弁理士『三色眼鏡』の業務日誌     ~大海原編~

事務所開設12年目!
本ブログがKindle本に!「アマゾン 三色眼鏡」で検索!!

[01-02]模倣は「悪」か? (その1)

2015年10月19日 10時35分53秒 | 実務関係(商・不)
おはようございます!
ムスメの運動会明けでビミョーにヘンなところが筋肉痛な月曜の朝です。

さて、ようやくほとぼりも冷めてきた?「五輪エンブレム騒動」、
そうかと思ったら今度は東京ブランド公式サイト「&TOKYO」周りがゴタゴタしています。


曰く、
・フランスの眼鏡メーカー「Plug&See」のロゴに似ている
 ※同メーカー、東京都にロゴ譲渡も考えている、なんて書いてありますね。
・ニュージーランドの法律事務所のロゴ「JONES&CO」に似ている
など。

議論のポイントを以下に列挙します。
① デザイン作成にあたって「模倣」したのか
② 結果物は、本当に「類似」しているか
③ デザイン/調査について、費用対効果の面で妥当性はあるのか
④ デザイナー選定の基準/過程は適正だったのか
⑤ 東京ブランドとして本デザインはふさわしいのか

①➡ これは、詰まるところ本人とその周り以外にはわかりませんよね。
ただ通常、デザインを生業とするプロだからこそ、一般人と比べてより多くのデザインに触れる機会があり、
いわゆる“経験値”は高いとは言えるでしょう。そ
うした経験が澱のように積み重なっていきそのデザイナーの「創作」(敢えてカギカッコをつけました)の糧となるのだと思います。

逆に、“経験値”が高いが故に、より多くの従来品を知っているデザイナーは、新規なものを生み出さなければならない、
という思いと保有している経験値とのジレンマに苦しむことになる、のではないかと想像します。

また、デザイナーにどこまでの“注意義務”を要求するべきか、という面はあると思いますが、
世の中にある全てのプロモーション・コンテンツ・アウトプットを網羅した上でデザインをしろ、というのは
クリエイターにはあまりに酷なように思います。

一方で、これだけ検索ツールが普遍化している時代にあっては、かつてと同じような職人気質をもって
“オレが考えたものだからオリジナル。結果的にカブっていようが関係ない。”
というスタンスで事に臨むというのもまた、あまりに無防備でしょう。
実際のところ、デザイン会社が納品前にどれだけきっちり調査を行っているかはまちまちでしょうが。


②➡ 結果物、を出来上がった「ロゴ」ととらえるなら、
法的な意味において「類似」にはあたらない、というのが小職の見解です
(おそらく多くの専門家が同じ結論に至ると想像します)。

類似、パクリとみる方々の根拠は、
“赤い円に白抜きの& が一緒じゃん” というものです。

しかし、マークとしての類似か否かは、そのマークを使った場合に誤認混同を生じるか否かで判断されます。
単にコンセプトが、とかデザインの要素が、といった点で判断されません。

更に言えば、本件はシンプルな赤丸に&の白抜きからなるところ、
その「&」の文字態様によって観る者に与える印象は大きくことなります。
フランスの件は言うに及ばず、ニュージーランドのものとの関係でも「&」のフォントはかなり異なります。

次に、プロモーションの手法について。
「○○ &TOKYO」のように「&」で他の様々なものとの「繋がり」を表現し展開の多様化を図る、というのは、
そこまで目新しいメッセージ手法ではありません。
が、これが仮にどこかのプロモーション手法として採用されたことがあるとして、それを意図的に踏襲したものであるとしても、
少なくとも法的な意味においては全く問題は無いですし、法的な文脈を離れても同様と考えます。
(プロモーション手法それ自体が特定の主体のものとして需要者に広く認識される程度に至っているのであれば別途検討は必要ですが、
現時点でそうした指摘は見受けられません。)

成功した事例は、積極的に採用すべきでしょう。
その事実=「模倣」という事実それ自体が悪なわけではないはずです。

これは小職自身があちらこちらのセミナーでお話していることなのですが、
「模倣」それ自体に善悪の色はなく、その場面、主体、文脈に応じて考慮すべき規範があり、
その規範に照らした場合に“悪い模倣”もある、ということができるに過ぎません。

もう少し砕いていえば、
本来みんな自由であるというのがベースで、他人の真似したって自由。
ただそれじゃ最初に考えた人に不利益だったり世の中の人が勘違いしたりして社会全体の利益が損なわれたりするから、
一定の模倣行為はしてはいけない

と決めたのが産業財産権法なわけです。
これが法律の規範。

もちろん規範は法律に限られないので、「違法じゃなければ模倣はオッケー」というつもりはありません。
ただ現状言われていることの多くは、「模倣は悪」という歪んだ立ち位置に立って発せられており、それが結構なボリュームなので、すこし窮屈さを感じます。

長くなってしまったので次回に続きます。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする