小学生のころ一番仲の良かったのがしんいち君だ。
しんいち君はいつも腰からダラ~ンと下着をはみ出ていた。
しんいち君は目がサバの目のようにトロ~ンとしていた。
しんいち君は笑いだすと笑いが止まらずにいつも最後にはよだれをこぼしていた。
しんいち君と私はいつもにやにやして夢のような話ばかりしていた。
しんいち君は指の関節がやわらかくて反対方向にぐにーと曲がった。
腕の関節も柔らかくてこれまた反対方向にぐにーと曲がった。
必殺タコ人間だった。
この特技は使えるぞ、と思いテレビ局に応募したことがある。
日曜のお昼、土井まさると相本久美子が司会をしていた
「テレビジョッキー」という番組だ。
そこに奇人変人のコナーがあった。
毎週、全国の奇人変人が集ってきた。
出場するとほうびに白いギターがもらえた。
私たちはそれに出ようと目論でいた。
本気で思っていた。
しんいち君の「タコ人間」だけではインバクトが弱いと見て、
私の耳動かしもレパートリーに加えることにした。
当時、私たちは桜田淳子の熱烈なファンだった。
せっかくテレビに出るんだったら、桜田淳子がゲストの時に
出してくれと応募用紙に書き込んだ。
東京に行ったら、ついでにいろんな所を見て回ろうと計画していた。
私たちの目論見は達成するものと信じ込んでいた。
私としんいち君はおそろしく浅はかな少年だった。
私たちはテレビ局からの連絡を長いこと待った。
中学になっても待ち続けた。
白いギターと桜田淳子のサイン入り色紙を思い浮かべながら…