先週に引き続き、ハーディング指揮、LSOでマーラーを聴いた。10番はご存知の通り、マーラーが未完で残した交響曲。国際グスタフ・マーラー協会は、第10番に関してはマーラーがほぼ完成させた第1楽章しか認めていない-私が所持している全曲集にもこの曲は入っていないので、殆ど聴いたことがない。
言われるとおり、第1楽章の始まり、ヴィオラのメロディには殆ど調性が感じられない。有名な12音のうち9音が使われる場面では、「不協和音」という印象よりも、教会で聴くオルガン演奏を思い出す。金管の短2度の音は限りなくパイプオルガンの音に近く聴こえた。そしてこの後、トランペットのA音だけが残る。この音の美しいこと。
トランペット奏者は音程に動きがあると、いまひとつなのだが、音質にかけてはぴか一であった。また、クラリネットをはじめとした木管も良い。クラリネットは先週のマラ6でも素晴らしかったと記憶している。何かで元ベルリンフィル・コンマスの安永徹氏が良いオーケストラの条件として「コンマスと木管5重奏の首席奏者が揃うこと」を挙げたと読んだが、全くその通りである。
第1楽章は約25分と長い。終わったとたんに、会場全体咳の渦。ま、聴衆の年齢層が年齢層だけにやむをえないか。「煉獄」と名付けられた第3楽章は、驚くほど短い。第4楽章は、不気味な音楽と、美しいワルツが交互に現れる。「The Devil dances it with me」-まるで幻想交響曲である。生理的にこの感じは好き-とてもウィーン的な香りがする。聴きながら、ウィーンに住んでみたくなった。また先週マラ6を聴いたばかりだからか、なんとなくマラ6の匂いがした。
第5楽章、最終章。ミュートをつけた(革製の大きな布様のものを使っているように見えた)バスドラムは、まるでマラ6のハンマーである。第1楽章の不協和音が再び現れる。不協和音、だけれど、オルガンのような音が立ち上る様は、教会を思い起こさせ、音の広がりが天に昇り行くイメージにつられて、思わず天井を見上げてしまう。有名なフルートソロ。悪くはないけれど、ウィーンフィルのあの美しいフルートソロで聴いてみたい。
曲は静かに終わる。ハーディングが、まるで祈っているかのような仕草をしながら曲を終える。聴衆も静かに、しかし暖かな、満足感に包まれた拍手を送る。
クラリネット、良かった。音も演奏の様子も-この人とちょっとお話してみたいかも、なんて思っていたら、Tubeで偶然その奏者と一緒になった。ソリストでもないし、声を掛けることを躊躇したが、下車駅も同じだったので、そこで声を掛けた。今日の演奏が素晴らしかったこと、先週のマラ6の時もクラリネットが気になっていたこと。加えて、マラ10を生で聴けるのは稀なので今日の演奏会に行った、と言ったら、彼も「僕も今日初めてマラ10を吹いたんだ」と言う。え、初めてであんなに上手に吹けるの?やっぱりプロは違う。
LSOのメンバーなのかと聞いたら、実はカーディフ在住で、BBC Walesのメンバーなのだそうだ。「え、今日はアムランとの演奏会があるはず。。。」と言うと、「良く知ってるね、本当はカーディフに居ないといけないんだけれどね」といたずらっぽく笑う。多分、クラリネットの腕を買われて、引き抜かれて来たに違いない。それにしても、話をしたいと思っていたら、本当に実現してしまった-不思議。
さて、明日は土曜日だけれど午後から仕事。その前に、HMVへ行って、ハーディング指揮ウィーンフィルのマラ10を購入して来なければ!