白玉の歯にしみとほる秋の夜の
酒はしづかに飲むべかりけり 若山牧水
酒のうまい季節がやってきた
搾りたての生酒 歯にしみとほる
レイ・ブラッドベリが昨日亡くなった 火星年代記は本当にエッセイのような短編の寄せ集めだけど、通して読むと火星における人類の興亡が胸をよぎる名作だ
SFは小学生の頃から好きでよく読んだ ブラッドベリ、アシモフ、レム、ハイライン、ニーブンそしてクラーク 中でも一番好きな作家だったアーサー・C・クラークも2008年にスリランカで亡くなっている
開高腱も、北杜夫も遠藤周作も小松左京も星新一も死んだ まだ死なずに頑張っているのは、野坂昭如くらいだ
自分が青春時代に影響を受けた作家が次々と死ぬと、やっぱり、自分も年をとったんだなあと思う
ブータンは6月5日から雨季(モンスーン)に入ったようだ
ちょうど今、山に日が沈もうとしています。今日は実に気分が良いので、これから旨い酒を頂くこととします。 李白先生に乾杯
落日欲沒硯山西 落日沒せんと欲す硯山の西
倒著接離花下迷 倒(さかし)まに接離を著けて花下に迷ふ
襄陽小兒齊拍手 襄陽の小兒齊しく手を拍ち
遮街爭唱白銅堤 街を遮(さへぎ)って爭ひ唱ふ白銅堤
傍人借問笑何事 傍人借問す 何事をか笑ふと
笑殺山翁醉似泥 笑殺す 山翁醉ひて泥に似たるを
落日が硯山の西に沈もうというころ、白鷺の羽で飾った帽子を逆さにかぶり花の下を迷い歩く、すると襄陽の小兒が一斉に手をたたいて、行く手をさえぎり争って白銅?の歌を歌う、傍らの人がワケを聞くと子どもらはいう、李白先生は酔っ払って泥のようだと
織田信長は敦盛を人間50年といって舞い、49歳で明智光秀に殺されたが、早その歳を越してしまった。今、プンツオリンは冬から急激に春そして夏に移ろうとしてるようだ。 外は随分艶かしい風と猫の声が囂しい。30年は長いようで短い。こんな春の夜は酒を飲むしか無い
千金駿馬換小妾 千金の駿馬を若き妾に換へ
笑坐雕鞍歌落梅 笑って雕鞍に坐して落梅を歌はん
車傍側挂一壺酒 車傍に側(かたむ)け挂(か)く一壺の酒
鳳笙龍管行相摧 鳳笙 龍管 行くゆく相ひ摧す
咸陽市中歎黄犬 咸陽の市中に黄犬を歎くは
何如月下傾金罍 何ぞ如かん 月下に金罍を傾くるに
李白が求めたのは仙境だろうかそれとも酒か、此処に彼の有名な二首を掲げる (因みに李白の様にかなり酔っ払っています...)
早発白帝城
朝辞白帝彩雲間
千里江陵一日還
両岸猿声啼不住
軽舟已過万重山
早に白帝城を発す
朝に辞す白帝彩雲の間
千里の江陵一日にして還る
両岸の猿声啼いて住(や)まざるに
軽舟已に過ぐ万重の山
このスピード感はどうだ、 千里の江陵一日にして還る...
次はこれだ、
峨眉山月半輪秋
影入平羌江水流
夜發清溪向三峽
思君不見下渝州
峨眉山月半輪の秋
影は平羌江水に入って流る
夜 清溪を發して三峽に向ふ
君を思へども見えず渝州に下る
思君不見下渝州
君は愛しの君か、或いはあの空に架かる月か...
李白は全く素晴らしい
李白は無類の酒好きだったらしく、こんな詩を残している。
兩人對酌山花開
一杯一杯復一杯
我醉欲眠卿且去
明朝有意抱琴來
両人対酌すれば山花開く
一杯一杯また一杯
我酔うて眠らんと欲す卿且く去れ
明朝意あらば琴を抱いて来たれ
良い酒である、酒はこの様に飲みたいものだ。
李白の酒にまつわる逸話は多い。強かに酔っているとき玄宗に呼ばれ、宦官に支えられて墨をすり、筆をとって考えるや否や十篇たちどころに書き上げ、加筆するところなく筆跡は優れ鳳の舞い竜の踊る勢いであったという。また、酔っ払って宦官の実力者、高力士に靴を脱がせたという逸話も残っている。
しかし、皇帝の前で酔っ払うのは、いかに唐の時代でもまずい。玄宗は気にせず三度李白を官に命ぜんと欲するも、卒に宮中のとどむる所と為りて止む、とある。このような事が繰り返されるにつけ宮中での風当たりは強くなり、結局下野することになる。
この時期、李白は日本から遣唐使で来ていた阿倍仲麻呂とも交流があり、仲麻呂が日本への帰国の際に遭難したと聞き”晁卿衡を哭す”という詩を詠んでいる。また下野の後、李白44歳のとき、まだ無名の杜甫(33歳)と出会って一年ほど交遊している。二人で風光明媚な地を巡り、酒を酌み交わしたようだ。杜甫は生前は評価されず、後の宗の時代になって名声が高まり詩聖と呼ばれるのだが、李白はすでに最初から杜甫の才能を見抜いていたようだ。また、杜甫も李白を評して、”筆落とせば風雨を驚かせ、詩成れば鬼神を泣かしむ”と激賞している。
李白は62歳のとき病に倒れるのだが、伝説では船の上で酔っ払って、月を取ろうとして水に落ち溺れた、と膾炙されている。
ブータンに来るに際して、荷物の重量が20kgに制限されていたので必要最小限のものしか持ってきていません。まあ、大抵のものはこちらで購入すれば済む話なので大して不便はありませんが日本語の本だけは入手出来なくて困ります。教科関連を除けば数冊しか持ってきていない本の一つが中国唐代の詩人・李白の本です。
李白は漢人ではなく胡人だったらしく、生涯を旅に過ごしています。一時は玄宗皇帝に取立てられ、宮廷で楊貴妃の美しさを詠う漢詩などを残していますが、その後失意のうちに王宮を去り放浪の生活に戻っています。
李白の詩は生活苦を多く詠った杜甫と違い、稀有壮大にして仙境に遊ぶが如く、の晴れ晴れとした詩が多いのが特徴です。しかし、静夜思のような詩もあり、夜中に一人でこれを読んでいる我が身を振り返り、心に沁みるようなしみじみとした気持ちになります。
静夜思
牀前看月光
疑是地上霜
擧頭望山月
低頭思故郷
牀前月光を看る
疑うらくは是地上の霜かと
頭を挙げて山月を望み
頭を低(た)れて故郷を思う