間数(週4時聞)は変わっていません。そして、1レッスンにいくつもの文法事項が詰め込まれているのも、困難さを倍加させる要因になっています。
中1の文法事項がどのような順番で、どの時期に出てくるかを調査したレポート(東京新英研2月例会2021)によると、NEW CROWN(三省堂)では、Lesson1のパート1に、Be動詞と一般動詞が同時に出てきて、パート2に両方の疑問文が、パート3に両方の否定文が出てきます。
これまではLesson3までかけて教えてきた分量です。
また、New Horizon(東京書籍)では、Unit Ⅰで、Be動詞、一般動詞、canが出てきます。
小学校で主に口頭で学び、自己紹介などの発表活動の中で、決まり文句のように学んできた文の構造を初めて中学校で学ぶわけです。
本来は、理解し、活用できるまで、じっくり時間をかけるべきで、これが3年間の学習の土台となります。
もし、1ページに複数提示されている文法事項を一度に教えようとすれば、説明をするだけでも時間がとられ、定着のための活動や、自己表現活動の中で使ってみる経験もなければ、あっという間に「英語をあきらめる」生徒が出てくることになります。
これまでは、1年生であれば、三単現のSをどう乗り越えるかが最初の壁であったのが、レッスン1から複数の文法事項が詰め込まれ、混乱することも考えられます。
大変なのは、1年生だけではありません。新2年生、3年生は、前の学年ですでに習ったとされる文法事項も未修のため、教師も生徒もいつも時間に追われて、その中で、これまでにもまして、授業についていけない生徒を出さないような授業づくりが求められ、まさにギリギリの状態で勤務をしているのが、英語教師の現状です。
◆ それでも楽しい授業をすべての子どもに
新教科書と格闘し、さらに一人一台のタブレットの活用が求められていることに加え、次年度の高校入試には課題の多いスピーキングテストが導入されようとしています。
誠実に努力しようとすれば、教師の持ち帰り仕事はさらに増え、誰も取り残さず、よくわかる授業がしたい、という教師の願いは、悲鳴のようにさえ聞こえます。
先生にゆとりがなくなれば、最終的に影響を受けるのは生徒です。
塾通いは圧倒的に増え、家庭の経済状況の差が、意欲、学力の差になることも考えられます。
誰もが楽しめて、自分を表現する手立てとして、世界の状況を知り、学びの主人公となるような外国語、英語の授業を求めて、学び続け、持ちこたえるには、教師のための学びのネットワークが必要です。
そして、1980年代、英語が週3時間であった頃の教師たちのように、教科書を批判的、創造的に扱うことが再び、求められています。
①教科書内容を批判的に扱う、といった工夫がなされていました。
②不十分な教材内容には英文を付け加える、
③学ぶ価値が低い教材はすっとばす(カットする)
④教科書英文を改作する、そして、自主教材を投げ入れたり、自己表現活動を活発に行う、
今、私たちも、現場の教員と教育関係者とが協力し、教科書分析を進め、批判的、創造的な扱い方をチームで探っていくことが必要ではないでしょうか。
今後も、社会状況を学び、理不尽な政策には意見表明し、学びのネットワークを広げていきたいと思います。
他教科の方、教育関係者、保護者、市民の方たちにも問題を共有し、共に声を.ヒげていただければ幸いです。
<参考文献>
『子どもがもとめる外国語活動~小学校3年生のきもち』村田紀代美「新英語教育」(高文研)2021年10月号
「よくわかる英語教科書の教え方」(三友社)新英研中央常任委員会編1983年
『子どもと教科書全国ネット21ニュース 141号』(2021.12)
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