円高のおかげで海外旅行に気軽に行ける。これは我々にとってメリットである。反面、輸出に頼っている中小企業は円高で困っている。個人的な問題としては資産運用の面で今後この状況がどのように変わっていくかを見極める必要がある。
日本政府は国債を乱発し、すでに800兆円を超える借金を背負っている。よって、日本国は近々ギリシャのように国家破綻して破滅的な円安になるという人もいる。しかし、為替というものは相対的な貨幣の交換レートであり、絶対的な尺度で考えられるものではない。現在、世界で流通している主要通貨はドル、ユーロ、および円である。
まずユーロだが、現在ユーロ圏で起こっている問題はPIGSと呼ばれるポルトガル、イタリア、スペイン、ギリシャ等の南のラテン諸国の経済赤字をドイツが一身に背負っている域内不均衡である。これはドイツ国民にとっては、たまったものでは無い。なんでギリシャ公務員の給料や58歳からの年金を自分たちが我慢してまで面倒を見なくてはならないのか!...と。本来、ギリシャとドイツの通貨が違ったならギリシャ通貨は暴落しギリシャ国民は窮乏に陥るが、そのおかげで国債償還は目減りしスムーズに解消に向かう。しかし、統一通貨のユーロではこのメカニズムは働かない。ギリシャの破綻を防ぐためにドイツをはじめとする黒字国はひたすら不利な条件でギリシャ国債を買い支えるしかない。つまりは、経済は統合したが、政治は独立を保つ、というEUの根本的なシステム上の欠陥が現れたものだ。今回のアラブ危機の難民流入等で深刻な影響を受けるであろうヨーロッパ諸国が、この問題を本当に乗り越えることが出来るかどうか?今後、少なくとも5年は様子を見ておく必要がある。ユーロ崩壊のリスクが去ったとは言い難い。
つぎに、米国ドル。先日、2011年度の米国予算教書が発表されたが11年単年度で137兆円と過去最大の赤字である。この赤字は米国債で賄われるがその主な買い手は中国と日本であった。この二国で米国債の40%を買い支えている。しかし、ここにきて中国が買い渋りの兆候を見せ始めている。なぜなら、ドル安が今後も続くなら買い進めている米国債の価値は目減りし中国はその分、損をすることになるからだ。中国にとっては日本のように米国を経済的に支える義理など何処にもない。中国が米国債を買ってくれないと長期金利は上昇する、実際に米国長期金利は上昇を始めている。こうなると、赤字幅は膨張し返済が苦しくなる。そこで何が起こるかというと、一段のドル安である。当然、日本にも米国を支える余裕は無い。米国実体経済が当面復活しないとなると、ドルは現在最も危険な通貨となりつつある。
我が円はどうか?もうじき国の借金は1000兆円を超えるという。いったいこの巨費の貸主は誰であろうか?それは日本国民自身である。言い尽くされた観はあるが、この点がドルやユーロと決定的に違う点だ。国は国民一人当たり800万円の借金があるというが、逆に言うと国民は国に一人当たり800万円の貸しがあるという事でもある。こうなると、国とはなんぞや、という事をもう一度考え直す必要がある。基本から言うと、国家とは、収税をしてそれを国民に再分配する装置である。ところが日本政府は赤字を国債で賄うというタブーを犯した。身の丈を超える福祉を行う為に、国民から借金をしているのだ。国といえども借りた金は返さなくてはならない。(最後には破産という奥の手は残されているが...) 一つには消費税増税という手がある。英国はすでに消費税を20%にまで引き上げた。わが国は5%であり、まだ上げ幅はある。これは貸主にとっての安心材料である。ただ、政治家がきちんとその道筋をつけることが出来るかどうかではあるが、ここが極めて心もとない。もう一つは大蔵官僚が静かに進めている相続税の大幅アップである。借金800兆円の主な貸主は65歳以上のお年寄りであり、借金の80%以上はこの世代が握っている。平均寿命85歳として、あと20年もすればこの世代はどんどんあの世へ旅立っていく。その時、次世代のために相続税の形で借金を棒引きするのは悪くは無い。結局のところ、円はユーロ、ドルと比べればまだ打つ手が残されていて、相対的に見ればそれほど悪くは無いので市場は円高になっているのである。
あと、中国元というオプションもある。まず基本的な事であるが、人民元はドルと連動しておりドル安になれば元も安くなる。その上で、決して忘れてならないのは、中国は自由主義経済ではなく統制経済下にあるという事実だ。中国の現代史は、行き過ぎとその反動の繰り返しだ。私は現在のバブルがはじけた後に政治・経済的な反動が必ず訪れると確信している。その時、外資に対して人民元の持ち出し凍結等の措置を取る可能性は大いにある。いくら人民元を持っていても中国以外で使えなくなったら意味は無いでしょう。私は中国政府を信用はしていないし、中国政府も外資なぞ虫けら同様に見ている。(東夷、西戒、南蛮、北狄、中華思想です。)ましてや、アラブ騒動が中国に飛び火でもしたら、とんでもないことになりますよ。
ついでに言うと、オーストラリア等の資源国通貨もあるが、これらは規模が小さいので振れ幅が大きく、購入に当たってはジェットコースターに乗る位の覚悟が必要である。
では、どうすればよいのか? 私の結論は、リスクヘッジの為に通貨を分散して持っておくことを検討する必要があるが、決してそれで儲けよう、などとは考えない、ということだ。大儲けしようと考えたなら、その裏側には必ず大損するリスクが潜んでいる。冷静に考えれば、プロだって5%の利鞘を稼ぐ為に汲々としているのに、素人が簡単に為替でお金を儲けられる訳は無いでしょう。