良く参考にするアンズ・レビューというサイトのロン・アンズ編集長が、2024年の10月7日の論考でイスラエルのハマスによる2023年10月7日のアル・アクサ攻撃は、攻撃された主体が過剰すぎる反応を起こして自滅しそうになっているという点で、重症新型コロナ感染症に類似していると指摘しました。新型コロナ感染症が重症化するメカニズムはウイルスが増殖した肺実質への自己の免疫過剰反応によるサイトカインストームで肺組織が破壊され、呼吸不全に陥ることであることは以前のブログでも度々説明してきました。
コロナ肺炎の重症化とは自己を護ろうとする免疫の過剰反応(サイトカインストーム)が原因
10月7日に約1,200人のイスラエル人がハマスの攻撃で亡くなったとされますが、実際には襲撃したハマスに殺されたイスラエル民間人は少なく、慌てて飛び立ったイスラエル国防軍のアパッチヘリコプターに、「動く物全てを攻撃せよ、一人も生きてガザに返すな」という命令が下されていた結果であることはその後の取材で明確になっています。イスラエル政府が、自国民の犠牲を厭わない(ハンニバル指令)対応をせず、ガザに連行された200人余りの人質の釈放とイスラエルがテロリストとして裁判もせず捕えたままでいるガザ・ヨルダン川西岸地区のアラブ系住民数千人のうち、証拠不十分な者全ての釈放を渋々でも受け入れていれば、イスラエルの国家としての被害はこれほど悲惨なものにはならなかった事は間違いありません。
イスラエルの自滅的行動はアラブ世界の絆を強める結果になっている
アンズ氏が指摘する様に、当時のイスラエルはサウジアラビアとの国交正常化を控えており(逆転した現在、10月2日イラン大統領はサウジ外相と会談し関係改善した)、世界におけるITや先端産業をリードする国でもあり、トランプ氏が大統領になれば一層米国におけるイスラエルの地位が揺るぎないものになっていたはずでした。しかし事件から1年経過した現在、イスラエルは無抵抗のガザの市民4万人を虐殺した言語を絶する戦争犯罪国家であり、戦争の目的であったハマス撃退は達成しておらず、人質も交渉で帰還された人以外ほとんど戻っていません。イスラエルから国外脱出した住民は既に数十万人とも言われ、経済は停滞、既に米国以外で見方になる国はなく、米国内でもネオコン・シオニストの有力者以外は反イスラエルです。おまけに現在レバノンへの侵攻、ヒズボラへの攻撃を開始し、イランとも全面戦争に向かおうとしています。イスラエルはアメリカからの軍事支援でやっと戦争を継続している、病態で言えば重症化した肺炎のために集中治療室でECMOにつながれてやっと呼吸と循環が維持されている状態であるのに、更なる免疫反応で宿主破壊を進めようとしている状態と言えます。
イランが今までに行った限定的攻撃の軍事的意味
イランはシリアのダマスカスにあるイラン大使館がイスラエルにより攻撃した報復に2024年4月13日、ヒズボラに対する軍事攻撃への報復として同10月1日にミサイル攻撃を行いました。これらの攻撃の軍事的意味合いについて、つまりイランとイスラエルが本格的衝突に至った場合にどうつながるか日本で解説したメディアがないので以下に示したいと思います。
イスラエルの重層防空体制
1985年以降イスラエルは米国と共同で狭いイスラエル国土(約2万平方キロ)をハリネズミの様に護る防衛システムの開発に着手し、現在図の様な重層的ミサイル防空システムが完成しています。上図の如く、低層のアイアンドーム(最近はレーザー兵器も使用)、ダビデの投石と言われる中層ミサイル、日本にもあるパトリオット、その高層はアロー2,大気圏外を対象としたアロー3も実用化されています。これらは軍艦の防空システムの様な長距離から近距離へ重層的な防護を統一した指揮系統で可能にしたシステム統合的な内容です。この一見水も漏らさぬ完璧な防護態勢の唯一の弱点は一度に対応できる標的の数が限られている、つまり飽和点がある事です。逆に飽和点が解れば金がかかった割には極めて脆弱なシステムと言えます。
イランのミサイル飽和攻撃
イランは4月13日の夕方、イスラエルに対して神風ドローン170機、巡航ミサイル30発以上、弾道ミサイル120発以上の集中攻撃を開始し、攻撃は5時間続きました。イスラエルはそれらの99%は多層防空システムと同盟国の迎撃で撃墜したと発表しましたが、弾道ミサイル10発程度は目標に到達したことが確認されています。イランは安価で速度が遅いドローンと中等度の速度で到達する巡航ミサイル、そして超音速で飛翔する弾道ミサイルを同時期にイスラエルに到達する様に時間差で発射しました。ドローンと巡航ミサイルは低空から数千メートルの高度を飛翔し、弾道ミサイルは一度大気圏ギリギリか外まで上昇してから目標に到達するので、イスラエル側の統合的レーダーシステムがどこまで対応できるか試した内容でもあります。弾道ミサイルが目標に到達したという事は、ここに防空システムの飽和点(弾道ミサイル100発)があるとイランは確信しました。
イランによる10月1日の約180発ミサイル攻撃は、防空システムの飽和点が既に解っていたため、それに対応する形で行われました。前回程度の数の自爆ドローンや巡航ミサイルは迎撃可能と解ったため使用せず、今回は弾道ミサイルのみで行われました。イランは、精度があまり高くなくコストも安い、低レベルの旧式ミサイルを大量に空域に発射して飽和させ、その飽和した「雲」に乗って目標に到達する、誘導能力に優れた、より先進的な極超音速ミサイルを少数発射する方式を採用しました。しかも多弾頭化やロシアのミサイルにも付いているデコイを発射して目標を複数化するなど、飽和に早期に達する方法を使用したと思われ、目標の3-4か所の空軍基地とモサドの司令部などの各目標に30発以上の命中(到達)があったと見られます。イスラエルは1か所を除いて目標とされる基地の衛星写真を撮らせないようにしていますが、目に見える結果は、広いフィールドにランダムに命中した多数のミサイルと、数発の格納庫などへの正確な命中弾が含まれます。180発のうち、多弾頭化やデコイで300発位に目標数が増やされると、飽和数の100発は撃ち落とされてもミサイルとして有効な150発位が目標に達したと考えられ、計算が合います。正確なミサイルとは主兵器 (エマドやファッタ 2 など) によるものと考えられました。これは同様の方法でその気になればイランは主要なイスラエル内の目標を正確に攻撃できるというメッセージに他なりません。
ネバティム空軍基地に多数着弾したミサイル跡(他にも重要目標の格納庫に着弾)
瀕死のイスラエルは健康体のイランと全面戦争をするか?
10月9日ネタニヤフはバイデン大統領と電話で会談し、イラン石油精製施設と核施設への攻撃の許可を求めたと言われます。しかしバイデン大統領は拒否したと伝えられています。トランプ前大統領は、イランの核施設攻撃(石油ではなく)には賛成しており、本音では米国が関与しない形でイランの核施設が破壊されれば良いと考えているでしょう。表面的にイスラエルに反対しているカマラ・ハリスが大統領になった場合、イスラエル得意の偽旗作戦(1946年のアラブ人に扮したシオニストによるエルサレムキングデビッドホテル爆破とか1954年アラブ団体によるテロをみせかけたイスラエルによるラボン事件、1967年USSリバティ号へのイスラエルによる攻撃、イスラエルの核保有を妨害したケネディ暗殺(疑惑)やイラク侵攻を決定づけた911もモサドの関与が疑われている)で、イランを悪者にした米国内のテロ事件(大統領暗殺とか)を起こして、瞬間湯沸かし器の米国人を直接イランへの戦争に駆り立てる計画を考えているでしょう。陰謀好きでイスラエル人でもある駐日米大使ラーム・エマニュエル氏がハリス氏の補佐役に就くために帰国する位ですから。
私は表面的にイスラエル支援のトランプが大統領になって、イスラエルはイランと戦争させて見殺しにし、歴史の舞台から消えてもらうのが世界のためだろうと思っています。
(補足)
モサドが関与したかもという911の直後、アルカイダの犯人たちの母国サウジアラビアでなく、関係ないイラクへの侵攻が決定された理由について、エクソンモービルのイラク担当責任者からペンタゴンに移籍し、イラクに6年以上駐在したゲイリー・フォーグラー氏の著作「イラク石油戦争の勝者イスラエル」が話題になっています。2003年から2011年の間に、4,489人が戦死し、32,223人が負傷し、2兆ドル以上が米国によりイラクに投下されたにもかかわらず、米国は2024年現在何の利益も得ていない。米国のイラク侵攻はイスラエルの石油確保がその目的であったと解説しています。米国政治がイスラエルによりコントロールされている実態が現在の矛盾に満ちた米国政府の対応から次々に明らかになってきています。
真価が問われる。