風邪をひくと熱が出る。私たちはそれを抑えようとしてアスピリンを飲む。或いは、お腹をこわして下痢が始まったら正露丸でも飲んで下痢を止めようとする。 しかし、ちょっとまった!
なぜ風邪をひくと熱がでるのか?細菌やウイルスに感染して熱を出すのは人間だけではない。ウサギやネズミ、トカゲでさえ発熱する。もし通常より二度発熱したネズミを暑い部屋に置くと、自身の冷却メカニズムを使って二度高い状態を維持しようとする。マラリアに罹った梅毒患者の梅毒がマラリヤの高熱の為に治癒することをW.ヤウレッグは20世紀初頭に発見し1927年にノーベル医学賞を受賞した。また、風邪をひいてアスピリンを飲み体温を下げたグループは偽薬を飲んだグループより抗体反応が低く風邪が長引くというデータもある。下痢も同様で下痢を起こす赤痢菌を25名のボランティアに与えた実験で、下痢止めを処方したものは、そうでないものに比べ熱と中毒症状が二倍も長く続いた。
慢性の結核患者は鉄分が不足していることが知られている。しかし、これを補おうとして鉄剤を処方してはいけない。血中の鉄濃度が上昇すると結核菌はそれを取り込み感染は悪化する。痛風は血中尿酸濃度が上昇し関節で再結晶が起こり痛む。哺乳類中、人類だけがこんなに尿酸濃度が高い。じつは、尿酸塩は強力な酸化防止剤で体内の酸素ラジカルを中和する機能がある。これにより人間の長寿命と癌の発生率を抑えている可能性がある。
癌、恐ろしい病気である。しかし、生命の成り立ちを考えると、癌にならないことこそ不思議なのである。R.ドーキンスの”利己的な遺伝子”で紹介したとおり、遺伝子増殖が生命のメインテーマである。しかし体細胞は体機能を維持するために自制的に増殖を止める必要がある。これは一種の自己犠牲である。体の生殖細胞を除く、全ての細胞がこの自己犠牲を強いられている状態で、反乱が起こらない事が不思議なほどだ。 体細胞の反乱=癌である。
タイトルの"病気はなぜ、あるのか R.Mネシー、J.C.ウィリアムズ” にはこの手の話がびっしり書かれている。 ここでの主張は、病気(精神病を含む)はその症状、原因には必ず進化論的な背景があり、それを考えることで真の解決に至る、というものだ。その重要な考えの一つに、”遺伝的な要因のある病気の場合、それを起こす遺伝子はなぜ存在し続けているか?”という点がある。鎌状赤血球の話は有名で悪性貧血を起こす可能性のある遺伝子だがマラリヤの耐性を著しく向上する。この延長に統合失調症やアトピー遺伝子がある。この二つが存在しつつけるメリットが必ず有るはずだ。(まだ人類は知らないが...)
このように医学と進化生物学がクロスオーバーしたダーウィン医学が生まれ、従来の病気の見方を大きく変えようとしている。