パワー・トゥ・ザ・ピープル!!アーカイブ

東京都の元「藤田先生を応援する会」有志によるブログ(2004年11月~2022年6月)のアーカイブ+αです。

コロナ禍の下での都立高校卒業式、主役はやはり生徒より国旗国歌

2020年04月29日 | 暴走する都教委
 ◆ 都立学校卒業式
   飛沫感染防止より“君が代”執着の都教委
(月刊『紙の爆弾』)
取材・文 永野厚男


都教委が都立高校校長らに提出を求めた、入学式用の“国旗掲揚・国歌斉唱”の調査用紙
~民主主義国で行政がこんな調査、やっている国はないはず

 東京都教育委員会は3月26日の定例会で、「都教育委員会は、子供たちの命と健康を守り、新型コロナウイルスの感染リスクにあらかじめ備える観点から、国の要請も踏まえ、3月2日から春休みまでの間、(略)一斉休校としたところです」で始まり、「今後とも(略)学校の円滑な再開及び再開後における子供たちの安全・安心の確保に向け、対策に万全を期してまいります」で終わる、〝保護者宛メッセージ〟を議決、公表した。
 このメッセージは「子供たち」の「命・健康・安全・安心」等の語句を四回繰り返し、〝都教委がとても子ども思いである〟かのように、保護者・都民に印象付けようとしている
 だが、都教委指導企画課が2月28日に発出した二通の事務連絡(後述)を入手していた筆者は、このメッセージを見た瞬間、「都教委の正体は、児童・生徒の卒業を祝うのとは無関係の、天皇の治世の永続を願う歌〝君が代〟を強制し、その実施調査まで学校に押し付ける国家主義的な施策の方を、児童・生徒の『命・健康…』(コロナ感染防止)よりも大切だと考えている恐ろしい組織なのに。偽善的だ」と思った。
 ◆ 二十年来の都教委の〝君が代〟への執着

 2003年10月、都教委の当時の教育長・横山洋吉(ようきち)氏は「入学式、卒業式等の実施に当たっては、別紙のとおり行うものとすること。教職員が本通達に基づく校長の職務命令に従わない場合は、服務上の責任を問われる(注、地方公務員法第29条により懲戒処分にする意)ことを、教職員に周知すること」と恫喝したうえで、〝別紙〟で「国旗は、式典会場の舞台壇上正面に掲揚する。式典会場において、教職員は、会場の指定された席で国旗に向かって起立し(注、児童・生徒に尻を向ける意)、国歌を斉唱する。国歌斉唱は、ピアノ伴奏等により行う」等盛った、第二次の「10・23通達」を発出した(これに反対する日弁連等、弁護士会や教育学者・教職員・保護者らの声明・意見書・要請は枚挙に暇(いとま)がない。なお通達は「上級行政機関が下級行政機関に対し命令・示達する」意で、通知より強制力大)。
 この通達は1999年8月成立の国旗国歌法を受けた、同年10月の中島元彦都教育長名の第一次通達による〝君が代〟強制を、一層強化したものだ。
 都教委の〝君が代〟強制は教職員だけでなく、生徒にも牙(きば)を(む)いている。
 都教委の〝君が代〟強制はおかしいと考える都立高校生が不起立を貫いたのを敵視した、自民党の古賀俊昭都議(日本会議系・日本教育再生機構の06年の設立時の発起人。3月、72歳で死去)は、15年12月8日の都議会本会議で「改めて生徒への適正指導を通達として出すべきだと考える」と質問。
 これに横山氏の後継の教育長、中村正彦氏は「生徒を適正に指導する旨の通達を速やかに発出いたします」と答弁し、16年3月13日、「一部の都立高定時制の卒業式で、国歌斉唱時に学級の生徒の大半が起立しないという事態が発生した」のを口実に、「校長は自らの権限と責任において、学習指導要領に基づき適正に児童・生徒を指導する(注、起立し〝君が代〟を斉唱させる意)ことを、教職員に徹底する」よう強制する第三次の通達まで発出してしまった(これにも大学教授らが反対アピールを出し、54校もの都立高校保護者・卒業生有志が抗議・撤回を求める申入れを都教委に出している)。
 通達以外でも都教委の〝君が代〟へのこだわりやしつこさは凄(すさ)まじい。
 その一例が、04年春までの〝君が代〟不起立等で懲戒処分にされた、都立学校教職員らの2件の処分取消し訴訟で、最高裁が12年1月16日、戒告は容認しつつも、教諭2人への減給処分「重きに失し社会観念上著しく妥当を欠き、裁量権の範囲を超え違法」と判じ、都教委に取消しを命じる教職員側一部勝訴判決を出した時の、都教委の反発ぶりだ。
 判決を受け都教委は一週間後の1月24日、臨時会を招集し、「児童・生徒一人一人に、(略)自国の一員としての自覚をもたせることが必要である。また国家の象徴である国旗及び国歌に対して、正しい認識をもたせるとともに、(略)それらを尊重する態度を育てることが大切である。(略)都教育委員会は(略)各学校の入学式、卒業式等における国旗掲揚及び国歌斉唱が適正に実施されるよう、万全を期していく。都教育委員会は、委員総意の下、以上のことを確認した」(下線は筆者)と〝議決〟し、都立学校校長宛、通知している。
 都教委の〝君が代〟強制は、この下線部から、児童・生徒・教職員の思想・良心・表現の自由(日本国憲法第19・20・21条)を侵害し、国家主義イデオロギーを押し付けているのは明白だし、かつ、「個人の尊重」を規定した憲法第13条、「個人の尊厳を重んじ」「個人の価値を尊重して」と規定した教育基本法の前文と第2条2号(OECDの「学びの羅針盤」2030も、「地球全体のwell-being、即ち全ての人々が個人的・社会的に健やかに生きること、幸福が最終的に目指すべき目標だ」としている)にも真っ向違反している。
 また、前記都議会での中村氏と古賀氏とのエール交換ぶりや、前記・横山氏が05年5月、自民党宮崎県連と熊本県連が主催した〝新しい歴史教科書をつくる会系教科書〟の採択推進集会等に、基調報告者やパネルディスカッションの一員として登壇した、地方公務員トップとしての政治的中立性を疑わせる行為から、都教委の〝君が代〟強制は教育とは無縁な政治色の濃い施策だ、と断言できる。
 ◆ 生徒の命・安全より〝君が代〟優先

 東京で新型コロナ感染者が増えてきた2月26日、都教委の藤田裕司教育長「新型コロナウイルス感染症に関する学校における対応について」と題する通知を出し、3月の卒業式は保護者・来賓の参加を禁じ、卒業生(全日制は3年生、定時制は4年生)と式に関係する在校生のみの参加とし、「時間短縮」を求め、祝電披露も禁じた(掲示のみ)。
 この2日後の28日10時32分、指導企画課の小寺(こでら)康裕課長、桐井裕美(きりいひろみ)主任指導主事、金澤剛志統括指導主事らは、都立学校長宛「卒業式における国旗・国歌に関する調査の実施について」と題する1通目の事務連絡を出した(区市町村教委宛は10時37分)。
 この1通目は、多忙化する学校に小寺・桐井両氏らが未だに強制している、詳細な〝国旗・国歌〟調査の用紙に、「◆例1」として、「各教室で放送等を活用して式を実施したため、国旗を掲揚できなかった場合」は、「オ 式典会場内掲揚せず」「ノ 演台を設置せずに実施」と回答するよう指示。
 次に「◆例2」として、「飛沫感染を防ぐため、国歌を含め全ての式歌の斉唱や合唱を行わな」い場合は、「ス 斉唱せずメロディも流さず」と回答し、「(7)教職員の状況」(注、不起立者の炙(あぶ)り出し)は空欄にせよ、と指示。
 そして「本年度に限り、上記回答を不適切な状況(注、処分対象とする意)として取り扱わない」と明記している。
 要するに、「体育館で一斉」でなく分散実施の場合は、日の丸・〝君が代〟なしも可、という指示だ。
 ところが、小寺・桐井両氏らはこの約3時間後の13時38分、「先ほど、当課から(略)本年度の調査の回答例等を示したところですが(略)現時点で、都立学校における卒業式の国旗国歌の取扱いについては、『国旗掲揚の下に、体育館で実施する。』『国歌斉唱を行う。』という方針に変更はありません。説明不足であったことをお詫び申し上げます。御理解を賜りますようお願い申し上げます」などと傍線まで付して明記した、2通目の事務連絡を出した。
 だが1通目ですでに「なお、体育館で実施しながら国旗掲揚を行わない事例や、校歌や他の式歌を斉唱(合唱)しながら国歌斉唱を行わない事例等は、不適切な事例に該当します」とダメ押ししている。
 これに対し、70歳代の都立高校元教諭は「都教委は生徒のための式でなく、国家権力のための式と考えている。本末転倒だ」と厳しく批判している。
 百歩譲って〝国旗・国歌〟推進の立場になってみても、2通目は不要のはずだ。教員出身で50歳代の小寺・桐井氏らは、〝調査もの〟が学校多忙化の大きい要因であり、働き方改革で削減するべきなのは熟知しているはずだからだ。
 以上の事実を踏まえ、2通の事務連絡を出した経緯・理由を、研究者ら都民が都教委に情報開示請求すると、桐井氏は金澤氏を伴い3月31日、都庁内で面会に現れた。桐井氏が面会とメールで説明した要旨は次の通り。
 ①1通目の発出理由は、発出数日前から複数の区市町村教委から、「コロナ感染防止のため例年と異なる方法での卒業式実施を検討しているが、毎年実施の国旗・国歌調査にどう回答すればよいか」と問合せがあったから。
 ②1通目の内容は、発出日時点で区市町村立校(主に小中)の卒業式は、児童生徒・学校の実態により様々な形態での実施が検討され、また都立学校(高校・特支)の式は、発出日以降のコロナ感染拡大等により実施方法の変更も想定され、生徒等の安全・健康確保のため飛沫感染防止で、国歌を含め全式歌の斉唱・合唱を行わないこともあり得、そうした場合の調査への回答の仕方を例示したもの。
 ただ都教委は「卒業式は指導要領と通達がベース」と考えており、国旗・国歌のない卒業式を推奨しているわけではない
 ③1通目発出後、複数の都立学校校長から電話で「国歌を含めた全式歌の斉唱・合唱を行なわない式は、指導要領に基づいたものでなくなるが、よいか」との質問を受け、誤解を生じていると気付いた。このため2月26日付藤田教育長名通知の「1 令和元年度卒業式の実施」の(2)に「実施要項等は、変更した内容に合わせて修正する」とある、その趣旨を改めて正しく伝える目的で、都立校に対してのみ改めて、1通目の見解を変える内容のものではないという2通目を発出した。
 ④(1通目発出~2通目の間に政治家等から介入はないか、と問うと)一切、ない。

 これら桐井氏からの説明を受け、都民側は4月3日、桐井氏宛3点、メールで追加質問した。
 2通目で「体育館で〝国旗掲揚・国歌斉唱〟を」という箇所に傍線を施したのは、教室での分散型は〝お勧め〟でなく、「飛沫感染のリスクはあっても、体育館で国旗・国歌やらなきゃ」と、校長を誘導する意図はないか。
 「1通目が誤解を生じているから2通目を発出」というなら、2通目は、「体育館で〝国旗掲揚・国歌斉唱〟を」という記述だけでなく、「飛沫感染防止のため、国歌を含め全式歌の中止もあり得る」等、併記するべきではないか。
 で併記しないなら、「都教委は、児童・生徒の生命(飛沫感染防止)よりも、〝君が代〟の方を大事に考えている。人命軽視だ」と批判されても、致し方ないのではないか?
 だが文書回答はなく、都民側が4月16日と21日に電話すると、桐井氏は「広報統計課(4月に教育情報課から名称変更)を通してしか回答できない」と、電話回答は拒否した。
 ところで3月19日、「被処分者の会」の現・元教職員ら32人が都教委に行なった「卒業式の〝君が代〟強制と処分をするな要請行動」で、教職員側は「2通目は朝令暮改だ。コロナは接触感染と飛沫感染で罹患(りかん)する。接触感染を防ぐのが、放送等を活用した各教室での分散実施だ。〝君が代〟斉唱中止は飛沫感染を防ぎ生命を守る意義があるはず」などと追及したが、中西正樹教育情報課長(当時。現・指導部管理課長)は「所管課に伝える」と回答するに留まった
 なお、文科省の〝君が代〟への異常なこだわりは、教職員らが3月1日、千代田区内で開催した「日の丸・君が代 ILO/ユネスコ勧告実施市民会議発足集会」で、以下の通り暴き出された。
 社民党の吉川元(はじめ)衆院議員が「2月、議員会館での、立憲・国民・社民など野党共同会派の文部科学部会で、新型コロナ・ウイルス対策で、卒業式の時間短縮や規模縮小が要請されている点について、出席者が文科省に質問したところ、初等中等教育局の担当者が、校長の式辞は紙で配布して省略することは可能だが、〝君が代〟斉唱は学習指導要領で指導対象になっているから、省略は困難と平然と答えていた」という事実を紹介した。
 そのうえで、「日の君の強制は、思想・信条・良心の自由を明確に侵すものです。これまでの皆さんのご努力に敬意を表すと共に、勧告が実現されるよう、私も微力ながら奮闘して参ります」という激励のメッセージを、この集会に寄せている。
 ◆ 小池都知事の選挙の事前運動に

 10・23通達発出後、都教委は〝祝意〟を表すると称し、〝君が代〟監視を兼ね、全都立高校の卒業式に〝幹部職員〟を派遣。
 壇上正面の日の丸に何度も敬礼し、直立不動・大声で〝君が代〟を歌う姿を生徒・保護者らに見せ付けたうえで、「各校の特色ある教育活動を校長らに記入させる70字~120字以外は、全校同一の挨拶文」を読み上げさせてきた。
 また都教委は19年3・4月の卒業・入学式で初めて、小池百合子都知事の「お祝いのメッセージ」を、祝電披露の冒頭、副校長に読み上げさせたうえ、「生徒・参列者が見やすい場所」に掲示までさせた。
 今回の卒業式は前述通りコロナ対策で、都教委が卒業生と、送辞を読む等最小限の在校生以外の参列を禁じたため、〝幹部職員〟派遣はなく、都教委挨拶文と小池氏メッセージの読み上げもなかった。
 だが、前記藤田教育長は2月25日付通知で、都教委挨拶文と小池氏メッセージの二種「校内に掲示するとともに、卒業生に配布する」よう指示。
 筆者が13校の教職員・保護者に取材すると、12校は都教委の指示・命令通り、2種を掲示に加え増プリまでし、卒業生全員に配布してしまった。だが、中身が無味乾燥だったり、五輪大会の宣伝等政治色が濃かったりするため、多くの生徒はそれらを教室のリサイクルボックスやゴミ箱に捨てて行ったという。
 ただ、1校の校長が2種ともA4判の掲示に留め、配布はしなかったという情報もあり、都教委支配下の管理統制型卒業式に、ささやかな抵抗をしたと言える。
 なお18歳選挙権になり、19年夏の参院選挙で投票に行った生徒が少なからずおり、7月の都知事選では全員が有権者となることから、「校内での小池氏メッセージの配布は、政治的中立性に反するし、選挙の事前運動になるのでないか」と批判する保護者もいる。
 最後に今春の入学式は、新型コロナウイルス特措法に基づく緊急事態宣言による5月6日までの休校措置により、都立学校では未実施だ。
 藤田教育長が4月1日に出した「都立学校の休業の措置等について」と題する通知は、「3 臨時休業中の教育活動について」の「(1)高等学校・中等教育学校・附属中学校」の「イ 入学式」で、「各学校が予定した日程で、来賓や保護者を招待せず実施する。内容は入学許可、校長式辞、新入生代表の言葉とし、国歌斉唱を含め歌の斉唱は行わないと記述。さすがの都教委も感染者急増の状況下、飛沫感染の元凶の〝君が代〟は断念したようだ。
 ※ 永野厚男(ながのあつお)
 文科省・各教委等の行政や、衆参・地方議会の文教関係の委員会、教育裁判、保守系団体の動向などを取材。平和団体や参院議員会館集会等で講演。
月刊『紙の爆弾』(鹿砦社)2020年6月号

コメント    この記事についてブログを書く
« 官邸官僚は市民を見くびって... | トップ | 疑惑の「ユースビオ」社につ... »
最新の画像もっと見る

コメントを投稿

暴走する都教委」カテゴリの最新記事