2009年8月27日。ザルツブルク音楽祭2009。ドゥダメル指揮、ウィーンフィル、前半はニコライ・スナイダーのヴァイオリンで、チャイコフスキーのヴァイオリン協奏曲。
スナイダーは相当緊張していた。見る見るうちに、汗が噴出し、楽器からも汗が滴り落ちた。この極度の緊張状態にあったスナイダーを、ドゥダメルとウィーンフィル(特にコンマス)が支えることで、スナイダーは最後まで弾ききることができた、という感じだった。
一度舞台に上がったら(上がることが決まったら)、この奏者はだめだとか、揚げ足をとることは共演者にとって何の意味も生産性も無い。それより、ソリストが少しでも持てる力を出し切れるようにサポートし、より良い音楽作りを目指すこと、これが本当の協奏曲の、音楽のあり方なのだとつくづく感じた。勿論、それは何も音楽だけのことではなく、仕事もしかり。メンバーはそう容易く変えられないのだから、協働するメンバーと、どれだけ効率的で、どれだけ高い成果を上げ得るか、お互いが協力し合えるチーム作りこそが肝要-と再認識。
後半はストラヴィンスキー『春の祭典』。アクセントのついた音は弦楽器奏者が皆、右肩から肘を斜め前に突き出すように体全体で弾く-楽器の演奏は全身運動であることを証明するかのようだ。ウィーンフィルまでがSimon Bolibar Youth Orchestra of Venezuelaになっている-リハーサルの光景が目に浮かぶ。ウィーンフィルにここまでやらせることができるドゥダメルのすごさにひたすら感心。
ウィーンフィルの素晴らしい音が春祭を作り上げる。至福のひと時。特にパーカッション、フルートは印象的であった。とはいえ、何箇所かミスがあったことも事実。土曜日にはこれらの点が改善してくれることを祈る。
演奏会後、ドゥダメルに頼みごとがあって出待ちをした。1時間近く待った頃ようやく出てきたが、次の予定に急ぐから、と関係者が彼を車へ誘導しようとした。すると彼のほうから「ファンが待っている」とわざわざこちらへ来てくれ、サインや写真に応じていた。私からのあつかましいお願いも笑顔で聞いてくれた。
グスタボ・ドゥダメル-私にとっては、生きた『星の王子様』。これほど才能に恵まれると同時に、人間的に良くできた人を他に知らない。羨ましさを通り越して、素直に頭を垂れたいと思う。