徒然なるまゝによしなしごとを書きつくる

旧タイトル めざせ、ブータン

うなぎの話

2018年12月27日 | 生命

これは本当に面白い本です。

著者は塚本勝巳東大教授 別名ウナギ博士。人類で初めてウナギの天然卵の採取に成功した人物です。

ウナギって本当に変わった魚で大洋のど真ん中で産卵し海流に乗って日本にたどり着いたあと河川をさかのぼり成長し、再び海に戻り数千キロを泳いで産卵場所にたどり着いて産卵する。この産卵場所が2400年前のアリストテレス以来の謎で、この先生以前には誰も産卵場所も卵も見たことが無かったのだ。

広い広い太平洋でほんの20km四方の狭いエリアで産卵するウナギをどうやって見つけるか。この先生、これを見つけるためだけに40年を費やしている\(^o^)/ キーワードは海流と耳石と甘い水と海山。

まずは海流と耳石だけど、ウナギに限らず魚類にはバランスを保つための耳石がある。この耳石には年輪(日輪)が刻まれていて顕微鏡で観察すると一日ごとの周期が観察できる。先生は何年もかけて台湾あたりから網(プランクトンネット)を引き始めて黒潮を遡りながらウナギの幼生を掬っては耳石を調べて生後何日かを同定していった。海流の流速は一定だから日数をかければどのあたりで卵が孵ったか推定できる。こうして行きついたのが世界最深のマリアナ海溝の西側に位置する西マリアナ海嶺だ。

しかしこれではまだ広すぎるし垂直方向の深度も判らない。ウナギは産卵する場合、日本から海流に逆らって遊泳して産卵場所までたどり着く。そしてオスとメスが出会って産卵する必要があるので何らかの目印が必要だ。この西マリアナ海嶺には海底から4000m以上の高さで立ち上がる3つの海山がある。その中で最も南に位置するスルガ海山に目をつけた。そして最後のキーワード甘い水。

赤道付近では上昇流が起こり、しょっちゅうスコールが降る。そうすると部分的に海水塩分の低い海域が出来る。これが甘い水で、先生はこの甘い水の分布とスルガ海山が接する部分で産卵するという仮説を立て網を引いた結果とうとうウナギの受精卵を見つけることができた。2009年5月22日のことだ。

この甘い水はウナギの発生に重要な役割をする。塩分濃度が低い海水でマリンスノーが発生すると海水比重が軽いのでマリンスノーは通常海水界面まで下降して停滞する。逆にウナギの幼生は発生して比重が軽くなり甘い水界面まで上昇する。そしてしばらくマリンスノー停滞物を食べて成長するのだ。実はこの初期飼料がウナギの人口養殖の最大のポイントで、この甘い水界面に停滞しているマリンスノー混濁液と同じ成分を作り出せないとウナギの幼生を養殖することが出来ないのです。マリンスノーというのは主にはプランクトンの死骸がバクテリアによりアミノ酸、タンパクペプチドなどの分解されたものだがそれを人工的に再現するのは至難の業。しかし、先生が産卵場所を発見したおかげでその秘密も徐々に明らかになりつつある。近いうちに人口養殖ウナギが可能になってウナギのかば焼きが好きなだけ食せる時代が来るかもしれませんね。

追記:ウナギのDNA解析によるとウナギはもともと深海魚の部類だったらしい。

 


脳をあまり信用してはいけない?

2017年03月02日 | 生命

この写真のイチゴ赤く見えませんか?

でも、実際はこの画像では赤い画素は全く使われてなくイチゴ画に使われている色は右の四角にあるグレーだけなんです\(^o^)/ 不思議な感じがしますね。

次にこれはどうですか?

交点に書いてある黒丸がチラチラして12個同時に見ることができないw

こうすれば見える?

何とも落ち着かない気分です。

もう一つ不思議な動画

あまり自分の目を信じないほうがいい、て事かな (´・ω・`)

元記事

http://gigazine.net/news/20170301-no-red-strawberries/

http://gigazine.net/news/20160913-twelve-black-dots-optical-illusion/

http://gigazine.net/news/20160704-ambiguous-cylinder-illusion/

 


毒草の誘惑

2017年01月12日 | 生命

この本はとても面白い、

何が面白いって、こんなにも身近な植物に毒があるとは知らなかった事と、著者がいちいちそれを自分で舐めて気分が悪くなるのを試してることw

彼岸花やキンポウゲに毒があるって幼いころ母親に教わった記憶があるが本当に毒なんだな。あと良く道路脇に植えられている夾竹桃も猛毒で植えると土壌まで毒で汚染されるなんて知らなかった。世界最強の毒植物はタイ山岳部に生えているゲルセミウム・エレガンスだ。青酸カリの致死量が4.4mg、あのトリカブトのアコニチンで0.116mgに対してG・エレガンスの毒素であるゲルセミシンはなんと0.05mgで人を殺してしまう。

あと、アヘンやコカなどの麻薬系の話も面白い。アヘンは試したとは書いてないがコカの葉は噛んだ記述がある。この著者はトリカブトも舐めてみて、”腐った油を飲んだみたいに胸がむかつき、飲んでも飲んでも生唾がこみあげてくる。”なんて書いてるな。神農という神様はあらゆる草花を自分で噛んで試した漢方薬の神様だけど、こういう人がいるんだね。

 

 

 


Time of our Lives ;生命の持ち時間は決まっているのか

2016年12月03日 | 生命

トム・カークウッド(イギリス、大学教授、老化学)の書いた題名の本を読んだ。

自分自身も還暦を迎え、老いと死の問題がそんなに他人事でもない年代に近づいている。知り合い知人の中には既に物故している人も数名いるし、老化が進んでいる者もいる。この、老いを遅らせることは可能なのだろうか?そもそも、老化というのは如何なる現象なのだろうか?という全ての人が持っている疑問に現在の最先端の科学で答えたのがこの本だ。

一日が29時間だということをご存じだろうか。この40年間で平均寿命は30年延びた。一日当たり5時間に相当する。つまり、我々は平均すると1日生きるごとに5時間の余命が増加していることになる。長寿化は良いことばかりではない。生産に寄与しない老人が増えることで生産従事年齢の世代の負担は増える。ましてや4人に一人が認知症ともなればそのケアに関する社会的負担は膨大なものになる。事は極めて深刻、特に世界一の長寿国である日本はその最たるものでちょっと想像しただけで暗澹たる気分になる。社会全体のことはとても手に負えないので、せめて自分自身のことだけは処せるようにはして置きたい。

カークウッドの主張の核心は”使い捨ての体;Disposable soma"理論だ。これはドーキンスの”利己的な遺伝子”に通じる主張で、我々の体は生殖細胞を除いてエネルギー収支がトントンで収まるよう手抜きの構成になっている、というものです。言い換えれば、エネルギー収支が潤沢であれば体の老化は必然ではなく防ぐことができる、という希望のある主張でもあある。なぜこのようなことを言い出したかというと、1980年代まで科学者は老化はあらかじめ遺伝子にプログラムされた物だと考えていた。しかし、カークウッドは老化はDNAの最大拡散を前提とするバイオエコノミクス(生物経済学)の問題ととらえたのだ。DNAを効率よくコピーして増やす(生命の存在理由)為には生殖細胞は完璧であるべきだがそのビークル;担体である体にはそんなにコストは掛けられないので徐々にDNA情報にエラーが蓄積して破綻する、これが老化だ、というものだ。

それで、どうすれば老化を防げるかというと1食事、2運動、3持って生まれた遺伝子 ということになる。食事に関してはまずは老化を進めるものは極力取らない、具体的には動物性脂肪と糖類を抑えること、必須栄養素はバランスよくとること特にオメガ3脂肪酸(魚油)は効果的、そしてカロリー制限。カロリーを抑えた動物が長寿化する事は実験で繰り返し確認されている。ヒトも例外ではない。あとは適度な運動と親からもらった遺伝子で長生きできる。

しかし、冒頭で書いた通り皆が長生きすると本当に困ったことになる。これから事態は深刻化し新たな社会実験が始まるだろう。その中には身の毛がよだつような提案も含まれるかもしれない。日本はその最先端にいるのだ。


量子進化 J・マクファデン 生命と量子力学と人間原理

2016年06月13日 | 生命

量子進化 J.マクファデン 生命の起源に迫る重厚な内容を含む本だ。

原初の生命はRNAそのものだったというRNAワールド仮説が定説となりつつある。RNAは自己複製をすると共にそれ自体が3次元構造を持つ酵素の役割も果たす事ができる。つまり、RNA単体で生命の基本要素を満たす事ができるからだ。

最小の自己複製分子は32個のアミノ酸がつながったRNAペプチドと考えられる。アミノ酸自体はミラーの実験などで知られるように比較的簡単に自然界でできる。ただ20種類のアミノ酸が特定の32の順番で連続してつながる可能性は 20の32乗=10の41乗 の数だけある。これはまさに天文学的数字で偶然にこの組み合わせが起こるのを待つには宇宙の寿命をしても足りない。

この問題を解くのにマクファデンが導入した考えが量子の重ね合わせと人間原理だ。話は簡単ではないが、我々のこの世界は粒子波動の重ねあわせとその観察で成り立っている。何を言ってるのかピンとは来ないと思うが量子力学の示す物質(粒子)の波動性というのはまことに奇妙で理解しがたい内容を含んでいる。電子でも光子でもあるいは全ての物質、極端な場合はシュレジンガーの猫でも波動関数で示される確率的存在なのだ。それが観測の瞬間に粒子として確定する。

この波動性と観測の問題はニールス・ボーアの主張するコペンハーゲン解釈というのが現在の主流だが、別の解釈としてエヴァレットの多世界解釈という説がある。粒子と観測者を含む世界が波動確率に従って分岐するという説だ。この場合、32ペプチドの全ての組み合わせは10の41乗にスプリットされた世界のどこかで発現することが出来る。

そして人間原理。 水の分子は奇妙な性質を持っている。固体の水つまり氷は水に浮く。水以外の物質は液体より固体のほうが重い。水のこの奇妙な性質が無かったら地球に生命は存在しなかっただろう。氷が水に沈めば全球凍結した地球が液体の海を持つ事は無いからだ。この水の奇妙な特性は酸素原子と水素原子の結合角によって水分子がほぼ正四面体形成する偶然によってもたらされている。なぜこの結合角が偶然こうなっているかは誰もしらない。

実はこの結合角の違う宇宙は別に存在している、と科学者たちは考えている。たまたま結合角が今の状態だったので人間が生まれた。これが宇宙の人間原理だ。マクファデンはこの考えを拡張し32ペプチドの複製分子が存在する世界に人間が生まれた、と考える。

まあ、なんともインチキくさい感じはするが現に我々が存在する以上それは起こったと.... 量子力学の意味するところは考えれば考えるほど解らなくなる この世界はまことに奇妙な土台の上に成り立っている様だ。


生物はなぜ誕生したのか 

2016年03月04日 | 生命

”生物はなぜ誕生したのか: 生命の起源と進化の最新科学 原題 A new history of life を読んだ。 2016年1月14日出版のアッチッチの新刊だ。著者はピーター・ウォード/ジョセフ・カーシュヴィンク。

面白い本には中々めぐり会えないが、これは近年まれに見る面白い本です。生命は35億年前のどこかで発生し、長い先カンブリア紀の後に爆発的な分化を起こして古生代、中生代、新生代と進化して我々人類を生み出した、という長い長い物語。その長い進化の物語の最新の知見と学説を織り込んだのがこの本です。

生命進化の最大の謎は、もちろん如何にして生命は発生したのか?ということです。これに関しては未だに結論は出ていない。ただ、生命が発生したと思われる35億年前の地球は、荒れ狂う嵐と太陽からの強烈な紫外線で、以前に考えられていたような穏やかな浅海での生命発生など考えられない状態であったことは明らかになっている。第一、この時期は地球は海に覆われていて大陸が無くぽつぽつと火山島が存在するような状況で海辺と言うものがほとんど無かった。

では何処で生命は発生したのか?現在主流の説は深海底の熱水噴出孔・ブラックスモーカーが生命の揺りかごではないかというものです。というのも、20世紀の終わり頃に発見されたブラックスモーカー周辺では太陽光が射さないにもかかわらず多様な生命が生活していて、その生命基盤を支えているのが硫化水素を還元してエネルギーを得ている古細菌だという事が発見されたからです。

ただし、生命の発生にはその素材となるヌクレオチドの集積とそれをカプセルに封じ込める脂質二重膜のカプセルが同時に必要だと思われる。じつはこの細胞の原型となるカプセルは簡単にできる。油を水面に垂らして激しくかき混ぜれば乳化して水を閉じ込めた小胞が大量に出来る。ただしこの為には水面での油の拡散が必要だ。ブラックスモーカー説ではこの部分が弱い。

ブラックスモーカー説とは別の説もある。成層圏での生命発生の可能性と火星で発生した生命が地球に飛来したと言う惑星パンスペルミア説だ。特に後者は著者であるウォードが提唱しているもので、とんでも無いがなかなか説得力がある。火星は地球の10分の一の質量しかなく重力が弱い。そして最近の火星探査で水の存在が確実視されている。弱い太陽紫外線と適度な水の存在の基で発生した生命が隕石衝突などで簡単に舞い上がり地球に飛来したという説だ。

生命が発生した後に酸素大気への転換と二度のスノーボールアース(全球凍結)というイベントが生命進化に深く関わっている。この酸素大気が生命の体制を決定する。著者はペルム紀末の大絶滅は酸素濃度低下と深海からの硫化水素流出ではないかと述べている。ペルム紀に30%近くあった酸素濃度が10%程度まで低下したのだ。主な原因はシベリア洪水溶岩の流出だ。酸素濃度10%とは今の地球では高度5000m程度に匹敵する。高度5000mで自由に行動できる動物は鳥くらいしかいない。ヒマラヤ鶴は5000mの峠を悠々と飛んで超える。

ペルム紀の後に来るのが恐竜の時代である中生代三畳紀だ。恐竜と鳥類はじつは同じ生物で恐竜は鳥と同じ呼吸方法を取っていたので酸素濃度が低下したペルム紀末を生き延びた。鳥の肺は我々と違い一方方向に空気を流す。これにより往復呼吸での呼気再吸入を無くし、かつ気流に対する血液対向流でガス交換効率を高めることに成功した。まあ、レシプロエンジンとジェットエンジンくらいの違いがある。その恐竜も白亜紀末に例のチチュクルブ隕石で絶滅し現在の哺乳類の時代・新生代が始まる。

あと、興味深い問題が地軸移動だ。磁気極が移動する事実は良く知られているが地球の自転軸そのものも移動するのだ。これは大陸質量による回転モーメントの移動による。回転体に質量を付加するとその付加質量を最大回転半径に持ってくるように回転軸が移動する。地球に大陸が出来ると単純な物理でその大陸を赤道に持ってくるのだ。現在の大陸分布も北半球と南半球で均等に分布し南極大陸が南極に正確に位置していることは偶然ではない。この自転軸移動が生命進化と関わっている。

まあ、ここでは書ききれないほどの興味深い内容が盛られた本だ。生命進化に興味ある方にはぜひ一読をお勧めする。

 


アゲハ蝶

2015年08月26日 | 生命

庭の花におそらく同じ蝶とおもわれるアゲハがよく訪れる

この羽根の青がなんとも素敵だ しかし、自然はなぜこんなに綺麗な生き物を造り出すんだろう?

一番上の写真と下の写真を比べると左右で黒い部分の面積がずいぶん違う。実際に左右非対称なのか光の具合でそう見えるのか?

蝶の羽の色は鱗粉が発するが、その原理は多層膜干渉によるものでシャボン玉の色と同じものだ。その鱗粉の表面には微細構造があり光を選択的に反射する構造になっている。

 


脳の成長

2014年02月15日 | 生命

これ、なんだか判りますか?

これはスペインの解剖学者サンティエゴ・ラモン・イ・カハールが作成・模写したゴルジ染色による小脳のプルキンエ細胞です。

これ、たった一個の脳神経細胞ですよ!

神経細胞は、多入力1出力の重み付き積和素子でモデリングされますが、その入力分岐は凄まじいですね。これが我々のお頭には140億個も詰まっているのです。

この神経細胞はシナプス重み付けの積和総入力が閾値を超えると下図の軸策丘という部分でNaチャンネルのポジティブフィードバックが起り発火するわけですが、この発火電位が終端に届く伝達速度と髄鞘に深い関係があります。

神経細胞は長いものでは1mを超えるので、途中に増幅機構が無いと信号が減衰してしまいます。その増幅を行うのが細胞膜に有るNaチャンネル蛋白質ですが、これが順次発火する場合は比較的遅い1m/sという伝播速度で信号が伝わります。ところが髄鞘があると発火は髄鞘のギャップであるランヴィエ絞輪の部分でのみ起こり、髄鞘部分ではイオン電位により信号が伝達されます。この跳躍伝播により信号伝達速度が100倍になるのです。

この神経の鞘である髄鞘は生まれたときから全部揃っているのではなくヒトの成長にしたがって順次増加していきます。それを詳細に調べたのがフロイトと同時代のドイツのフレフシッヒ先生です。

上図はフレフシッヒ地図と呼ばれるものですが、髄鞘の年代別の発達部位を示しています。特に重要なのが黄色の部分で、これらは青年期に髄鞘化が進む部分で特に前頭葉の髄鞘化が顕著です。髄鞘は主にリン脂質であるDHAで構成されており、青年期にDHAを含むオメガ3必須脂肪酸を摂取する事が前頭葉の発達に必要なわけです。

まあ、人間の脳みそというものは宇宙で最も精緻な構造物だといわれていますが、その通りだと思います。あなたの頭にもこれが詰まっているのですよ、大事にしてください。

 


クオリア問題

2013年07月16日 | 生命

クオリア:感覚質、という概念があります。例として赤い色、これです。あなたはこれを今赤色と感じていますが、この赤いという感じが他人も同じように感じている保証は無いし、これを言葉で表現する事は出来ない。もっと言えば、この感じを科学的に評価する術は全く無く、他人のクオリアと自分のクオリアは比較不可能、という極端な意見があるのです。

確かに0.7umの光の波長を視神経が検出して脳が赤という感覚を生み出しているその過程は全くの謎ではあります。しかし、その謎は将来解けると考えるか、これは永遠の謎である、と考えるかで貴方の科学に対する立位置は変わって来ます。

この問題は、なかなか面白いのでしばらく考えてみたいと思います。

 


生命の起源 GADV仮説について

2013年02月20日 | 生命

 生命の起源は何かと言う事には非常に興味が有る。地球型生命の明らかな特徴はDNAでコードされた機能性タンパク質で構成されていることにある。これが地球上の全ての生命(RNAウイルスを除く)の共通構造なのだ。

 この構造がどのようにして発生したかについて現在の主流の仮説はRNAヌクレオチド鎖が出来そのRNAが直接酵素反応を起こしていた、というRNAワールド仮説が言われている。しかし、実際には機能性RNAが出来うるのは極めて限定的な条件でかつ限定的な機能に限られ、この仮説から実際の生命発生過程を説明するには幾多の困難がある。

 これに対して奈良女子大の池原教授の提唱するGADV仮説というのがある。この仮説のミソはGADV(グリシン、アラニン、アスパラギン酸、バリン)の4つのアミノ酸で構成されるタンパク質がランダムにつながったとしても親水性、疎水性比の観点で球状構造を安定的に持ち、酵素機能を発揮しやすいという点にある。

 生命の材料であるアミノ酸は無機材料に紫外線照射、放電、過熱等の条件を与えると比較的容易に合成される。また、隕石の中や星間物質からもアミノ酸は検出されている。つまり、材料はある。さてその材料がいかにして機能性を持ちかつ自己複製を行うことが出来るようになったかが生命発生の謎であるが、GADV仮説ではこの4つの限定的なアミノ酸が偶々つながって出来た原初GADVタンパク質の表面の酵素機能でランダムにGADVタンパク質が擬似複製されGADVタンパクワールドが出現したという説です。この説では擬似複製でランダムにタンパク質が出来、それもGADVであれば球状構造を持ち何らかの機能性を持ちうる、と言う点でRNA仮説に対して優位性を持ちえる。

 ここで出来上がったGADVタンパクのなかで複製機能の強力なタンパク質がはびこり、その配列がRNAヌクレオチドに逆コードされ遺伝情報として残った。これが生命の発現である。

 このような議論を聞いているとワトソン・クリックの二重螺旋の発見から生命の発現の過程説明の距離はあまり遠くないように思える。私が生きている間(後30-40年位か?)に、より理解が進み事態がクリアになれば心置きなく死ねると言うものだ 逆も真で、知るまでは死ねないな


タンパク質について

2012年11月07日 | 生命

 知ってるようで知らない事は多い。岩波新書に”タンパク質の一生”という本があり、これを読んで目からウロコが落ちるような気がした。著者は京大の永田教授、このひとiPS細胞の山中教授の隣の研究室だとこの本の中で書いている。

 3大栄養素はタンパク質、炭水化物、脂肪、くらいがタンパク質に関する一般的な認識だが実はこの物質とんでもない代物なのです。たんぱく質はDNAコードに従って正確に分子単位で組み立てられている。まずDNAがジッパーを開くように開鎖しそこに転写RNAがくっつきそのRNAコードに従ってアミノ酸ペプチド鎖が出来る。RNAはアデニン、グアニン、シトシン、ウラシルの4つの塩基配列を持っていてその3個ごとの組み合わせに対応するアミノ酸が連続的に結合していく。

 アミノ酸は20種類ある。4塩基x3(コドン)で4x4x4=64の組み合わせがあり、これの各々に対応したアミノ酸が決まっている。また、ペプチドの開始点はAUG(アデニン・ウラシル・グアニン)、終端はUAA,UAG,UGAと決まっている。

 と、まあここまでは高校で習って知っている。しかし、これで出来たアミノ酸鎖がなぜタンパク質としての機能性を持つのか? 生体のあらゆる機能はタンパク質が担っている。酸素を運び、筋肉を動かし、プロトンポンプを回してATPを作り、免疫反応をし、光を感知し、思考をし... これら全てがタンパク質の働きによる。

 タンパク質を構成するアミノ酸には親水性アミノ酸と疎水性アミノ酸がある。これがDNAコードに従ってペプチド鎖を作り、水中に放出されると親水基を外側にして疎水基が内側に畳み込まれる。(フォールデイング)この結果、最小自由エネルギー状態であるそのパターンに従った3次元構造が出来上がる。同時にアミノ酸には硫黄端があり隣同士の硫黄原子が共有結合でクリップの役割をして出来上がった3次元構造を固定する。要はDNAパターンに従って形状記憶されたアミノ酸の鎖が特有の3次元構造を作り出すわけだ。この形状がタンパク質の機能性を与える。よく免疫反応で特有の抗体が出来るというが、これは抗原タンパクの外形にぴったりはまる形状を持つタンパク質を作り出す働きによる。

 さて、この畳み込み(フォールディング)は実は簡単ではない。というのも細胞内は水溶性ではあるがタンパク質や細胞組織でギチギチで自由な折り畳みが出来る環境ではない。ホールディングの最中に隣のタンパク質の疎水基同士が接触すると、とたんにくっついて離れ無くなってしまう。このフォールディングを保障するために分子シャベロンというタンパク質が活躍する。まあ、詳しい事はこの本を読んでみてください。

 生卵をゆでるとゆで卵になる。肉を焼くと硬くなる。これらは熱によってタンパク質の構造が解け隣同士の疎水基がくっつきあう為に起る このようなタンパク質はその分子レベルから設計され正確に組み立てられた物質で現代の科学でこれを人工的につくったら1g作るのに1億円くらいはかかるだろう。今日は奮発して200gのステーキを食べよう としたとき なんと、これが200億円くらいの価値のあるモノだと思ってみてください... まさに、センス・オブ・ワンダー 驚異の物質なのです。


潰瘍性大腸炎およびクローン病治療にFMT

2012年09月30日 | 生命

 安倍さんが自民党の総裁に返り咲いたが、お腹痛は大丈夫だろうか。薬で治ったとおっしゃっているが、ご幼少のみぎりより試験の前などでストレスがかかると症状が悪化した、とご自分でおっしゃっているので、首相などに返り咲いて野党から攻め立てられると、またぞろお腹が痛くなるのではと一有権者としては心配している。

 その安倍さんの病気は潰瘍性大腸炎らしいが原因が良くわかっていない難病である。消化器系、特に小腸と大腸は雲古に常に晒されているので身体の中で最も免疫系の集中している場所です。潰瘍性大腸炎とクローン病は良く似ていて、共に自己免疫反応がその病態らしい。自分の身体を自分の免疫系が攻撃するわけです。

 そこで問題になるのが腸内細菌との関わりです。胃癌の主要因が胃に住み着いているヘリコバクター・ピロリ菌のせいだと言うのは近年明らかになった事実ですが、腸内の細菌群が免疫系と深く関わっていることも明らかになっています。上記二つの病気もこの腸内細菌との関係が疑われています。つまり、腸内が特定の細菌に偏っていて、バランスを崩すとこのような症状が現れるという事。

 この問題に対して非常に簡単だけど、結構とんでもない方法が試されて劇的な効果を表しているようです。それが“糞便微生物移植(fecal microbiota transplant:FMT)”です。なにかというと、この類の病人に健康な人の雲古をお尻から注入するという画期的な医療行為なのです。http://news.e-expo.net/world/2011/11/post-110.html

 多くの人がゲーっと言うかも知れませんが、プロバイオティクスという学問があって腸内細菌の研究が進んできて、免疫と細菌の深い関係が判るにつれ、このFMTが注目を集めているわけです。世の中、清潔一辺倒で除菌ばやりですが、考えてみればお腹の中は細菌だらけで人間と共生状態を作り出しているともいえます。これを化学的な薬で修復するのではなく、健康人の雲古で直す、と言うのは極めて自然で有効な方法だと言う気がしませんか。


成人病と低体重新生児

2011年12月08日 | 生命

 

 成人病、特に糖尿病は飢餓をくぐり抜けてきた人類が、いままで接したことの無い飽食という状況下で不適合を起こしている典型症例だとばかり思っていた。しかし、事実はそんなに単純ではなかったのだ。

 成人病胎児期発症説というのがある。http://www.yomiuri.co.jp/adv/wol/opinion/science_111205.htm

 つまり、妊娠中母親が食事制限等をして胎児が飢餓状態になるとエピジェネティクス(遺伝子DNAの配列は変化せず、環境により生ずる遺伝子発現の制御システム)の変化が起こり飢餓適応の子供、つまり糖尿病などに成りやすい子供が生まれてくるというものだ。これは、小さく産んで大きく育てるという流行が将来とんでもない厄災をもたらすことを示している。

 遺伝子は主に発生時に関与する。個体発生は系統発生を繰り返すという、ヘッケルの反復説は真実を含んでいる。発生は遺伝子のコードをトレースしながら進む。そのコードは進化の順番を保っているはずだ。そうでなければ生体機構の継続性が成立しない。ただ、発生環境に反応しエピジェネティクス適合は起こる。生命の歴史の中で飢餓期間をどう乗り切るかという事は最大のテーマだったろう。その機序が胎児に働き、母親の妊娠ダイエットを飢餓と勘違いする...

 成人病が気になる方は、ご自分の出生時体重を母上にお尋ねになるが宜しいかと存じます。

 


下痢について

2011年11月20日 | 生命

 尾籠な話で申し訳ありませんが、ボランティアで開発途上国へ行って、一番頻度の多い健康問題が下痢です。下痢というのは腸内の毒物を排出する体の正常な反応で、これを止めてはいけません。昔は下痢になると正露丸で止めていましたが、これをすると毒素が体に回り症状が悪化します。ただし、下痢で失った水分を補給する必要があるのでスポーツドリンク等を十分飲む必要が有ります。

 私もブータンに来て二、三度下痢をしましたが、理由は明らかで、来たばかりの慣れていない頃にエマダチなどの超辛い食物を食べると下痢をしました。また、干肉のやや変質したの(コクのある微妙な味がします)を食べた時も来ました。これらは一過性で対象物が排出されると収まります。

 この、下痢の頻度というのは人それぞれで、よくやる人やそうでない人など多様です。この理由は腸内細菌フローラによると言われています。よく善玉菌としてビフィズスが言われますがそんなに単純な話では無く、その土地々々で最適化された細菌嚢があり、特にホルマリン耐性菌のグループが重要な役割を担っていることが解っています。これらは学問的にはプロバィオティクスと呼ばれています。また、最近下記のような記事が有りました。

http://news.e-expo.net/world/2011/11/post-110.html

 本当の話、腸内細菌の多様性というのは非常に重要で、免疫や発ガン性と深く関わっていて長生きしたければ腸内細菌の多様性を確保することです。これはヨーグルトを食べる、といった話ではなく、現地人の中に混じって同じ食事をし、同じ水を飲むことで達成できます。もちろん、腸チフスやコレラなどの病原菌には注意する必要がありますが、現地の何千年にも渡って維持されてきた料理方法や風習にはそれなりの理由があります。それを守っている限り日本で食事をするのと何ら変わりはありません。 人間、清潔だけではダメだという事ですね...


放射線は少し浴びたほうが健康に良い

2011年03月23日 | 生命

いささか、ギョッとするタイトルで申し訳ありませんが、福島原発事故の放射能でパニックになりかけている皆さんに、落ち着いてもらう為に3月21日記事に続いてもう少しコメントしたい。

上の写真の御老体は近藤宗平先生で御年齢89歳である。8月6日に広島に原爆が投下された一週間後の8月13日に当時、京大物理学科3回生であった先生は現地に赴き、2日間にわたり放射性物質の採取を行った。この時点で先生はある程度の被爆をされているものと思われる。ところが、ご覧の通りピンピン、カクシャクである。この一例をもって弱放射線被爆は健康に良い、と言うつもりは無いが、少なくとも少々被爆したとしても全員悲惨な死を迎えるわけではない、と言うことはいえる。

先にも書いたが、被爆者手帳をお持ちの方々は平均寿命が我々より長い。また、天然ラドンの出る地域に住む住人の寿命は統計調査によると長い。昔、時計に夜間でも見えるようラジウムを塗っていたが、直接作業者には骨肉種が多発したが、周辺作業者の寿命は逆に長いというデータもある。原潜ドックの作業者、放射線医師のデータ等枚挙にいとまは無い。台湾人なんかは放射性コバルト60入りの鉄鋼住居で20年以上、元気に長生きしている。これらは、冗談ではなくきちんとしたデータで確認されている。

http://homepage3.nifty.com/anshin-kagaku/sub040616kondouchusen.htm

太陽は核融合反応で熱と放射線を発している。太陽からの紫外線は高エネルギー電磁波、つまりガンマ線の一種である。それを我々は毎日浴びている、海水浴になんて行くと全身に浴びる。ある一群の人々、たとえば白色系ケルト人にとっては紫外線は致命的だ。年齢を経るにつれ皮膚がんが多発する。しかし、日本人は日に焼けてメラニン色素が増え、皮膚がんにはならない。体に紫外線に対抗する仕組みが備わっているのだ。

焚き火に手を突っ込めば火傷を負う、塩や水も取りすぎれば毒になる。なぜ、放射線だけが微量でも害になると思い込んでいるのだろうか?

近藤先生はこう書かれている、

このような放射線恐怖症がはびこっているのはなぜだろうか?考えられる理由にはつぎのようなものがある:
1) 広島・長崎に投下された原爆による惨状と死傷に対する心理的反応、
2) 市民の核兵器に対する恐怖心につけこむ心理作戦、
3) 過剰放射線リスクの研究を認めてもらって、研究費を得ようと奮闘している放射線研究者達の利害的関心、
4) 一般大衆の不安をあおって利益をえるニュースメディアの利害関心


現在の放射線防護規則の履行により、生命を救うという名目で出費されている金額は、ばかげているほど高額であり、非倫理的出費である。このことは、はしかやジフテリア、百日咳などにたいする予防注射によって生命を救うのにかかる安い費用と比較するとよく分かる。放射線から人間を仮想的に防護するため巨額の費用が使われている。他方、本当に生命を救うためのずっと小額の財源はたいへん不足している。

生体細胞は放射線ダメージを受けた場合、間違った分裂を防ぐためにアポトーシス(自殺)を起こす。高度放射線ダメージを受けた場合にはこのため死亡する。しかし、低度の場合はこのメカニズムにより何らの後遺症を残すことなく回復する。生体は放射線耐性を持っているのだ。むやみに、放射能を恐れるのではなく、正等に怖がることが必要だろう。下記の近藤先生の提言を是非読んでください。

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