”生物はなぜ誕生したのか: 生命の起源と進化の最新科学 原題 A new history of life を読んだ。 2016年1月14日出版のアッチッチの新刊だ。著者はピーター・ウォード/ジョセフ・カーシュヴィンク。
面白い本には中々めぐり会えないが、これは近年まれに見る面白い本です。生命は35億年前のどこかで発生し、長い先カンブリア紀の後に爆発的な分化を起こして古生代、中生代、新生代と進化して我々人類を生み出した、という長い長い物語。その長い進化の物語の最新の知見と学説を織り込んだのがこの本です。
生命進化の最大の謎は、もちろん如何にして生命は発生したのか?ということです。これに関しては未だに結論は出ていない。ただ、生命が発生したと思われる35億年前の地球は、荒れ狂う嵐と太陽からの強烈な紫外線で、以前に考えられていたような穏やかな浅海での生命発生など考えられない状態であったことは明らかになっている。第一、この時期は地球は海に覆われていて大陸が無くぽつぽつと火山島が存在するような状況で海辺と言うものがほとんど無かった。
では何処で生命は発生したのか?現在主流の説は深海底の熱水噴出孔・ブラックスモーカーが生命の揺りかごではないかというものです。というのも、20世紀の終わり頃に発見されたブラックスモーカー周辺では太陽光が射さないにもかかわらず多様な生命が生活していて、その生命基盤を支えているのが硫化水素を還元してエネルギーを得ている古細菌だという事が発見されたからです。
ただし、生命の発生にはその素材となるヌクレオチドの集積とそれをカプセルに封じ込める脂質二重膜のカプセルが同時に必要だと思われる。じつはこの細胞の原型となるカプセルは簡単にできる。油を水面に垂らして激しくかき混ぜれば乳化して水を閉じ込めた小胞が大量に出来る。ただしこの為には水面での油の拡散が必要だ。ブラックスモーカー説ではこの部分が弱い。
ブラックスモーカー説とは別の説もある。成層圏での生命発生の可能性と火星で発生した生命が地球に飛来したと言う惑星パンスペルミア説だ。特に後者は著者であるウォードが提唱しているもので、とんでも無いがなかなか説得力がある。火星は地球の10分の一の質量しかなく重力が弱い。そして最近の火星探査で水の存在が確実視されている。弱い太陽紫外線と適度な水の存在の基で発生した生命が隕石衝突などで簡単に舞い上がり地球に飛来したという説だ。
生命が発生した後に酸素大気への転換と二度のスノーボールアース(全球凍結)というイベントが生命進化に深く関わっている。この酸素大気が生命の体制を決定する。著者はペルム紀末の大絶滅は酸素濃度低下と深海からの硫化水素流出ではないかと述べている。ペルム紀に30%近くあった酸素濃度が10%程度まで低下したのだ。主な原因はシベリア洪水溶岩の流出だ。酸素濃度10%とは今の地球では高度5000m程度に匹敵する。高度5000mで自由に行動できる動物は鳥くらいしかいない。ヒマラヤ鶴は5000mの峠を悠々と飛んで超える。
ペルム紀の後に来るのが恐竜の時代である中生代三畳紀だ。恐竜と鳥類はじつは同じ生物で恐竜は鳥と同じ呼吸方法を取っていたので酸素濃度が低下したペルム紀末を生き延びた。鳥の肺は我々と違い一方方向に空気を流す。これにより往復呼吸での呼気再吸入を無くし、かつ気流に対する血液対向流でガス交換効率を高めることに成功した。まあ、レシプロエンジンとジェットエンジンくらいの違いがある。その恐竜も白亜紀末に例のチチュクルブ隕石で絶滅し現在の哺乳類の時代・新生代が始まる。
あと、興味深い問題が地軸移動だ。磁気極が移動する事実は良く知られているが地球の自転軸そのものも移動するのだ。これは大陸質量による回転モーメントの移動による。回転体に質量を付加するとその付加質量を最大回転半径に持ってくるように回転軸が移動する。地球に大陸が出来ると単純な物理でその大陸を赤道に持ってくるのだ。現在の大陸分布も北半球と南半球で均等に分布し南極大陸が南極に正確に位置していることは偶然ではない。この自転軸移動が生命進化と関わっている。
まあ、ここでは書ききれないほどの興味深い内容が盛られた本だ。生命進化に興味ある方にはぜひ一読をお勧めする。