昨年もがん治療のトレンドとして癌治療学会の記録をまとめました。昨年はがん治療と栄養、リハビリ、ポストゲノムの応用といったテーマがあったと思いますが、2023年10月19-21日に開催された今年は「遺伝子解析による個別化」のほかには目新しい技術はないものの、幅広くリベラルアーツの視点で未来を拓くという内容だったと思います。会長の慶応泌尿器科教授の大家氏の好みが出たかなと言う内容でした。以下に特別講演として視聴したものを備忘録的に記しておきます。
I. 特別講演「これからの日本」元内閣総理大臣 小泉純一郎
前回慶応の大家教授が主催した泌尿器科学会総会でも細川元総理の講演があって盛況だったのですが、今回は慶応の先輩でもある小泉氏を引っ張り出して「これからの日本」と題して講演。1/3位入れば盛況のメイン会場が、通路が立ち見で埋まる程の盛況になりました。内容は80台を迎えて活舌もやや衰えてはいましたが、1)原発廃止、ドイツが廃止できるのになぜ日本はしないのか。豊富な地熱や風力、太陽光で代替えするべき。産廃規制は厳しいのに原発廃棄物は緩いまま。2)戦争反対、若者を戦場に送ってはいけない。第二次大戦は無謀で無益だった。3)アメリカ万歳、米国に占領されたのは、他国(ソ連とか)でなくて良かった。(まあ異論はないものの負の面も余りに多いし、いいかげん「占領」は終わるべき、という視点がないのはブッシュの前でプレスリーを踊る芸風から致し方ないかなとrakitarouため息)4)日本は世界に雄飛すべき、日本の食や文化は世界に受け入れられている。もっとそれを生かして日本の良さ、思想を広めるべき。(これはその通り)5)常に勉学は続けよ、座右の銘で佐藤一斉の名言『少にして学べば、則ち壮にして為すこと有り、壮にして学べば、則ち老いて衰えず、老いて学べば、則ち死して朽ちず、』を実践している由。これもその通りと思いました。
II. 世界観講演「からだ」と「こころ」をつなぐ 作家・臨済宗住職 玄侑宗久
これはrakitarouが泌尿器科総会の企画時に、大家教授に「市民公開講演」として慶大出身の玄侑氏の講演を提案したものを今回の癌治療学会で実現(市民講演ではなかったですが)した内容だったので是非聞きたいと思っていたものです。氏は医学的知識も豊富なので現代医学と日本人的な死生観について、話が聞けるとよいと思っていました。今回は「医師」を対象とした講演だったので、やや専門的な「身体」「こころ」「脳」と「仏教的認識論」の内容でした。「瞑想」は意識を大脳から切り離すことで間脳や辺縁系への大脳からの刺激を開放する作業、からだの各部分への気遣い(意識をあえて向ける)によってからだの悲鳴である「やまい」(やまいの高じた「がん」も)防げるのではないか、という内容。瞑想の実験として白紙に書かれた黄色い四角が二重にみえる状態を保つと中央に紫の物体が浮いてくる、というものや、食べてすぐ寝るのは身体を働かせたまま意識を向かわせない「やまい」のもと、といった話は興味深いものでした。
III. 世界観講演 春画にみる養生・身体・笑い 京都芸術大学 石上阿希
体位に無理があるし、しかもモノが顔と比較して大きくないすか?という図 大英博物館の春画展、入口にこんなの掲げて大丈夫?という図
予想外に面白かった講演。日本の江戸期前後春画の特徴は、1)顔と性器が同じ大きさで無理な体位で描かれる2)男女の性が同等に描かれ、どちらも喜悦風3)LGBTQ何でもあり4)下劣とされながら家宝でもあった5)版画は、当時の印刷技術の粋を尽くしている6)性と健康を結ぶものや風刺、笑いに結ぶ内容もある7)性と怨念、霊を描くものもあり、庶民の心情も表していた。明治以降忌むべきものとして顧みられなかった日本の春画を見直す事で、2013年に大英博物館で春画展が開催され、R指定ながら入場制限が出るほどの大盛況を博し、特に2や3、7といった特徴が、宗教的タブーの多かった西洋絵画にない魅力として受け入れられた。通常の展示と異なり、男性よりも女性の入場者が多かったといった紹介がありました。これらの特徴を表す春画のスライドでの例示も楽しいものでした。対をなしたのがyou tube「オトナの教養講座」で有名な「お尻博士」山田五郎の世界観講演「西洋絵画に見る医療」だったのですが、19日は参加しなかったので残念ながら聴講できませんでした。
IV. 未来先導講演 経済キャスターの現場から 経済キャスター 小谷真生子
4年間日航のスチュワーデスを務めて退社後いきなりNHK看板番組のメインキャスターになり、「ニュースステーション」や「ワールドビジネスサテライト」等でメインキャスターとして活躍、世界経済フォーラム(WEF)の国際メディアカウンシルのメンバーでもあるという「ダボス会議・グローバリズム側の申し子」的な存在。地方短大卒の女子が「どこでそちら側に徴用されたの?」という興味で聴講。しかも講演内容は「なぜ私はこうなった?」というものでした。結論的には、運と努力・実力と思いましたが、スチュワーデスになる目的が世界をただでビザ取得の上見て回れる事であり、メディアの仕事をずっとしたかった。父がNHKの報道部で海外勤務であり、ソ連崩壊や天安門の時も日航職員として現場を体験できた。ユーゴ内戦の取材や阪神の震災でヒトの死に直面して「現場報道よりも金融経済」の面で身を立てたいと決心してそちらの道で頑張るうちにこうなりました、という内容でした。経済界とWEFとのつながりを考えると経歴も納得でしょうか。「子育ては女性の社会進出と同等以上に貴重な仕事」人生100年の時代に女性が子供を産んで育てられるのは始めの2-30年しかないことを自覚して人生設計をすべき、という主張は「どの口が言う」と攻撃されてしまうけど私の本音です、と自身の出産経験を踏まえて話したのは印象的でした。
V. 教育講演2 がん治療の医療経済評価 慶応義塾大学 後藤 励
通常新たな医療技術は1だが、2の技術も大事
これは本来の医学的内容で勉強するべきもの。新しい薬剤の薬価を決める時に中医協などに資料を提出する際の検討事項などを実際に大学でいかに中立な立場で検討するかについての講演。演者は京都大学医学部を卒業して経済学部大学院に進み、医療経済学の専門家として慶応の経済で教鞭を執るという異例の経歴を持つ貴重な存在で私としても勉強になりました。知ってはいましたがICER(増分費用効果比)とQALY(質調整生存年)を考慮して、増分費用効果比が通常話題にならない図の第二の象限、(つまり費用が減ってしかも医療の質はあがる)につながる「がん治療のoff ramp strategy」(薬の上手な止め方)について近々講演しようと思っているので大いに参考になりました。
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