2023年10月のブログです
*
田部重治さんの『わが山旅五十年』(1996・平凡社ライブラリー)を読む。
もう何回も読んでいるが、読むたびに明治時代から大正、昭和の日本の山歩きを楽しめる本だ。
田部さんは、ご存じの人も多いかもしれないが、漱石門下の英文学者で、大学で英文学を教え、ワーズワースさんの詩などを研究されたかた。
そのかたわら、山の仲間と秩父の山歩きから始めて、日本アルプスなどを踏破し、日本山岳会の草創期のメンバーのお一人だったかたでもある。
秩父の山歩きや日本アルプスの山登りなどの記録を記した田部さんの『山と渓谷』(新編・1993・岩波文庫)は日本の山の古典として有名だ。
本書は、その田部さんの、自伝を含めての山歩きの記録で、興味深い。
田部さんの文章は、英文学者なので当然かもしれないが、単なる山登りの記録ではなく、山歩きの美しさに読者をいざなってくださるところがすばらしい。
文章が快活で、しかし、潤いがあって美しく、読んでいて、こころが落ちつくような感じがする。
50年にわたる山歩きは多岐にわたるので、どこを読んでも十二分に楽しめるが、じーじの個人的には、笛吹川の沢登りや薬師岳の高原での思い出が大好きだ。
リュックサックやテントがまだなかった時代に、ござや油紙を体に巻いて寝たりするところにはびっくりする。
そういう時代の山登りや山歩きの記録がとても貴重で、楽しい。
そして、こころ休まる。
たまには、こういう山歩きを追体験してみるのもいいかもしれない。 (2023.10 記)
*
同日の追記です
岩波文庫の田部重治『山と渓谷』(新編・1993)の編者である近藤信行さんの解説を読んでいたら、田部さんの東大英文科の卒業論文がなんと、キーツさん、らしい。
まったくの偶然だが、自然の美しさを謳い、人生を考える田部さんの文章に、キーツさんやワーズワースさんが影響を与えているのかもしれない。