弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

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【弁理士試験】合格発表【短答式】

2014年06月18日 18時48分05秒 | 趣味・その他諸々の雑記
今年も、厳しかったようですね。

受験者数が   4,674人、
一次試験合格者数が、550人
合格率=11.8%

今年は受験から合格発表までがだいぶ間があいており、やきもきした方もいらっしゃると思います。

ともあれ、突破された方、おめでとうございます。
論文がすぐ目の前です。ラストスパート頑張ってください。

残念な結果だった方、今後も知財業界でやっていくのならば
これまでの努力は無駄にはなりません。
いったん立ち止まって振り返り、また進んで行ってください。


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「森の図書室」に関する考察

2014年06月18日 10時17分51秒 | 実務関係(著作権・価値評価・周辺業務)
おはようございます。
Facebookで知人のツテでこんなビジネスが始まろうとしていることを知りました。

森の図書室

自分の家のようにリラックスした時間を過ごせる夜の図書館、
コンセプトにはとても魅力がある。

のだけれど、気になるのが権利処理の部分。
この点、FB上で色々な議論がでていたので、自分の頭の整理も兼ねて
“答案構成”してみた。

※本エントリは、「森の図書室」事業者さま、出資者さま、その他関与される方の
 利益を損なうことを意図するものではありません。
 むしろ魅力ある事業を恙無く進めていくために欠かせないコンプライアンスの観点から
 コメントするものです。
 それでもなお何らかの不都合ある場合、コメント経由でご連絡ください。
 検討の上必要に応じ修正、削除いたします。
※また一定の調査に基づいて作成していますが、自ずと入手可能な情報には限界があり、
 前提が事実と異なる点もあるかもしれません。
 その場合ご指摘いただければ幸いです。再検討の上再アップするか削除を検討いたします。


ということで、、、

【事案】 クラウドファンディングで資金調達し、渋谷に
 「飲食店兼私設図書館」を開設。
(事業内容)
・ 会員制を採用、会費を徴収
・ 飲食物の対価を徴収
・ 書架の書籍閲覧、貸出自体には対価発生せず
・ 書籍について、「貸出」を行う


【法的に問題あると思われる点】
1.形式的な著作権侵害該当性について
(1)「書籍」は、著作権法の保護対象となる「著作物」
(2)「著作権」は、創作の時点で著作者に帰属。「著作権」は“権利の束”。個別に処分可能。
  だから「貸与権」だけを譲渡しても良いし、貸与についての許諾を行っても良い。
(3)本事業では、著作権者との間で「貸与権」に関する契約を何ら行わないまま(と思われる)
  書籍の貸与を業として行おうとしている。

 ⇒少なくとも形式上、著作権侵害に該当する。
  ※なお、経過措置については平成16年6月9日法律第92号(附則)で以下の通り規定され、旧来から存在した貸本業への新規参入の道は事実上閉ざされている。

(書籍等の貸与についての経過措置)
第四条  この法律の公布の日の属する月の翌々月の初日において現に公衆への貸与の目的をもって所持されている書籍又は雑誌(主として楽譜により構成されているものを除く。)の貸与については、改正前の著作権法附則第四条の二の規定は、この法律の施行後も、なおその効力を有する。


2.制限規定該当性について
 「著作権」には制限規定がある。問題となる制限規定は、著作権法第38条第4項。

<著作権法第38条第4項>
公表された著作物(映画の著作物を除く。)は、営利を目的とせず、かつ、その複製物の貸与を受ける者から料金を受けない場合には、その複製物(映画の著作物において複製されている著作物にあつては、当該映画の著作物の複製物を除く。)の貸与により公衆に提供することができる。

<本事案が上記制限規定に該当するか?>
「営利」は判例上広く解釈されている。

38条1項の「営利」に関する解釈について(判例百選63(H15(ネ)233)判旨より)
「これは、公の演奏等が非営利かつ無料で行われるのであれば、通常大規模なものではなく、また頻繁に行われることもないから、著作権者に大きな不利益を与えないと考えられたためである。」

⇒4項の「営利」について異なる解釈を行う合理的理由がない。
 本事案において、書籍の貸与が顧客を吸引する主たる要因になっていることは明白であり、例えこれについて直接対価が発生しないとしても、同じ空間における飲食物の提供は営利を目的としていること、会員制として徴収している会費は書籍の調達維持の他運営者の収益となっているものと考えられる点を踏まえれば、「営利を目的とした貸与」にあたる(或いは、徴収している会費は「複製物の貸与を受ける者から」受ける料金に該当する)。

 したがって、38条4項には該当しない。

3.消尽の余地はあるか?
 譲渡権については「消尽」が明文上規定されている(26条の2第2項1号ほか)。
 しかし貸与権にはかかる規定はない。これは、「消尽」が原譲渡人たる著作権者の二重利得の機会を排斥するとともに取引の安全を図るものであるところ、貸与についてはかかる要請がないからである。

 したがって、消尽の余地もない。


4.図書館であるがゆえの免責はあるか?
 図書館法2条1項に規定される「図書館等」は、蔵書の維持を目的とした複製、アーカイブ化を認められている他、「公表された映画の著作物」を公衆に貸与することができる。ただし補償金の支払いが条件である(著作権法第38条第5項)。

 しかし、書籍の著作物について、38条4項以外に特段図書館が免責される規定はない。
 まして、本事業は「図書室」を称しているものの、図書館法2条1項にいう図書館にはあたらない。

 よって本件については考慮の余地もなく、本事業の適法性の根拠になり得ない。
 却って、「公共貸与権(公貸権)」が出版不況の昨今取りざたされており、公共図書館ですら補償金を負担すべきとの議論がある点は留意すべきである。

5.小括
 本事業は、形式上著作権侵害に該当し、制限規定にも該当しない。
 したがって権利侵害の責めを負う懸念がある。


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もっとも、ベンチャーである以上一定程度のリスクは織り込みながら展開しているかもしれず、
或いは補償金方式で解決しているのかも知れません。
このあたりは、入手可能な情報からはなんとも言えません。


コメント (4)
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